休日のお誘い。
おお。アリスがクラスメイトの女の子と一緒にいるよ。
いいね。彼女にも、やっと同性の友達ができたようだ。
うんうん。これがいい形だ。やっぱり女の子同士は華があるね。
これでやっと私は、イケメンキャラを愛でるだけの学園生活を満喫できる。
「あ、ラグナさん」
彼女はそう言って、私を見つけるなりこちらに走ってきた。
えええ。なんでえ? そんなに私に構ってくれなくていいのに。
傍にきたアリスは、いつもと変わらない笑顔。
屈託ない透明感のあるその笑顔は、見る者を爽やかな気分にさせる。
「あの友達は、よかったんですか?」
「あ、はい! とっても良い人で、仲良くなったんです」
すごく嬉しそう。
この子、聖女と呼ばれるに相応しい美しさだけど、中身は無邪気で可愛いんだよなあ。
そんな彼女の表情が、急に真剣な顔つきに変わった。
「あ、あの……。あの人と、何かありました?」
あの人というのは、生徒会長のことだろう。
何かあったかと聞かれれば、何かはあったのが、そんなこと言えるはずない。
「いやあ、何もなかったよ。ちょっと壊れた壁の確認したぐらいで」
大丈夫。この子は名探偵じゃない。
「そうですか。よかったです」
ほっ。大丈夫だった。私は息を吐いて、胸を撫で下ろした。
彼女も、私が罰を受けるとかじゃなかったことを、よかったと思ってくれたみたいだ。いい子だなあ。
生徒会長のミラ。彼女も名探偵ではなかった。そして、別の転生者でもなかった。
単純に、観察眼に長けた鋭い人物というだけだったようである。
彼女には、強さの理由、強さを隠したい理由など、一通りの事情は説明させられてしまっていた。
あの瞳で覗き込まれると、何もかもを見透かされている気になってくるのだ。
とは言え、流石に自分が転生者であること、隠された闇魔法が使えることなどは言っていない。そこは絶対秘密だ。
私の強さの評価も、だいたい上級生ぐらいという所で落ち着いている。
「事情はだいたい理解した。心配するな。特に騒ぎにするつもりはない」
そんな風に、ミラは私の事は内緒にすると言ってくれた。剣を交えたのは、ただ興味があっただけということらしい。
ひとまず安心だ。
でも、彼女の去り際の笑顔。あの笑顔には、なんだか嫌な予感がした。
「ところでラグナさん。今度の休日、暇ですか?」
なんだろう急に。まさか、バイトを変わってくれ的なあれか?
「先ほどの友人の家が雑貨屋だそうで。遊びに行こうと思ってるんですけど、一緒にいかがですか?」
違った。
雑貨屋かあ。ゲームには出てこなかったお店だ。いったいどんなお店だろう。
しかし、ここで一緒に行っていいものか。
このままでは、また好感度が上がってしまうのではないだろうか。普通は逆だけど。
いやでも、大丈夫か。友達も一緒らしいし。
何より私は、雑貨が大好きなのだ。前世でも色々な雑貨を集めていたっけ。よし、行ってみよう!
「面白そうですね。行きたいです」
「よかったです!」
うう。相変わらず、笑顔が眩しいぜ。
* * * * *
「こちらクラスメイトのウェンディさんです」
「よろしくお願いします」
アリスに紹介されて、栗色の髪の少女がペコリと頭を下げた。
素朴な感じの子だ。きっといい子に違いない。
「よろしくお願いします。私は――」
「ラグナさんですよね。有名なので、知ってます」
どゆこと? 何も有名になる要素ないはずなのに。
「それじゃあ、早速行きましょうか」
私たちは、ウェンディの家である雑貨屋に向けて歩き出した。
こんな方向にあったのか。ゲームではワープポイントも無い場所だったのであまり来ることは無かった場所だ。
狭い通りに、レンガ造りの建物が並んでいる。
ここはどこの異国? まさしくファンタジー感あふれる街並みで、建物はみんな統一感のあってとても綺麗だ。家が押し込まれるように並んでいても、雑多な感じがまったくしない。
「着きました。ここです」
そう言ってウェンディが手を伸ばした先には、レトロな感じの雰囲気のいいお店があった。
「わああ。可愛いいい」
アリスの目が輝いている。まるで瞳の中に、星を飼っているようだ。
確かに可愛いのは間違いない。アリスの意見に完全同意する。お店の軒先には木製の看板が掛かっていて、それがまた雑貨屋って感じを高めている。まさしく物語に出てくるようなお店だ。
乾いた木の扉を開くと、可愛い鈴の音が店内に響いた。
これこれ。この音を聞くと、なんだか気持ちが軽くなってくる。
店内に足を踏み入れれば、木の床が軋んで軽快な音を立てる。
ああ。そういえば、こんな所で働きたいと思っていたなあ。前世は面接、落ちたなあ。
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