出会いのオンパレード。

「やあやあ、美しいお嬢さん」


 不意に誰かに声をかけられた。

 いや、正確には声をかけられたのは私ではない。アリスのほうだ。


 振り返るとそこには、軽薄そうな男性が立っていた。

 そう、このキャラもゲームの攻略対象。その名も、フィンレーだ。


 少し癖のある灰色の髪。意地悪そうな切れ長の目と、薄っすらと笑っているような口元。

 本物のフィンレーだ。かっこいい。


「僕はフィンレー。お嬢さん、あなたの名前は?」

「え、えっと、アリスです」


 フィンレーの圧に、アリスはなんとなく押されている気がする。

 無理もない。ゲームでも彼はこんなキャラだ。


 主人公にグイグイと迫ってくるプレイボーイキャラ。

 初めはただの軽い女好きに見えるのだが、実は彼の背負っているものは重く、それを誤魔化すために周りに軽く見せているのだということが、攻略を進めていく中がでわかってくる。

 そして、意外にも攻略が難しいキャラなのだ。


 そんなフィンレーと、もう出会ってしまった。

 今日はなんて忙しい日だ。頭の中が、もうお祭り状態だ。


 ああ、懐かしい。

 彼が話す過去の話。涙なしには聞けなかったなあ。


「アリス。今から僕と一緒に学園を回らない?」


 おお、流石フィンレー。もう名前を呼び捨てだ。

 そして、彼には私が見えていないらしい。ああ、そんな所もフィンレーっぽい。


「いえ、私はこの人と一緒にいますので」


 そう言いながら、アリスは私の袖を引っ張った。


 なああ! それはそうだけど!

 せっかくのフィンレーとの出会いをおおお。


「へえ、君は?」

「あ、えっと、ラグナです」


 フィンレーの冷たい目が私を捉える。

 なんとなく全身に寒気が走った。しかし……、かっこいい。


 ふっと小さく笑うと、フィンレーは手を振りながら去っていった。

 あああ、行ってしまった。


「ごめんなさい。ちょっとびっくりしてしまって」


 隣では、アリスがほっと一息ついている。

 もったいない気もするが、いきなりあのキャラは確かにびっくりするかもしれない。


「いえ、私こそなにも出来なくてすみません」

「全然! 一緒にいれもらって助かりました。一人だったらどうすればよいか」


 アリスの笑顔が眩しい。

 なぜだか罪悪感が湧いてくる。


「じゃあ校舎に向かいましょうか」


 そうして私たちは、ゆっくりと並んで歩きだした。


 整ったレンガが敷き詰められた道が、ゆったりとうねりながら校舎へと続いている。

 一歩一歩進むごとに、気持ちがどんどん高まっていった。心なしか、床を鳴らす靴の音も高い。


 他の入学者たちが、中庭の景色を見回しながら歩いている。

 色んな人がいるな。これ以上、新たなキャラと出会ってしまうと心臓がもたない。

 落ち着いていこう。


 校舎の中は、また驚きだった。


 外観の壁は石造りだが、中に入ると木材が多く使われていた。

 それでいて古い感じはなく、落ち着いた雰囲気が感じられる。僅かに香る木の匂いも、興奮した気分を落ち着かせてくれる。


 なんていい所。前世で通っていた学校とは大違いだ。


「講堂はこっちでしょうか?」

「そうみたいですね」


 私たちは、まず講堂に集まるよう指示されていた。

 他の入学者たちとともに、流れに従って歩いていくと、無事その目的地に着くことが出来た。


 中は予想以上に大きく、数いる入学者もすっぽり収まりそうな広さだった。

 すでに何人もの入学者たちが、所々の席に座っている。


 あ! あの人はもしや、ディラン!?

 あっちにはマルセスもいる! あっちにも、こっちにも!


 あああ、やばい。ゲームに出てきたキャラクターがいっぱいいる。目がいくつあっても足りない。

 おかげで眩暈がしてきた。鼻血出そう。


「全員、席に座るように」


 講堂内に、威厳のある声が響く。

 あれは、この学園の副校長だ。後ろには校長もいる。


「皆、入学おめでとう。これから校長の挨拶と、各自の魔力鑑定が行われる」


 あー、はいはい。あれね。

 そうしてまず初めに、校長の長い挨拶が始まった。


 長い……。話が予想以上に長い。

 ゲームでは省略されていたが、実際に全部聞くとこんなに長いのか。流石に白ひげを貯えた爺さんの話は嬉しくない。

 周りのみんなもげっそりしている。


 校長の長話もやっと終わり、ようやく魔力鑑定の時間となった。

 この結果によって、大勢いる入学者からクラス分けが行われる。

 アリスはここで光属性ということに驚かれ、皆から注目される存在となるのだ。


 いや、でもこれ、一人づつやるの?

 まだまだ時間がかかりそうだった。


 スキップ機能が欲しい。そう思った。

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