シュークリームなんて②

「え、私も参加するの?」

「うん!ミサキも参加してくれるとすっごく盛り上がるんと思うんだけど、どうかな…?」

 意外だとは言わない。部長として、皆の中心として、フリースタイルに出ることは当然のことだ。


 動画サイトを観たりして、私なりにイメージは作ってみた。だって道具はいつも使っているバスケットボールだ。ボールはともだち。こわくないよ!

だけど、動画を観れば観るほど、イメージがつかなくなる。全然知らない石川県の、とある商店街のお祭りのステージ。私たちと同じくらいの高校生が6人くらいになってパフォーマンスをしている。


 まず動画の画質が荒いし、正直上手くは無いし、すっごく動きがそろっているかっていうとそれも違う。そしてなにより、あんまりイケメンじゃない。

大したことないボールさばき。大したことないフォーメーション。くさいスローモーションの演出。再生回数は361回。


 それでも、なんとなく、気持ちは通じ合っていたように感じた。動画でも伝わるものがあるんだろう。たかが3分程度。別に美男美女が揃っている訳じゃない。だけど、あぁこういうのが信頼関係って言うだろうな。なんとなく、わかる。


 私は彼らより上手くないと思った。技術的な問題というか、何となくイメージが出来なかった。観れば観るほど。画面の向こう側の彼らと私は違う人間なんだと思った。

 私は、藍李よりそこまで器用じゃない。いや「器用じゃない」って言ったとしても、多分通じないんだけど。


「ミサキさんは本当に完璧ですよね」

「高二の特別クラスの中でも、成績は一桁台なんですよね!いやぁ、本当にかないません…!」

「まさに文武両道ですよね、正直、同じ部活にそんな優秀な先輩がいて、なんだかこっちも頑張らなきゃなっていつも思っています」

 周りの皆が私に日々言ってくれることは、別に嘘じゃないと思う。だけど、これはあくまで努力をした上での話なんだと思う。元々の部分で言えば、そこまで私は優秀な部類だとは思わない。親は普通の人だし、ていうかラブホの経営者だし、根っこの部分はそこまで褒められたもんじゃないと思う。


 だけど、「いや、私は相応の努力をしているだけだよ」と言ってしまったら、どうなってしまうんだろう?少なくとも、私がそういうことを言われてしまったら、少しイラついてしまうと思う。そんなことを言う奴は、きっと嫌な奴だ。私の冷たい部分。だから、「いやいや~そんなことないよ、ていうかありがとうね本当に」と返すしかない。


「無理だったらいいんだよ!でも、折角だしさ…私はミサキと一緒に出たいんだよね…」

 本音を言えば、私も出たい。それはあくまで私個人の話。だけど、私はそれ以前にこの部の部長だから、そうやって参加することには抵抗があった。「それ以前に」という言葉の使い方が合っているかどうかは分からないけど、少なくとも私にとっては間違っていないと思う。すくなくとも、私自身の個人的な想いだけで何でも決められる、という立場にいる訳では無いと思った。それは真実だと思う。


「ミサキ先輩と一緒に出たいです!」

「出るなら断然ミサキ先輩がセンターですよね!いやー普通に観客としてみたいわぁ…」

「ステージ上でもミサキ先輩が一番映えるよな~普段の練習や大会に出場してい先輩もカッコいいけど、観客からの注目を集める先輩も絶対サイコーですよね!」

 皆が言っていることは、決して間違っていない。部全体の士気を上げる上でも、私が出演するのが一番良いと思う。


 だけど、結論としてはシンプルで、私が努力をすればいいだけなんだと思う。フリースタイルも必ず成功させる。だけど本来の部の活動も手を抜かない。勉強もサボらない。物理的に時間は無いから、より効率的なやり方を模索する。睡眠時間は削りたくないから、適宜日々のスキマ時間を見つけていく。結局は、全て私の問題として還元されていく。他の部員はわからないけど、私は何事も手を抜きたくないし、そこ対する想いは、誰よりも真剣だから。

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