やらかし厳禁。魔力測定。

「おおお、これは!?」


 周りから、驚きの声が上がる。

 講堂の中は、白い光で満ちていた。


「幻の、光属性!」


 周囲のざわめきが一層強くなった。

 皆、アリスの持つ属性に驚いている。


 無理もない。

 光属性は世界でただ一人、聖女にしか宿らないのだから。


 アリスはこれで皆の注目を集めることになる。

 良くも悪くも……。


 さて、とりあえずこれでアリスに色んなキャラが関わってくるようになるだろう。

 そうして私は、フェードアウトしていくのだ。


「な、なんか騒ぎになっちゃいました」


 恥ずかしそうに、アリスが席に戻ってくる。

 今まで以上に、皆の注目の的だ。


 はああ、いいなあ。

 こうしてアリスは、主人公ロードを着々と進んでいくのだ。


 着々と他の人たちの魔力が鑑定されていく。

 しかし、もう誰も他の人に興味はない。ひそひそ話している人たちは、誰もが伝説の光属性の話をしているのだろう。


「次、ラグナ・クローク」


 やっと私の番だ。

 私は席を立ち上がった。


「がんばってください!」


 アリスがそう言って、小さくガッツポーズをする。

 分かっている。頑張っちゃいけない。


 そう。私は知っている。

 こういう時、目立ってしまうのは良くない。目立ってしまえば、色々面倒なことになるのだ。

 どう面倒になるかは分からないが、それがテンプレというものだ。


 私はいつかのように、透明なオーブの前に立って手をかざした。


 今の私が魔力を込めすぎると、きっとこれは壊れてしまう。

 力を抑えて、他の人たちと同じような輝きに調整する。


「おおおお!?」


 オーブを観察していた教師の一人が、変な声を上げた。


 え!? なにかおかしい?

 注いだ魔力は問題なかったはずだ。私には、なにがおかしいかわからない。


「こ、この、風属性に混じった黒い魔力は一体……」


 そっちか。

 力は抑えられていたが、この世界で隠された闇属性が混じってしまったらしい。

 私は急いでオーブから手を離した。


「あんな色はみたいことない。君は……」


 まずい。なんとか言い訳しなければ。


「えっと、故障。故障ですよきっと」


 私はよくわからないことを口走った。


「そ、そうか。故障か。まあ幻の光属性もあったことだしな。故障もありえるかもしれないな」


 よしっ。なんとかなった。


「ラグナさん、すごいです! なんですかあの魔力?」


 席に戻った私に、アリスが目を輝かせながら言った。


「いや、オーブの故障っぽいよ」

「ええ、そうなんですか? 本当かな。なんか不思議な感じしましたけどね」


 やはり聖女。鋭い。ごまかしきれないか。

 なんとか話題を変えなければ。


「そんなことより、アリスさんの魔力のほうがすごいじゃないですか」

「そんなにいいものじゃないですよ。これのお陰で私は教会に引き取られたんですけど、聖女だって祭り上げられて、みんなとも距離を感じてしまったり……」


 なんだか事情がありそうだ。アリスの表情はどこか悲しげに見えた。


「すみません。変なこと話して」


 アリスは慌てて笑顔を取り繕った。

 彼女にも何かあるのだろうか。ゲームでは自分が操作するキャラだから、アリスの考えてることなんて全然知らなかった。


 でも、知りすぎるのはよくない。

 深くかかわったら攻略されてしまう気がした。


 長い時間をかけて、全員の魔力鑑定が終わった。

 これで今日は解放される。


「それじゃあラグナさん。明日からよろしくお願いします」


 そう言ったアリスの笑顔は、聖女と呼ばれるに相応しく美しかった。

 この笑顔の裏には何があるのだろうか。


 寮の部屋に戻った私は、今日あったことを思い出した。

 とても長く、色んなことがあった一日だった。


 これから私はどうしていこう。

 修業して強くなったが、別に強さを自慢したいわけではない。


 それにしても、ヴァン様かっこよかったな。

 相棒のアシェル様もかっこよかったし。二人並ぶともう最高。思い出すだけで鼻血出そうだ。


 転生したのがアリスだったら、あの間に入ることが出来たのに。

 ラグナとしては、どうやって皆と関わっていけばいいのだろう。ラグナはツンツンしていたので、割と一人でいることが多いキャラだったんだよな。


 攻略対象の誰かと恋人に……。いやいや、今の私は男だ。

 ボーイズラブは嫌いじゃないが、それは外から見ていたいのであって、自分がしたいわけではない。

 かと言って、女の子と恋愛できるかというと、わからない。


 これ、元は恋愛ゲームだよね。

 恋愛できないってどんな不具合なのよ。


 せめて皆と友達になりたいな。

 私はそんなことを考えながら、一日目の夜を過ごしたのだった。

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