ステージなんて⑥
「う~んまぁおおよその中身は決まったとして…あ、そっか、一応輪投げの確認はしておかなきゃだね」
『輪投げの確認』という、おおよそ通常の人生では耳にすることは無い単語を聞かされる。
「一応備品の輪投げは申請してあって」
さっき深く考えてなかったから申し訳ないけど、なんで高校の備品に輪投げがあるんやねん。
「一応事前に確認しとけって文化祭の委員に言われてね、まぁよっぽどボロボロじゃない限り大丈夫だと思うけど、ちょっと見てみようか」
委員長に誘われて、私たち3人は体育の備品用倉庫に向かう。いや、体育で輪投げはやらんやろ。
階段を下りる。まだ新学期が始まったばかりで暑いけれど、グラウンドの方から風が吹くと適度に心地よい。
周りの生徒は皆、文化祭準備や部活動に励んでいる。廊下に大人数で大きな装丁を作ったりして、やはり大掛かりなものが多い。部活動にしても、グランドで運動部が(多分)試合に向けて練習をしている。音楽室で吹奏楽部が(多分)文化祭の発表会に向けて練習をしているのは、何もしなくても私の耳にまで聴こえてくる。皆、きちんと一つの目標に向かって動いている。期日とか、目標人数〇〇人とか、それこそ、優勝とか。
昇降口までたどり着き、私たちは靴に履き替える。地上に降りると、アスファルトに日差しが反射して、とても暑く感じる。
「目標がある」というのは、人間の生にとって大変望ましいものなのだろう。私にとっては正直、何かしらの「欠落」を埋めていくことで、埋まっている様に見せることで、精一杯なのだけど。
風が吹いて心地よくなることはあっても、だからと言って、私には翼が生えている訳ではない。私たちはグランドまで降りていく。歩くと疲れる。当たり前だ。ここで毎日練習している野球部はどうなっているんだろう。どうせ、優勝するはずなんてないのに。
私には翼が生えている訳ではない。せいぜいしっかり二本の足で歩くことくらいだ。せいぜい、「そこそこ私は普通の人間ですよ」というふりをするだけで私は一杯だ。それだって、人並みにできるだけでも大きいと思うのだけど、どうもそれではこの学校は許容してくれないらしい。
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