魅惑の美女、ミラからの誘い。
「昨日のって、色々あってどれのことですかねー?」
私はご飯をパクパク食べながら、宙に目を泳がせた。
「昨日のあれは、ラグナさんは無理やりやらされたんです! なので、なんの責任もありません!」
さすがアリスさん。
そうなんですよ。私は悪くない。なんにも悪くないんですう。
「わかっているわ。別に責めようと思ってるわけではない。少し、君に興味があったのだ」
妖艶な瞳が私を捕らえる。
こんな美女が、私のどこに興味を……。私の強さはバレてないはずだよね。嫌な汗が体を伝う。
「私は、なんにも面白い所の無いただの学生ですよお。生徒会長に興味を持たれるような者では――」
「ほう。君は、私が生徒会長だと知っているのか。……流石だな」
しまったあああ! 普通はまだ知らないのか?
いや。これは流石に誤魔化せるでしょ。確信した。
「美人の生徒会長って有名ですからね! 誰もが知ってますよ!」
「……私は知りません」
なんでここはフォローしてくれないのアリスさん。
「情報にも敏感ということか。それに昨日のあの戦い」
敏感というか、知っていただけというか、この人はいったい何を言いたいんだろう。
「あのー、昨日の話なら、勝負に勝ったヴァン王子の話を聞いた方がいいのでは?」
「ほう。いいのか? ここで話をしてしまっても。君の昨日の動きを見るに――」
「ああ、そうですね。話しましょう。ぜひ話しましょう!」
だめだ。この人は、知ってはいけないことを知っている。そんな気がする。
「ということだ。少し彼を借りてよいだろうか」
ミラはそう言って、なぜかアリスに向けて確認した。
私の都合は聞いてくれないの?
「べ、別に私に聞かれても。ラグナさんが良いのなら」
ですよね。
ふとミラの手元を見ると、さっきまでプレートに乗っていた出来立てご飯が消えていた。
いつ、食べたんだ?
私は、また訓練場に来ていた。
「さて、準備はいいかな?」
まったく、どうしてこうなってしまったのか。
目の前には、さっき会ったばかりの女性。生徒会長のミラさんは、その手に握った木剣を眺めている。
「さあ、始めようか」
銀髪の美女は、その木剣を構え飛びかかってきた。
訓練場に、乾いた音が鳴り響く。
ミラは私に向かって、無言で木剣を振り下ろし続けた。
彼女が何を考えているのか分からない。
昨日の戦いの現場検証でもするのかと思ったが、ここに来た途端に木剣を渡されて、そのまま暫く二人で打ち合っている。
時折もれる微笑みが、美しいのになんだか不気味だ。
これ、いつまで続くんだろう……。
それにしても、彼女の剣術、上手だな。
これでも私は、魔法だけじゃなく剣術も使える。
やっぱり最強を目指すなら、魔法だけじゃ足りないよね。
本来ラグナは槍を使うキャラだったのだが、私は剣を選んだ。だってカッコいいから。
そして魔法と一緒に、剣術もカタリナに教えてもらっていたのだ。
なんでも出来るカタリナさん、いったい何者? いまだに彼女の正体は不明だ。
まあ、そんな私から見ても、ミラの剣術はとても上手い。
何年も修業した私ですら、彼女の剣を捌くのは中々簡単ではない。
この世界では、幼少期から鍛錬をするという行為は稀だ。大体、十三歳ぐらいから少しずつ始める人が多い。
だがミラの剣術は、ここ数年で得られるようなものではない。きっと彼女も、以前からずっと鍛錬をし続けてきた人なのだろう。
「なるほどな」
剣を下ろしながら、ため息まじりに彼女が言った。
「なるほどって……」
「君、なぜ強さを隠すんだ?」
「えええ? 何のことでしょう!?」
やばい。やばい! やばい!!
この人、鋭すぎる。なんで分かったんだ? やっぱり知的な見た目通り、なんでも見通してしまうキャラなのか?
わかった。カマかけてるんだ。きっとそうだ。
だとしたら、知らんぷりを続ければ。
「昨日の戦いの時、魔力で体を覆っていただろう。それでまったく攻撃が通っていなかった。それを誤魔化すために君は壁に向かって飛んだが、その力が強すぎたために壁が壊れてしまった。決してあの王子の力では無い」
なんてことだ。この人、まるっと全部お見通しだ。
なんで? 名探偵? もしや、この人も転生者とか?
……ありえる。他の転生者がいる展開、とてもよくある。
「あのお、あなたは一体……?」
「君は、あんなので誤魔化せると本気で思ったのか? 今の剣捌きもそうだが、不自然すぎて普通わかるぞ」
なんだって!? 役者並みの完璧な演技のはずだったのにい。
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