ステージなんて⑧
「あら、褒めてくれてありがとう。一応そういう機能もあるのね」
「人をロボットみたいに言わないでよ…」
「てっきり『水平思考ゲームbot』だと思ってたからね」
「辛辣…」
高畑の人間性の広がりを感じながら、私たちは適当に輪投げセットを片付け始める。
単純に、楽しいなと思った。別にこの企画には何の意味は無いと思うけど、でも今日はなんだか楽しいと思った。あんまり最近、人と実のある話をしてなかったせいだろうか。話を聞いてしまえば、多少は共感する部分があるから。私だけのオリジナルな思想なんて1つもなくて、実は結構皆、多かれ少なかれ同じようなことを考えている。だから生きていけるのだと思う。
あとは文化祭当日に輪投げを運んで設営すれば問題ないだろう。私たちの文化祭準備は、終わりを告げる。
時刻は17時をまわり日が少し傾いたけれど、まだまだ暑いことには変わりない。
グラウンドから校舎へと続く階段を上る。野球部を含めて、周りの運動部はまだ練習を続けている。何故って?まだ下校時刻ではないから。正直、ただそれだけなんだと思う。
ただそれだけなのに、よく頑張るなぁと思っていると。
「あ、ステージ」
相川さんが指をずっと前方に向ける。あ。
「あ…もうステージ出来てるんだ…え、でも早くない…?まだ2週間以上あるのに…」
ハンドボールコートの奥の方に、文化祭用のステージが既に出来ている。
「そうね…結構今年は気合が入っているのかしら…?」
特に装飾もなく、台だけがドドドンとあるだけだけど、周りには多くの生徒が集っている。「できたぞー」といった声も聞こえてくるから、本当に今日出来たばかりなのだと思われる。
「まぁ私たちには関係ないわね~こういうステージに上がれるだけで、もうそれはスーパースターだわ」
「そうだね…僕も絶対に無理…ていうか、ステージに上がるどころか、観客になるもの凄く難しいと思う…」
「ほうほう、その心は」
「だって、普通に登壇している人並みにめっちゃ盛り上がってんじゃん…?なんか、そこまで騒げないっていうか…盛り上がれないっていうか…」
「あらそう?私はそうは思わないけど?」
「えぇ…」
高畑が委員長にうらぎられてしまった!
「別に私も積極的にステージに向かう方じゃないけど、でも楽しそうだな~とは思うよ」
「うん…いや…なんだろう…僕も『楽しそうだな』とは思うんだけど、どちらかというと『あれだけ楽しめたらいいな』っていうのが強いんだと思う。
「ははーん、なるほど。彼ら、彼女らみたいに『楽しみたい』というより『楽しめる人間になりたい』っていうのね」
「そうそう…本当に相川さんは話が分かるね」
軽いカウンセリングの様になってしまっている。
「いや、共感は特にしないけれど」
あなたと私は違うということをきちんと前置きした上で。
「ちょっと俯瞰している節があるんじゃない?特に悪いことじゃないから良いんだけど。それだけで『自分は特別な人間だ』とか『あいつらは低俗な奴らだ』って思わなければ」
「そ…そうだね。う…うん…ありがとう」
少し心当たりがありそうな形で、高畑は応答する。心当たりがあるんかい!
「まぁ多かれ少なかれ私もそうだから、ステージなんて、眺めているだけって言うか」
私もそうだ。眺めているだけだ。観客席から遠く離れた、校舎の窓から。眺めるとか、観ようとするとか、そうではなく、見えるのだ。ステージというのは目立つから、こちら側の意志に関わらず「見えてしまう」のである。ただそれは物理的に視界に入るというだけであって、それ以上でもそれ以下でもない。感情は、動かない。
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