「エモい」なんて③
「いや、でも違うんです!」
私の不満が顔に出ていたのかもしれない。妹は全力で私を食い止める。
「私は荒崎さんだったから良かったんです。別に荒崎さんが全然違う高校の人でも、もっと年上の人だったとしても、声をかけていたと思います」
声量が、心なしか大きくなる。
「純粋に嬉しかったんです、私たちを巻き込んでくれて…」
「いや…私は単に巻き込まれただけなのだけど…」
不可抗力的に私は缶蹴りに巻き込まれてしまった。ただそれだけだ。
「普通だったらすぐ逃げると思います」
「いや、だから逃げられなかったんだって…」
「お願いします!私の姉と関わって欲しいんです!」
「『関わって欲しい』って…オーダーが抽象的すぎないか…?」
ビストロ〇マップだったら怒られるぞ。古い。
「いや…私は全然あなたのお姉さんからは遠いんだって」
「えーケチだな~」
「ケチって…今更超本音言ってくるじゃん…」
この辺りは中学生らしい。それはそうだ。もっと私が明るくて外交的だったら、こういった依頼も受けていたと思う。でも私はそうではない。
「とにかく!お願いします!この通り!」
文字通り、おててのしわとしわを合わせて、頭を下げられる。中学生に頭を下げられるのは初めてかもしれない。そんな後輩なんて持ったことないし。
「そう言われても…ていうか、だったらあなたとしては何か考え?というか方策みたいなものはあるの?」
「う~んそうですねぇ…あ!でも今度文化祭あるじゃないですか!?」
「は…はぁ…よく知ってるわね…」
そんなものもあったと思い出す。いや、別にやる気がないとかなおざりにしているとかではないけど、言われて気付く程度の熱量なのだと思う。
「私いきます!」
「いや…別に誘っている訳ではないのだけど…」
「私お姉ちゃんの学校に興味があって、雰囲気とかわかるじゃないですか文化祭って!なので、志望校選びの参考にもしたいんですよ」
「あ~そういうことね。それは止められないわね…」
とはいえ、文化祭ごときで学校の雰囲気がわかるとは思えない。祭は日常とは大きく異なるから、私たちの学校の本来の姿が出ているとは思えない。高校の実態を知りたければどうすればいいんだろう?どうしても部外者は入りづらいから、やはり実態は閉ざされているとしか言いようがない。
「じゃ!よろしくお願いいたします!」
「え、どういうこと…?」
「一緒に文化祭周りましょう!で、一緒に姉を見に行きましょうよ。そのバスケのやつ?興味あります!」
「えぇ…一人で勝手に観なさいよ…」
「いいじゃないですか!」
引き下がらない奴だ。
「だって、荒崎さんがいるだけで、少し面白くなると思うんですよ」
「そんな…番組の前説で出てくるピン芸人じゃないんだから…」
もちろん、引き受ける理由は無いけど、実は断る理由もない。何故なら、一緒に文化祭をまわる友達も、そもそも用事もないからだ。おそらく、教室のバックヤードでゆっくりしている予定である。
高校2年生の夏。「本当の意味で有意義なこと」に多くの同級生が時間を費やしているのだろうけど、正直あまりよくわからない。何か、劇的なことが起こって欲しいと思った自分も確かにここにいるとは思うけれど、その「劇的なこと」がよくわからない。よくわからないまま、なんだかよくわからない大人になっていくんだろうと、薄々自分に対して予想している。
高校2年生の文化祭。ザ・ど青春イベント。なのだろうけど、どうしてここまで自分は冷めているんだろう?どうして全て他人事の様に感じてしまうんだろう?この妹アロハだってそうだ。この段階になっても、別に積極的に関わろうとすることは無い。
どうも宙に浮いている。私の視点は、宙に浮いている。私がいて、それだけじゃなくて、それを俯瞰していて、で、またもう一段階俯瞰していて…そうやって何段にも自分を構え続けている。だからこそ、私は宙に浮いたまま、地面と平行に、幽霊の様にスイスイ動いて行くのだろう。何があったとしても、変わることが無いまま。
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