スムージーなんて①
「えっ、アボカドのグリーンスムージーですか!?いえ、まだあります!少々お待ちください!」
あまり注文がこれまで来なかったスムージーに注文が入った。おい!マダム!おまえ!健康志向だな!そんな奴が祭なんか来るなよ!
「えーっとアボカドと小松菜と、セロリと…」
材料を探す。何だかんだ王道(なのかよくわからないけども)の「りんごとにんじん」が最も売れているから、あまり注文が来ない商品に注文が来ると困ってしまう。
「えーっと水は他のスムージーと同じ、200ミリリットル入れて…」
別に、全く作れないという訳ではない。一度全種類練習用でつくったことはあるし、どうせどのスムージーだって適当にミキサーに書きまわせば良いから、特別難しい要素は1つもない。
ただ、慣れてないことにはやはり躊躇する。こういう時、私はやっぱりそこまで器用な方じゃないんだと改めて思う。頭の中ではわかっていても、乗り気はしない、というやつ。
学校が始まったけれど、中度半端に地元の祭が余っていた。『第36回神明社例大祭』。予告通り、われらがブレッド・ブリッジはスムージー屋として参加することになった。昨年の様に変な格好はせずいつも通りのエプロンに、頭だけなぜかハンチングを被り、一応のジュースや風情を醸し出そうとしている。
「あ、ごめん!『小松菜ぶどうスムージー』だったか!ごめんね~じゃあこの『りんごとにんじんのスムージー』もあげちゃう!お姉ちゃんに上げちゃいな!」
とか言いながら隣の金山も、注文内容を聞かず『りんごとにんじんのスムージー』を作っては、間違え、注文通りのスムージーを作り直すという作業を繰り返している。『りんごと(以下略)』を全人類が欲していると思うなよ。というか、そこの弟、少し渋い注文をするんだな…。
「ちょっと、無駄になっちゃうんだから、少しはちゃんと注文聞きなよ」
「いや~ごめんごめん。まぁまぁ、どうせうちパン屋だし、多少ミスっても大丈夫だろう!」
「そういうことじゃないでしょ…」
こういう時「責任感」って結構大事なんだなって思います。
「はい、小松菜。金山も使うでしょう?」
私は多めに小松菜を多めに手に取って金山に渡す。
「おっ!ありがとう!良く俺が小松菜が必要だってわかったな!」
「いや…だって小松菜ぶどうスムージーって注文だったじゃん…絶対小松菜は必要でしょ…」
基本的な聴力の問題でした。
「いやいや~俺そんなに覚えられないって~」
失敬、記憶力の問題だったようです。
「普通に注文が1つ来て1つ商品を返すだけでしょ…そんな難しくない…」
と言いつつ、結構高度な仕事をしていそうなケータイショップの店員は、どうして愛想は良くないのだろう…?そりゃ格安スマホに変えますよ。
「え~なんだろうやっぱりお祭ってさ~」
「口だけじゃなくて手も動かす」
「やっぱり楽しいじゃん!?思わずこっちも舞い上がっちゃうって言うか、落ち着かないって言うかさ!」
つくづく、この男は私の指摘に対してびくともしない。本当に何も考えていないのか…?そしてお前が落ち着かないのはいつもことだろう…。
「まぁ気持ちは分かるけど」
本当は全くお前なんかに共感できないけど。
「混んでもこまるから、さっさと仕事してよ」
「はいはい!」
「『はい』は一回で十分」
長きに渡って使いまわされた、伝統のある応答。
「そういやさ、荒崎ももう学校始まったんだよな」
「まぁね、とはいえ、別にどうもこうもないけど」
私たちは2人、同じ様に小松菜をミキサーに回す。
「やっぱり冷めてるな~」
「『冷めてる』って何よ…」
「普通さ、学校始まったらまぁ楽しいじゃん?クラスメイトと久しぶりに会えるしさ」
金山は私とは違う高校に通っている。私と違って、自転車で行ける範囲内に高校がある。
「いいね、沢山友達がいて」
僻みは無く、単に事象を説明するだけの言葉。
「まぁ荒崎は友達いなさそだからな~」
「そうだけど」
「友達とか欲しいと思わないの?」
「う~んそんなことは無いけど、無くても、別に今までと変わらないからなぁ」
もちろん、金山に対して、『あなたが一番で、唯一の友達よ…あなた以外誰も要らない』と言うこともなく。
「ていうか、金山は結構夏休み友達と出かけてたんじゃないの?」
私と同じく、金山は部活に入っていない。だから、有り余る放課後の時間を、バイト以外は友達と過ごすことで過ごしている。
「まぁね、でもさ、結局いつメンと遊んでばっかになるから、やっぱり会えない人は久しぶりになるよね」
「いつメン」でお腹いっぱいになるのでは?と私は一人でに思う。
「なんか、クラスメイト全員と仲がいいんだね」
「うーん、でもあんまり話さない奴もいるからな。なんだろう、普通に『皆と久しぶりに会えてうれしい』っていうか」
同じようなタイミングで、私たちはミキサーをとめる。
「まぁその感覚がわからないんだけどね、皆に優しい大統領、みたいな」
ミキサーの中身をへらでこそぎ取る。
「なんだよ大統領って!別に俺そんな偉くないし!」
偉いとかどうかの話ではない。どこか、そんな「民主的」な感じで私は生きられないと思う。開放性があるような。
「まぁ金山が楽しそうだったら、それでいいか」
「なんだよそれ!」と応答する金山の声を聞きながら、私たちのスムージーが出来上がる。「アボカドのグリーンスムージー」と「小松菜ぶどうスムージー」。同じ小松菜が含まれているけど、他の材料と作り方次第で、結論は大きく変わる。元々は、そんなに変わらない野菜を使っているのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます