よくある展開になっちゃいました。
「おい! いつまで黙ってるんだよ」
取り巻きが囃し立てる。
いつの間にこんなに集まっていたのか。ヴァン様しか見ていなくて気づかなかった。
なんか私、ヘイト高い気がする。なんでだろう。
「な、なんなんですか、あなたたち。ラグナさん、困ってるじゃないですか」
アリスがそう言って、私を庇うように前に出た。
なにこの子。天使か何かか?
外見は変わっても、中身は中々変えられないかあ。
女の子に庇ってもらうなんて情けないな。
「君、そんな妖しい奴と一緒にいないほうがいい。さあ、こっちに来るんだ」
アリスに向かって差し出されたヴァン様の手。ああ、その手を私が握りたい。
「そんな風に、寄ってたかって責めるようなことを言う人たちとは一緒にいません。私はラグナさんと一緒にいます」
アリスさん、なんていい子。涙出そう。
でもそんな風に庇ってもらわなくても。彼女には向こうに行ってもらったほうが、この後の展開が広がるのに。
「君は光の属性を持つ聖女だろう。だからってそんな奴を庇うことなんてないんだ」
「私は聖女だとか、そんなこと考えてません。私は自分で選んでラグナさんといるんです!」
「そんな。君はなにか弱みでも握られているのか!?」
「そんなことはありません!」
アリスの意外な姿。こんな風に言い合ったりするんだ。聖女って、もっとおっとりして静かなイメージだった。
おっと、そんなことを考えている場合じゃない。彼女がこんな形で、クラスの人たちと敵対するのは良くない。私がなんとかしなければ。
「納得いかない。おい、お前。俺と一対一で勝負しろ!」
そうそう。勝負してはっきりさせるとかね。って、ええええ!?
何を言い出すんだこの王子は。そんなことして、いったい何になるんだ。
「ヴァン王子の火魔法に敵うわけないっすよ」
「でもあいつ、誰も壊せない的ぶっ壊してなかったか?」
「あれはまぐれだって。どうせ魔法防御の付与を忘れてたんだろ」
「そうだよ。そんなことあるわけないし。ヴァン王子、一回痛い目見せたほうがいいですよ」
なんだか周りが団結し始めてしまった。
「よし、決まりだ。お前の化けの皮を剥がしてやる。逃げるなよ」
こっちはこっちで、勝手に決まってしまった。
よくある展開。でもゲームにはなかった展開。どうしたらいいか分からない。
「せいぜい奮闘してくれよ」
彼は小物のようなセリフを言い残して、その場を立ち去っていった。そして、他のクラスメイトもいつの間にか消えていた。
ヴァン様の後ろ姿に見入ってしまっていたというのは内緒だ。
「いったい何なんですか、あの人たちは」
アリスの頬が膨れている。そこはほんのり桃色で、まるで饅頭のように柔らかそうだ。
「なんでそんなむきになるってるの? アリスさんは他の人たちとも仲良くなったほうが……」
「だって、あの人たちひどいじゃないですか! ラグナさん、すごかったのに」
あまりそういう印象もってもらいたくはないが、正直嬉しい。一人であんな大勢に囲まれたら、確実に泣いていた。
しかし、聖女ってやっぱりいい人なんだな。プレイヤーとして操作していた時は、私の欲望のままに動いていたのに。なんだかごめんなさい。
私は心の中で、目の前の少女を拝み倒した。
「それに、私はもっとラグナさんと仲良くなりたいです」
「え、なんで? 私といても、なんにもいいことないですよ!」
「そんなことないです! なんていうか、その……」
えええ、いったいどこでそうなった? ラグナルートに入る要素あった?
「私、自分の持ってる魔力のおかげで、あんまり人と仲良くなれなくて。あの日……、ラグナさんと初めて会ったあの日。私すっごく楽しかったんです。たぶんラグナさんは、私のこと何者とも知らなくて。あの日、楽しかったー。学園に来ても、私のこと知っても、ぜんぜん変わらなくて」
すみません。最初から知ってました。
「ふふふっ。なんだか、恥ずかしいですね」
「いや、そんな……」
これ、なんてボーイミーツガール?
なんてことだ。やっぱりあの日、始まってしまっていたのか。本編が始まる前にこんなことがあるなんて聞いてないよ。
いやでも、まだ焦る時間ではない。なんかアリスは、恋愛漫画とかでよく聞く動機を語っているけども、会って数日の男にそんな入れ込むはずがない。
だって、攻略対象へ告白するイベントのタイミングって、もっと後だったもん。きっと好きになるまで時間がかかるタイプだ。
なんとかこのまま、いいお友達でいられる方向に持っていかなければ。でも、これからどう行動するのが正解だろう。
はああ。選択肢が出てくれる世界に転生したい。
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