シュークリームなんて①

 私は絶対に、間違っていないと思う。


 そもそも私たちは、バスケをするために部活動をしているのに。


 何でわざわざ文化祭でステージに出演したいなんて思うんだろう…?勿論、不安は部活動で忙しいから、皆何かしらの形で文化祭に参加したいという気持ちは分かるけど。それでも、部活動の形のままやらなくても良いんじゃないかな。


「ミサキさ、この後皆でシュークリーム食べに行くんだけど、いく?」

「あ、うん、いくいくー、ていうか、行くでしょそんなの、絶対」

「だよねーミサキは甘いもの好きだもんねーいこういこう」

 横浜駅東口。練習帰り。その後の予定が無い日はこうやって、部の皆と駅を降りて遊ぶことが多い。


 横浜駅はいつも人が多い。私たちみたいな学生だけじゃなくて、いつも大人も多く歩いている。私の家は自営業だから分からないけど、一般的なサラリーマンも日中はうろついてるんだなといつも思う。


 横浜駅は、はっきり言ってあんまり好きじゃない。みなとみらいとかは、ザ・ヨコハマっていう感じがするけど、正直横浜駅周辺は汚い。特に西口。川も綺麗な印象が無いから、すすんでいきたいとはあんまり思わない。今日も人ごみの中を皆と歩く。しっかりついていかないと皆から迷子になってしまいそうになる。


 こういう帰り道は、藍李が率いてくれる。副部長の藍李が頑張っている時、私はリラックスできる。正直言うと、体力的にキツイ時もあるから、藍李が引っ張ってくれるのは頼もしい。

 もちろん、今は凄く楽しい。中学から続けているバスケが好きなの勿論だけど、大好きな部員の皆と頑張れるのが何よりも幸せなことだと思う。私が今頑張ることが、私の今とこれからにとって、大切なことである気がしている。

 だけど、それはあくまで部活動の中での話なんだと思う。お祭りとかが嫌いな訳じゃないけど、やっぱり私にとって大切なのは、日々の努力の積み重ねなんだと思う。


「私は断然スティックシューだな~普通に食べやすいし、シューがサクサクしてるから結構お得なんだよね~」

 部員たちの声を受けて、文化祭への参加が決まった。大っぴらにいうことはしないけど、藍李が文化祭ステージへの参加を提案しだした時には、少しびっくりした。

藍李は本当にフットワークが軽いし、その明るさには助けられているばかりだ。だけど、これから秋にかけて大事な時期だというのに、そういうことを言うのに驚いた。驚いてばかりだな、私…。


 私は反対しようと思ったのだけど、皆からポジティブな意見が出たせいで、大方参加の流れになってしまった。そして今日に至っている。皆は藍李の明るい顔を100の気持ちで信じている。そして、私自身も同じ意見だと、疑う余地もなく皆は考えていたと、私は思う。


「ミサキはシュークリームどういうのが好きだっけ?この前はイチゴ味?みたいなの食べてたよね」

 藍李が100の笑顔でこちらを振り返る。藍李につられて、皆私の方を見つめてくれる。私は一番後ろの方で歩いているのだけど、皆私が世界の中心であるかのように目線を集めてくれる。これも、私の勘違いなのではなく、事実なのだと思う。

私と藍李、そして部員の皆は一心同体。確実にそうだと思う。だけど、それはすべてのことに対して同じ意見を持たなきゃいけないんじゃなくて、時には意見に相違が生まれる。そういうことも含めて、乗り越えられるはず、少なくとも、私はそう思っていた。


「そうそうー!この前はイチゴ味食べたね。少し変化球っていうか?変わったの食べてみたいじゃん?だけど今日は普通の食べようかな~純粋に、カスタードを摂取したい気分」

「『摂取』って!そんな、点滴じゃないんだから!」

「いやいや~私にとっては点滴も同然だよ。甘いものが無いと、本当に私は生きていけないからね」

 そんな大げさな!と皆と笑い合う。藍李は私を見つめながら後ろ向きで歩いていても、決して転ぶことは無いと思う。前にいる人とぶつかることも無いと思う。余裕が、あるんだと思う。


 海沿いだからなのかはわからないけど、西口には川が流れている。運河のようで、広く、特に決まった流れがあるようにも見えない。別に臭いっていう訳じゃないから良いけど、大して見栄えも良くはない。そして、誰もその川の名前を即答できないと思う。私も知らないけど、でもあってもなくてもどっちでもいい。でもきちんとそこに存在してるの、結構楽そうだ。


 文化祭ステージのことは、藍李が中心となって凄く頑張ってくれている。私の心がおっつかない間でも、藍李はあらゆることを前進させてくれる。未来に対する覚悟、みたいなものが据わっているんだろう。


「折角だし参加しようよ!もっと皆と青春っぽいことしたい!」と言った藍李の言葉は、正直何よりも強い。文化祭の参加団体の提出締め切りが迫っていたこともあって、勢いで言い出した部分もあるんだろうけど、責任感が強い藍李は、参加団体の応募をした後、文化祭までの計画をしっかり立ててくれた。

 

 バスケ部ならではの参加形式として、フリースタイルバスケを選択したこと。

 バスケ部の企画ではあるけど、参加はあくまで有志の部員とすること。

 そして何より、本来の日々の練習や大会への出場はおざなりにしないこと。

私は何も言っていないけど、藍李は全てを理解してくれている。バスケ部の幹部として、あるべき姿勢で取り組んでいると思う。そんなこと、藍李にとっては当然なことだし、そこに私は安心しきっていた。


◆◆◆作者よりお礼とお願い◆◆◆

ごめんなさい!今日から視点がガラリと変わります!驚かせちゃってすいません。

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