みんなの憧れ闇魔法。

 十三歳になった私は、いよいよイケメンの片鱗が見えてきた。

 まだ顔に幼さは残っているが、手足もスラリと伸びて、背丈はどんどん大人に近づいている。


 そんな自分の姿を、毎日鏡で見てしまう。

 はああ、やばい。これではただのナルシストだ。


 でもしょうがない。

 だってこんな綺麗な顔、何回見ても飽きないのだから。


 さて、今日は大事な一日だ。


 私が調子に乗ったせいで、カタリナが傷ついてしまったあの日。

 私は本当の意味で最強を目指すと決めた。


 それを叶える日が今日なのだ。


 家の者にことわって、私はとあるダンジョンの前に来ていた。

 ほとんど使われていない、低レベルのダンジョン。


 今回は普通に私一人だ。

 流石にかなり強くなったはずなので、以前の様な失敗は無いだろう。


 最早このダンジョンに出るような魔物はワンパンだが、敢えてここに来たのには理由があった。

 私はここに、あるアイテムを取りにきたのだ。


 ゲーム開始時、初期のレベル上げで使われるぐらいの普通のダンジョン。

 レベルが上がれば来ることは無くなる。


 しかし、このダンジョンには秘密があることを私は知っている。

 それは、一度ゲームをクリアしないと分からない、二週目以降のやり込み要素だった。


 私はダンジョンに足を踏み入れた。


 ダンジョンの中は、壁に貼り付いた光苔がぼんやり光って意外にも明るい。

 どのダンジョンにも何らかの光源があるのは、ゲームが元となっているからだろうか。なんだかご都合的なものを感じる。


 そんなことを考えながら、私は最初の分岐を迷わず右に曲がった。

 それからは一本道で、しばらく進んでいくと大きな広間に出る。そこが私の目的地だった。


「わあ」


 口から思わず声が出た。


 広い場所ということは分かっていたが、初めてリアルで見たその場は、思ったよりも広大だった。

 見上げる程の天井、先の遠い向こう側、野球場が一つぐらい入りそうだ。


 この広い空間、普通に訪れると何も見つからず帰っていく場所だ。

 ただの行き止まりか。初めは無駄に歩いて時間を使い、そうやってがっかりしながら帰っていく。


 しかし、ゲームをクリアした時にこの場所の秘密が語られるのだ。

 私はそれを思い出しながら、広間の中を探索し始めた。


「あった!」


 広間の中心から一番大きな岩に向かって歩いていくと、天井にアサガオの模様が見つかる。

 その真下から小さな水場に向かっていくと、そこにカエルの置物が青いてある。

 そのカエルを右に三回、左に二回、さらに右に四回……。


 ……太陽の模様に……その後あれを……こうして……ああして。


 私は黙々と広間の中を歩き回った。


 ……次は……あそこか……。


「これで!」


 広間の奥の壁が、ゆっくりと音を立てて動き出した。

 私は急いでその場所に向かう。


 壁の向こうは、地下に続く細長い階段が続いていた。


「やった!」


 私は逸る気持ちを抑えながら、小走りで階段を駆け下りた。


 先の方がぼんやりと明るい。

 あそこだ! 私は一層足を早めた。


 階段の先の小さな部屋。

 そこには、一つの魔法書が浮いていた。


 普通にゲームをプレイしていたら取ることは無い魔法書。

 プレイヤーキャラの誰の属性でもない、闇の魔法書。


 私はそれを手に取った。

 魔法書から、真っ黒な光が放たれる。その光は、部屋の中を漆黒に包み込んだ。


 やがて黒い光は、私の手の平に集まって小さな星となった。


「これが、闇魔法」


 やった!

 私は、この世界のチート級魔法を手に入れたのだ。


 闇魔法は特殊で、魔法書を使えば属性を持っていなくても覚えられる。

 さらにクリア後に覚えるだけあって、その威力は絶大だ。


 二週目を始めた時に、だいたい推しのキャラに使うのが一般的。

 これによって、そのキャラは本来持っている属性と合わせて、二つの属性魔法を使うことが出来るようになる。


 この世界に二週目があるのかは分からないが、私が最強になるために使わせてもらった。

 誰も知らない設定だからいいよね。みなさん、ごめんなさい。


 普通の人よりも早く修業を始めて、それなりの強さを持っていたが、闇魔法を覚えたことで更に力の上乗せをしてしまった。

 こうして私は、この世界の最強にまた一歩近づいたのだった。


 なんの間違いか悪戯か、前世で女だった私は、この世界では男に生まれ変わってしまった。

 最初はがっかりが過ぎたが、どうせなら最強になってこの世界を楽しんじゃおう。


 私のそんな目標は、予定通り順調に進んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る