踊り場なんて⑤

「おっ…踊り場…?階段を途中まで下るってことかしら…?」

「いやぁ…どうなんだろうね…じゃなくて、何であいつ勝手に行くのよ!ちょ、ちょっと!」

 意外と委員長がおっとりしていたんで驚きながら、一応あいつを追いかけていく。正直どうでもいいっちゃいいんだけど、勝手に踊り場なんて行かれたら、多少困るから。


「お友達は階段が好きなのかしら…?」

「さぁ…そんなことは無いと思うけど…ただいたずらっぽいだけだと思う…」

 まだまだ坊やだからさ…。

「う~ん、でも彼女、結構弁が立つし無駄ないたずらはしないと思うわよ」

 走りながら、委員長は冷静に考える。冷静過ぎる…。

「えっ!?そんなことないと思うよ!あいつは…!別に何か考えがあるようには思えない…!」

 帰宅部はぜぇぜぇ走りながら、委員長に応答する。本当は、そんなあいつの正体なんか知るはずもないけど。


 「小高い山」とか言いながらも、階段として下ると結構距離がある。もちろん下るだけではあるけど、同じ高さの段を延々と下り続けるのはさすがに疲れる。まるで日常生活のようで。


「ていうか!?こんな階段下って何があるんだっけ…?あいつは…」

「う~ん『踊り場』…?それは停滞状態の比喩として使われるわよね…?」

「いやいや…そんな何かを暗示している様には見えなかったけど…!」

 逆にそうだったら、何なんだ『停滞状態』っていうのは…!あいつの人生において、何かそんなに停滞しているものがあるっていうのか…!?正直意味がわからない…。


「彼女の人生は停滞しているのかしら…?」

「いや、、委員長、そんな考えるよりも…」

 考えるよりも先に、階段を下り終え体育館の脇に到着する。偶にある、無駄にグダグダ考えるよりも、体や手を動かした方が早いということが。


「えーっと、あいつはどこだ…?まぁそんなに普通の客が行けるところもないだろうし…」

 雨が降っていて、傘を皆さしているから、見通しがすこぶる悪い。相手の傘の色を覚えていたって、そんなものどうせ他の人と似ているのだから、結局意味が無い。相手のことを知っていたとしても、理解したつもりだったとしても、他の人と区別できない程度の理解なら、やっぱり意味をなさない。


「でも、荒崎さん、今日は雨だから結局体育館の中しか行きようがないわよ。とりあえず向かってみましょう」

 こういう時少し私は慌ててしまうから、委員長の冷静さには感心してしまう。知らないことを前にすると、やっぱり私は自信が無くなってしまう。

 当たり前だけど、体育館には一面シートが敷かれていて、土足のまま入れるようになっている。生徒も特に制限はないから、私たちはそのまま入口に向かう。

 中はC組の劇が行われているため、ステージ付近以外は暗くなっている。出店は軒並み簡素な形に変更となっている。体育館は狭いし、屋内で火は使えないから、担任が言っていた通り、ジュースのように簡単に売れるものにシフトしているという訳だ。


「あー確かにお客さん自体は入っているから、そりゃジュースも売れるわねぇ…」

「そうだね…ていうかいちいち聞くのもダルそう…」

「そうね、結構出店も多いから、これをまわって聴くのは効率が悪いわね」

 という訳で、委員長はおもむろにスマホを取り出し。

「高畑君に電話しちゃお」

「えっ、どういうこと」

「もう適当にジュース配っちゃおうかと思って、面倒だから。で、それを持ってきてもらう。まぁ私たちより多少は体力あるでしょう」

 時代がさらに前に進む前に、女であることをもうちょっと上手く活用しようと思いました。




「そんなッ…俺の知らない間にタイで手術を受けたなんて…」

「いやいや~そんな重く受け止めないでよ!僕は変わらず僕なんだから」

「そ、そんな…すんなり受け入れられるわけないだろ…お前、ずっとつらかったのか…?」

 体育館では劇が行われている。内容とタイトルはお察しの通り。


「そんなことないよ,だって、タカシは違ったから。ずっとさ、『僕』を見てくれてたじゃん。昔は女だったけど、別にそういうこと関係なく、人としてずっと尊重してくれてたから」


 ステージ前には観客が集っている。観客の様子を見れば一瞬でわかる。この劇に関しては、集客が本当にうまく行っている。身内だけが観に来てキャーキャー言っている感じがしない。それこそ、学年や性別を超えて、多くの支持を得ているようだ。


「だから、やっぱり僕にはタカシなんだよ。タカシがタカシとして僕に向き合ってくれたように、僕は僕のやり方でタカシと向き合いたい」

「だ、だからって、いきなり色々なパターンのBLシチュを実践したいだなんて…、そんな…」

 これが所謂ダイバーシティ&インクルージョンなのか…。


「だからこれはまだ遊びだって!こういうのを色々してみて、タカシとの良い付き合い方を考えたい」

「で…でも…これ台本何冊あるんだよ…?今日はこれか?『シーン1:俺たちは駆け出しの漫才師。お互いに稼ぎが少ないから、一緒にシェアハウスをしいている。光熱費が勿体ないから、試しに一緒にお風呂に入ろうとしたら、浴槽が狭く体が思わず触れ合ってしまい…』なのか…?何でまず脱がなきゃいけないんだ!そんな…俺だって自慢できる体じゃないのに…」

 おいそこが問題なのか…。


「タカシは良い奴だな…」

「えっ!?そこ…?」

 委員長の感性にはクリティカルヒットしているようだった。


「タカシは変な偏見無いからいいわね」

「まぁ、、そうと言えばそうだけど…」

 そんなこんなで、BLシチュを1つ1つ舞台上で実践していく。


 ということはさておき。

「で、荒崎さんのお友達はどこ?」

「あぁ…なんか走り出したから最初は慌てちゃっけど、まぁ放っておいて大丈夫かな…?」

 人が走り出すとなんだかびっくりしてしまう。青春っぽいですよね、ハイ。アニメの見過ぎでしょうかね…?

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