説明なんて③

「いやぁーこの舞台ホントに面白いね、私たちのパフォーマンスがこの後かすんじゃうよ…!」

 ということを考えていたら、陽キャの大群がやって来た。アツい。


「先輩ホントに凄いっすね…でも集客は楽そうですね」

「え~ちょっと、そんなこと言っちゃうの~?これで皆舞台終わって全員帰ったら、どうしろっていうのよ~?」

「あ、ホントでしたね!てっきり皆ミサキ先輩を見に来たんだと思ってましたよ」

 陽キャの大群は、前にも見たことがあるバスケ部員達だった


「いやいや!もちろんうちのミサキパイセンが一番であり!そこまでのステージは全てつなぎなんだけども!」

「なんだ~やっぱりそうじゃないですか」

「まぁまぁまぁ理屈の上ではそうなんだけどね、でも油断は禁物だから、地味な私たちは出来るだけ集客頑張るよ~!」

 地味って。だったら私はどうなるの。そんなこと言ったら、私のような身分の者は消えて亡くなってしまう。


 陰キャだか陽キャの区分は難しい。二分するのは簡単だけど、「陽キャの中でも陰キャ寄りの人」だったり、「陰キャの中でも陽キャ寄りの人」だったりと、より緻密に区分するのは難しい。そして、そうやって細分化することによって、適当に自分のスタンスを明らかにしていく。


 ただ、それは全て主観で、君たちは本当の陰キャを知らない。本当の陰キャは、目には見えない。コミュニケーションを取ろうとして外に出てくる訳では無いから、君たち一般人の目には見えない。見えたとしても、キモいから、普通の人間としてカウントしないだろう。


 それを普通の人間としてカウントしない限り、陰キャというのも実は理解できないし、人をランクづけるのも自動的に不可となる。


 ということをよく思う。だから、私も他の人からどのように観られているのかも、実はよくわかっていない。


「そうそう、藍李さん私前聞いたんですけど」

「ん、なになに~?」

「最近、この学校でスマホの盗難が結構あるらしいですよ。この前職員室に行ったとき、そんな話が聞こえて来たんです」

「へーそうなんだ。怖いね~でもそんなにたくさんあるのかな?」

「それがですね、私気になってその話をしていた先生に聞いてみたんですけど、どうやらスマホ自体はすぐ戻って来るらしいんです」

「へーなら良くない?」

「えーでも気持ち悪くないですか?情報抜き取られているみたいで」

「そっか、確かに。そうか、いや、それは嫌だな」

 確かにスマホ盗難は陽キャにとっても大問題だ。


「おい、ちょっとスマホ見せてよ…」

「何でだよ…まぁお前なら別に良いけど、、」

 舞台は続く。

「こんなのはね、彼女とのメッセージのやり取りを見れば一発なのよ。回数とか文体とかで、関係性は分かっちゃうわよ。まさか語尾にニャンニャンとかつけてないでしょう?」

「そんな、、つける訳が無いだろ…」

「そうだよね~タカシがそんなことするはずないもんね~どれどれ、あーこれはもう別れますね、、」

 スマホを無条件で預けられる関係性って、どういうものなんだろう。少なくとも、私にはいない。とはいえ、見られて困るものも無いのだけど。


「なんでそんなこと言うんだよ!」

「頻度が少ない、文体に熱量が無い、あまり電話した形跡もない、あんまりもう好きじゃないでしょ?」

「べ…別に…そんなことねぇよ…」

「じゃ今年の夏はどう過ごす予定なの?」

 私は輪投げのセッティングでした。

「ま…まぁ…それはこれから決めるっていうか…」

「でしょう?そういうのは、普通考えるだけで楽しいから、もう夏休み前に色々話しておくものなの。そうやってなし崩し的に予定が決まる事なんて無いから」

「別に…今が楽しくないから、とかじゃねぇし…」

 タカシは本当に陶芸が好きだったのかもしれない…?


「確かに私は全然知らない誰かにスマホは見られたくないな~」

 そして結構陽キャどもはしっかり舞台を見ていた。

「ですよね…でも一体何をみるんでしょう…?」

「そりゃいっぱいあるでしょ~一番わかりやすいのは、あれでしょ、写真!皆の可愛い写真

!」

 先輩っぽい奴が、スマホをおもむろに開きながら言う。

「別に私たちは何とも思わないけどさ~例えば私たちで管理してる写真フォルダとかってさ、その辺のキモオタからしたら、宝みたいに見えるんじゃない?」

 先輩っぽい奴が、辺りを見渡しながら言う。


「え~それはキモいですね…」

「だと思うよ。だってさ~今日だって正直外部の一般の人だって入れる訳だけどさ、正直わからなくない?どういう目的で来ているかなんてさ」

 先輩っぽい奴が、辺りを見渡しながら言う。

 あくまで、害を加えるのと受けるのとであれば、受ける側の立場の目で。

「えーホントにそんなことってあるんですかね~?」

「いやいやいや、あるでしょう!もっと警戒した方がいいよ~自分たちは可愛い子羊ちゃんなんだって」

「そんな大げさですね…」

「えーだったら私が襲っちゃおうかな~!ガオ!」

 あ~食べられた~などと、うすら寒い展開が続く。


 どんな時でも、他人が盛り上がっているのを見ていると、冷める。あくまで、盛り上がる主体ではなく、それを見る側の立場でしか自分は捉えられない。


「もっと警戒した方がいいよ、とか言いながら、私たちもこの後人前に立つんだから、ちょっと警戒しろよって感じだけどね~」

 私にとってはどうなんだろう。警戒以前の問題として、私に興味を持ってくれるような人は現れるのだろうか。


「例えばさ、まま正直クラスメイト、と言えるのかも微妙だけど、教室でいるじゃん…?ねぇ…いつも黙っていて、何考えているのかわからない人…」

 声のトーンが変わり、その視線は私たちに向かう、と考えるのは所謂被害妄想か。

勝手に他人の考えを規定するのは良くない、以前の問題として、そんなことは出来ないから。


「ね、ちょっとさぁ…何考えるんだかわからないじゃん…?放課後とか何してるんだろうって思わない?高校生ならさ、普通部活するでしょって」

 普通って何だろう。とりあえず、彼女たちの陽キャが、テレビを付ければ広告が流れる様に、当たり前のものとして享受するものだとしたら、どうだろう?少なくともそれは、私にとっての「普通」ではない。


「バイトとかかしてるのかなぁ…でもさ、本当に家に直帰してる奴とかさ、絶対キモいよね。絶対オタクだし、絶対友達いないし、そういう人がさ、私たちをいやらしい目で見るんじゃない?きっと、スマホを奪うのもそういう人っしょ!」


 勝手に他人の考えを規定するのは良くない、以前の問題として、そんなことは出来ないから。


 他者は、どこまで行っても理解不能だ。「相手を思いやりましょう」などとよく言うけれど、そんなことは絶対に不可能だ。絶対に不可能だ。勝手な前提を他者に仕向けた瞬間、他者は他者でなくなる。他者は、どこまで行っても理解不能だから、他者であり続ける。


 そうだ、赤の他人なのだ。だから、何をしても、どう思われようとも、正直どうでもいい。


「そうだね、だからさ、今度話す機会があったら先生に言っておいてよ。『本当に問題視しているんだったら、クラスで活発でない人の動きを注視すればいいんじゃないですか』って」


 そうだ、赤の他人なのだ。だから、何をしても、どう思われようとも、正直どうでもいい。


 あくまで、害を加えるのと受けるのとであれば、受ける側の立場の目で。

「いやぁ、何だかんだ言って、結論は単純だからね~世の中」


 そうだ、赤の他人なのだ。だから、何をしても、どう思われようとも、正直どうでもいい。


「でも手間はそんなにかからないと思うんだよね。別にその辺の陰キャ捕まえて事情聴取するだけだし」


 そうだ、赤の他人なのだ。だから、何をしても、どう思われようとも、正直どうでもいい。


「最初からそうやって考えればいいんだよ。大体のことは、実はぱっと見のイメージ通りに進むからね!」


 そうだ、赤の他人なのだ。だから。


「ちょっと藍李さん、すこし声が大きいですって…!」

 先輩の主張に肯定しつつも、後輩の方が呼びかける。

別に、私のことをかばう理由なんてどこにもないのに。


私?





 ボンッッ。






 知らないうちに、気付かないうちに、ペットボトルの蓋をあけて、私は蹴り飛ばしていた。

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