ステージなんて⑨

「まぁまぁでも実際は楽しそうだから、当日もちょっとくらい頑張って参加して見れば…お…?」

 委員長がステージを眺めている。視線の先、ステージの脇から、練習後と思しきバスケ部の生徒達が集まってきている。


 ボンッッ。ボンッッ。ボンッッ。


 バスケ部員が、練習着のままステージに上っていく。ステージは見たよりももろいから、きちんと物体と物体が衝突する音が聞こえてくる。

 15人くらいか。一斉にボールをバウンドさせると、ステージもかなり揺れている。「これ結構揺れんなー!」とか「えーこれめっちゃ音楽の音上げないとムリじゃん」と、ギャアギャアうるさい声が聞こえる。


「何するのかしら…?フリースロー大会…?」

「いや…だったら体育館で普通にやると思うけど…バスケ部の練習じゃないみたいのかな…」

 普通ではないと思う。ステージに上がっている以上、祭というものの本義に従えば、いつもと違うことが起こるのだと思う。そういう時期だ。


「なんか…凄いキラキラしてるね…」

 高畑がオドオドしている。バスケ部自体は男女で別れていると思うが、ステージに上っているのは男女混合、3対3だ。こんな時期にステージに上がっちゃうような男女だゾ。皆顔がキラキラしている。自らの未来と言うものを、信じて疑わない顔。

 あー男女混合でしかも比率が1対1とか、一番弱いチーム編成じゃん。合コンになっちゃうからね、お互いに。合コンになってしまう組織は弱い。もっと2対8とか傾斜を付けないと、必死になれないよ。あーどうせ、あいつとこいつが付き合ってるとか、そういう話ばっかりなんだろうな。あーだめ、よくない、こういうことを一方的に考えてしまうのは。実際そうじゃないもんね、もっと皆必至でやってるもんね。ただ、私の性格が悪いだけでね!


「そうだよね、男女バスケ部それぞれの、まぁエース級を取りそろえたというところかな。まさに、トップ・オブ・トップって感じね」

 委員長が手を顎に添えながら話す。確かに、顔は整ってる(素直な感想)。

 うちの学校のバスケ部は、ただでさえ一軍運動部なのに、そこから精鋭を集めたとあれば、それは無敵だろう。

 

ボンッッ。ボンッッ。ボンッッ。


 普通ではないと思う。ステージに上がっている以上、祭というものの本義に従えば、いつもと違うことが起こるのだと思う。そういう時期だ。


「それでは、一旦やってみます。ミュージック、スタート!」


 唐突に音楽が始まる。唐突にバスケ部員達が一斉にポーズを決める」


「あー、なるほど、『フリースタイルバスケ』ね」

「とは?」

 知らない。

「見たまんまよ、バスケットボールを使ったダンス。あぁやって何人かで、ボールを操りながらパフォーマンスするんじゃない?」

「へー委員長知ってるの?」

「なんかね、地元のお祭で前やってたから、多分それっぽいなぁって思っただけ」

 なるほど。一軍運動部の精鋭たちがダンスに興じるとなれば、そりゃあさぞ盛り上がるだろう。


 前奏が終わり、ビートが上がる。ステージ上の15人が一斉に同じ動きをする。

「へぇー中々動きが揃ってて凄い」

「そ…そうだね…結構練習してる感じするね…」

「いいわねー一軍は、青春してるわ~」

 私も、高畑も、委員長も、語彙力が無い。自分があまり遭遇したことが無いイベントに対して、分析するための言葉を持ち合わせていない。


 彼らは自由に、ボールを使いこなしている。あの「股でボールを抜くやつ」とか「腕から肩を通して反対の腕にボールを通すやつ」とか、多分それぞれイケてる専門用語があると思われる高度な動きを繰り返している。まさに、「ボールは友達」である。

 周囲には文化祭の実行委員だけでなく、部員の友達や、盛り上がりを聞きつけた生徒達が大勢集まっている。観客が部員の名前を叫び、それにステージ上の部員が笑顔で反応する。うるさいですね…。


「まさに、前夜祭ね」

「あと3週間後とかだけどね…」

 委員長は楽しんでいる。さっきの話を聞いていても、こういう場を全く受け付けないという訳ではないのだろう。

「ねぇ…戻ろうよ…輪投げの確認も終わったし」

 一方、この高畑はあまりこういう場が好きではないらしい。拒絶と言うより、ステージに群がる生徒達との隔絶を感じているのだろう。

「えーいいじゃない?せっかくだし…荒崎さんはどうする?」

「そうね…私は…」

 私は。


 ボンッッ。ボンッッ。ボンッッ。


 音楽が一瞬止まる。時間も、一緒に止めるように。

 一人の部員がステージの前方に出る。


 周囲から「ミサキミサキ」と叫ぶ声だけが騒がしい。

 

 何事も「間」というものが重要だ。言葉を尽くせばいいものではない。音を重ねればいいものではない。空白があるから、何もないからこそ、逆説的に、人を惹きつけることが出来る時がある。逆説的に、「そこに何かある」と思わされる時がある。


 「みんな行くよー!」


 ふと、「ミサキミサキー!」と呼ばれている部員がステージ上で手拍子を促す。手拍子…あ、委員長もちゃんと手拍子してる…そして当然のごとく、高畑は直立不動だ。かくいう私も、体の前に手と手を合わせる。言われたら、まぁいつでも拍手くらい出来ますけど?といった、自分でもいけすかない。私だ。

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