早すぎる出会い。銀髪の美女。

「ラグナさん! 体は大丈夫ですか? 今日は休んでいたほうが……」

「大丈夫。特にどこも怪我してないし」


 心配そうな顔でアリスが言った。


「あんな派手に吹き飛んでたのに、怪我がないって……」

「いやいやいや。きっと王子が手加減してくれたんですよ」


 ヴァン様の魔法は、まったく効きませんでした、なんて言えない。


 昨日行われた彼との勝負は、満場一致で私の負けとなった。

 我ながらいい負けっぷりだ。誰も私のことを疑っていない。


「でもさ、火魔法なのになんか効果ちがくなかった?」


 そんな疑念も上がったが、まあなんとか誤魔化された。


「あいつ、来てるぜ」

「死んだと思ってたわ」

「よく来れるな。まだ聖女を連れてやがる」


 教室に入ると、いくつものヒソヒソ声が耳に入った。

 みんな完全に聞こえるように喋っている。うーん。こういう状況も懐かしいな。


「聖女の君、まだそんな奴と一緒にいるのか」


 目の前には、金髪のイケメン。ああ、朝からヴァン様が見られるとは。

 これはもう脳内で拝むしかない。


「そんなインチキ野郎は、もう放っておいたほうがいい」


 彼はそう言いながら、アリスに向かって手を差し出す。そして同時に、何故か前髪をかき上げた。

 コテコテの仕草だなあ。でも、それがいい。ヴァン様なら許される。


「ラグナさん。行きましょう」


 アリスは私の手を取って、奥の席へと歩き出した。


 えええ。完全にスルー!?

 この子、すごいな。立場が逆だったら、きっと私にはこんな行動できない。

 すごくありがたいのだが、やっぱり申し訳ない。


「あの、アリスさん……」

「無理やりラグナさんを戦わせておいて、あんな言い方許せません」


 ええ子や。聖女がこの子で本当によかった。

 アリスに転生したかったなんて思っていたが、私なんかが入っていいキャラじゃなかったんだ。そうなっていたら、きっと欲望にまみれてしまっただろう。


「はーい。授業はじめますよ。ヴァン君、なにしてるの?」


 ヴァン様が置物のようになってる。

 はああ。一先ず授業の準備を始めますか。




 やっとお昼だ。さあ、学食に行こう!

 学食なんて使ったことなかったから、なんか楽しい。前世はお弁当だったんだよなあ。しかも、ここ美味しいし。


「ラグナさん。あっちに座りましょう」


 アリスはお昼も一緒にいてくれる。これでボッチ飯は回避だ。


「はわわわあ!」


 なんだなんだ? 食堂の中に、突然奇声が響いた。

 見るとそこには、今まさに昼食をぶちまけようとしている少女の姿があった。


 危ない。私は咄嗟に風を操って、今まさに地面に落ちようとしているランチセットと、ついでに倒れそうになっているその子を支えた。

 なんとか間に合った。こんなおいしい食べ物がダメになったら勿体ない。


 どうやら私だと気づかれなかったようだ。少女はなにが起こったら分からず、辺りをキョロキョロしている。


「ラグナさん。今の……」

「あの子、運動神経いいですねー」


 こっちも誤魔化しておかないと。


「さあ、食べましょう! 美味しさが逃げてしまう」


 食べ始めて気がついた。ここでも私たちは、他の学生たちから注目を集めているようだ。

 無理もない。昨日はけっこうな人がいたし。みんな早く忘れてくれるといいけど。


「ここ、いいだろうか?」


 誰かが私の前の席を指さしている。こんな私の近くに来るなんて、物好きな人がいたものだ。


「はい。どうぞ……」


 って、ええええ!

 この人は、生徒会長のミラではないか。ゲームで数少ない、名前持ちの女性キャラだ。


 少し青みがかった流れるような銀髪。それはまるで清流のように透明感がある。

 まつ毛バッサバサで、くっきりとした目。儚げだが、どこか芯の強さも感じられるのは、その瞳がそう思わせるのだろうか。


 美しい。美しすぎる。女神と言われても信じられる。

 でも、なんでここに? アリスが彼女と出会うのは、もう少し後だったはずだけど。


「綺麗な人ですね」


 アリスが小声で言った。ほら、アリスも驚いている。


「君、新入生のラグナ君だろう?」

「うええ。は、はい」


 いきなり名前を呼ばれて、変な声が出てしまった。

 私に用? いったい何の? 何も問題起こしてないはずだけど。


 あ、もしかして昨日の壊した壁のこと?

 怒られるのかな。修理しろとか言われたらどうしよう。


「昨日の一件は見させてもらった」


 やっぱりいいい!

 あれは事故なんですう。ちょっと強く飛んでしまっただけで、悪気はなかったんですう。

 どうか寛大な処置を! 私は心の中で念仏を唱えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る