力を隠して普通を装え。
午後は魔法の実技だった。
いきなり魔法の授業というものではなく、まずは皆の力を見るというのが目的のようだ。
はいはい。あれね。
異世界転生のテンプレ展開きましたわ。
悪気も無く大魔法をぶっ放して、周りを驚かせるやつ。もしくは手加減したつもりなのに、やりすぎちゃって注目を集めるやつ。他にも、あんな展開やこんな展開……。
「名前を呼ばれたら前に出るように。まずは……、ラグナ君」
ちょっ! いきなり私?
心の準備ができてないよ。でも、問題ない。まだ焦る時間じゃない。
どうすればいいのか、私は知っているぞ。
今の私は、他の人たちよりかなり強い。でも別に、その力を誇示したいわけじゃない。もちろん俺ツエー展開なんて求めていない。ただ、ラグナというキャラを最強にしたかっただけだ。かっこいいから。
だからやることはたった一つ。
私は本当に弱いということを、みんなに見せるのだ。
そうすれば、いづれアリスも幻滅して去っていくだろう。
そうして私は、草むらからイケメン達を眺めるだけの雑草と化すのだ。
やってやろうじゃないか。私はそこいらの異世界転生とは違うのだ。
「それじゃあ、あの的に向かって魔法を撃ってみて」
目の前に並べられた、人型の人形。どうやらそれが的のようだ。
これは、あれね。全部壊して、やっちゃいましたってやつ。
よしよし。これなら大丈夫。一体だけを壊すようにすれば……。
正直、一番手というのには焦った。他の人の強さに合わせようと思っていたが、まさか誰も参考にできないとは。
私は、手のひらに魔力をそーっと集めた。強すぎないように、強すぎないようにっと。
風魔法<ウインドシェル>
風の塊が、的に向かって飛んだ。よし、だいぶ弱い。これなら。
魔法は目の前の的を一つ破壊した。
範囲も小さく、他の的にはまったく影響ない。
よし! やっ……
「ななな、なんだその威力は!?」
え?
初老の教師が、大げさに驚いている。いやいや、そういうのいいから。
「この的には、練習用に対魔法用の防御が付与されていたのに、どうして」
しまったあああ! そっちか。
ダメだこれ。よくある展開だ。早くなんとかしないと。
「ま、まぐれですよ」
「ああ、まぐれね。そうか、まぐれか……」
なんとか誤魔化すことに成功した。
「ラグナさん、なんですかあれ! すごいです!」
アリスがキラッキラに目を輝かせている。
そんなに騒がないでいただきたい。あれはまぐれ。まぐれなのだ。
「あいつ、何者だ?」
「そういえば、魔力測定でもなんかおかしかったよな」
周りのひそひそ声が聞こえてくる。
なんてことだ。もしかして、誤魔化せてない?
「いやあ、あれはまぐれなんですよ。なんでだろう。なんか的が変だったのかなあ」
私は周囲にも聞こえるように、大きな声で言った。
これでみんな納得するかは分からないが、もう大人しくしておこう。
「私、まだ魔法使えません」
え?
「まだ攻撃魔法使えないんですけど。補助魔法ならなんとか」
ええ?
そんな逃れ方があったのか!
みんなが次々と魔法の試し撃ちをしていくが、的を壊せた人は誰もいなかった。
それどころか、どの的にも傷一つ付いていない。
うーん。ゲームスタート時って、こんなに弱かったのか。
このままではテンプレルートに入ってしまう。どこかで挽回しなければ。
「ラグナさん。他にも魔法使えるんですか?」
「いやいやいや。全然、まったく使えません」
ここは全力否定だ。
まさか全部覚えてますなんて言えるわけない。
「おい、お前」
なんだ? どなたかからお呼びがかかった。
振り返ると、そこにはなんと王子が立っていた。なんてことだ。ヴァン様が私を呼ぶなんて。
これは夢じゃないよね? 呼ばれたのはアリスではない。私だ。彼の目はしっかりと私の方を向いている。
なんて綺麗な瞳だ。そんなに見つめられると、私の心臓がもたない。
「お前、何者だ? あの魔力はなんだ?」
不満そうな口調で、彼はそう言った。
どどど、どうしよう。完全に私のことを疑っている。なんて返せばいいんだろう。
何でもないなんて言って、信じてもらえるだろうか。前世でもこういう人、苦手だったんだよなあ。
でも、かっこいいからヨシ!
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