スムージーなんて③

「逆にサラリーマンだったらいいんだ?理不尽な目にあっても」

 私は、その考えには共感しないから。


「う~ん積極的にそういう目に遭いたい訳じゃないけど、なんか組織に所属する以上は仕方がないかなって」

「ふぅん、逆に金山は個人で働く?みたいなのが良いんだ」

「そうだな!特にやりたいことは無いけど、そういう方が自由で良いなって思うわ!まぁ…特に何か出来る訳じゃないんだけどさ、、」

「だったらサラリーマンだよ」

「え!?俺もう決定なの!?」

 金山は明るい。さっきの表情は、さっきの表情としてあったかもしれないけど、つとめて明るいのが、金山である。


「そうだよ、あぁいうのは才能が無い人が行くところだからね。才能が無いから、集まってチームとして何とかしようとしているんだと思う」

 私の予想はおそらく間違ってないと思う。もちろん、実感の伴った言葉ではないけれど。


「なんだよ…荒崎は冷たいな…」

「冷たいとかじゃないでしょ、事実としてそういうのは考えられるでしょう」

 そんな冷たい回答をしていると、すいません、とお客さんが複数やって来る。30代後半くらいの、女性3人組。


 何事も「人の波」というのはあって、特に何もしなくても飛ぶように売れることがあれば、どんなに努力しても全然お客さんが来ないこともある。不思議だ。

 はい、豆乳バナナスムージーが3つですね、と私たちは対応する。近所の奥様方だろうか。ただ、子どもたちはそばにいないから、適当に子どもたちは親を離れて子どもたち同士で祭を楽しんでいるのだろう。なるほど、親は子供の相手をする必要が無いと分かると、スムージーを飲みだすのか。確かに、小学生と違って、奥様方にとって、焼きそばやラムネはお呼びではない。もちろん、スムージーを渇望している訳ではないのだろうけど、偶々ニーズを埋めることが出来ている。本当に偶然だ。ニッチなニーズというのは、「結果的に」満たせるものなのだ。


「こちら、豆乳バナナスムージーになります。どうもありがとうございました」

 ミキサーは簡単に毎回水洗いをしている。まぁまぁ、どうせ似たような材料しか使っていないから、特に大丈夫だろうけど、果たして今つくって渡したものは、変に小松菜ぶどうスムージーの味が乗り移っていないだろうか。それはそれで美味しいのかもしれないけれど、中々純度100%の豆乳バナナスムージーを作るのは難しそうだ。毎回ミキサーをしっかり洗わなければいけない。とはいえ、そこまでの時間も気力も、何より誠意も持ち合わせていないのだ。


「だったらさ、荒崎はどうなんだよ?将来やりたいこととか、未来の自分のこととか」

 奥様方を送り出してから、金山が忘れんとばかりにさっきまでの話に戻す。なぜだ、なぜこんな真面目な話になってしまうんだ?あれか、こいつは口を開かせたら本当は「語りたがり」な奴なのか?将来うるさいおじさんになりそうだ。

「え?別に?自分のこと?将来ねぇ…全然考えたことないっていうか、イメージもつかないね…」

 まだ夏だから、日が長いから、夕方の5時位であってもまだまだ明るい。時間的には全然家に帰ってもおかしくない時間なのだけど、世の子どもたちはこれからの祭を迎えに行くべく、活況に溢れている。


「なんだよそれ、俺のこと言えないじゃん~だったらさ、最近荒崎が考えたこととか無い?あんまりさ、普段の荒崎って何考えているかわかんないからさ」

 別に、わかってもらいたいとは思わないのだが…。

「えー最近私が考えたこと…?」

 高尚なことを言って金山を圧倒させようと思ったが、それも疲れるので思いついたことをそのまま喋る。

「えーなんか、アイドルがさ、テレビに出てたんだよね」

「ほぅほぅ」

「で、6人組くらいの女性グループでさ、リーダーがもう20代後半とかなんだよね」

 ドルオタではないけど、曲は良く聴く方だ。だからと言ってどの曲が好きかと言われると、そこまでうまく説明できないし、何よりその微妙な感じを金山に話すものしんどい。ので、たまたまテレビで観た設定で話す。


「今ってさ、全然私たちより年齢下のアイドルってたくさんいるじゃん?でさ、そういうもっと若めのグループが他にいて、そのグループのメンバーと20代後半のリーダーとの掛け合いがあったんだよね」

「まぁ、良くあるシーンだな」

「そう、でさ、そのリーダーが『10代って若くていいですね~』っていうセリフをひたすら言うの。

 まぁ、そのリーダーの方が大人の魅力があって全然可愛いのだが…というとややキモオタのようになるので黙る(この間、0.03秒)。

「それを受けて、司会の人がね、『10代の時に特に記憶に残ってる思い出ってある?』ってそのリーダーに質問したの」

「なるほど、結構壮大な質問だな…」

「そうそう、結構壮大な質問じゃん…?どんなギラギラした。うわーっ!っていうエピソードが出るのか期待してんだけどさ」

「だよな、『アツい告白をされる』とか、『文化祭のメインステージのラストを飾る』とか!でもあれか?なんだかんだ『学校帰りにファストフード店で友達と駄弁った』とか、そんな何気ない日常っぽいエピソードとか?」

 代表的な「高校生の思い出っぽいもの」が、このようにポンポン出てくるあたり、金山はきちんとした高校性なのだと思う。


「じゃん?したら言うのよ。『電車を寝過ごしたことです』って…」

 現役の高校生ながら、私としても「高校生の思い出っぽいもの」が、まだよくわかっていない。

「は?何だそれ?色々あってそれを選ぶのか…?」

「そうなんだよね、でも『それしか覚えてないです』って言ってたんだよね」


 そもそも、「何が高校生っぽいものなのかわからない」とか「これは高校生らしいのかどうか」ということを考える時点で、間違っているのだろう。「思い出」と言うものは、文字通り、過去から振り返った時に、「今」とは違う時点から振り返った時に、想起されるものを言う。だから、普通はこんな風にあれこれ考えることではなく、ただ感じるだけのものなのだろう。自然に、何も考えずに、身にまとうものだ。

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