ステージなんて⑤

「結構難しいよねこれ…ていうか、あの、高畑君…?」

「あっ、ハイ」

 『あっ』って言うなよ『あっ』って。今更。

「この問題はちなみに正解してた?」

「うん、なんか、手ごと食べられちゃったんだろうなって」

「いや…そんな水に手を突っ込んでピラニアに食われる世界線が何でそんな瞬時に思い浮かぶんだよ…」

 こいつはひょっとすると、かなりとんでもないサイコパスか何かなのかもしれない。


「まぁでも、こうやってやり取りしながら答えに近づくのはいいかもね」

 相川はつとめて前向きである。多分これは、彼女の中でぶれないものなのかもしれない。

 ちなみに、冷静に考えたら委員長(と高畑)とまともに喋るのはこれが初めてだ。だけど「いやぁ…はじめまして…」とオドオドすることは無い。

何故なら、まず普段教室の中で顔を合わせているからである。「オハヨ~」みたいな挨拶をする訳では全く無いけれど、一応お互いに物理的な存在は認識している。だから、特段ビクビクすることはない。ただ、口をパクパクさせて、たまたまこちらを向いているだけなのだから。


 そして、特に私がもう「初めて喋る相手」に対してドキドキすることが無いからだろう。なんだか、人間のパターンというのをおおよそ知ってしまったからかもしれない。「この人は〇〇さんに似ている」と言った風に、生きていると少しずつ分析の枠組みというものが出来つつある。パターンにはめてしまえば、そんなに怖くない「あるあるのパターン」になっていく。


 そして、人間と言うのは1人1人違うように見えて、意外とそんなことは無いのだ。結構パターン通りの言動をする生き物だ。そう思うと、正直つまらなくはあるのだけど。


「だから、そうね、問題は集めて適宜レベル分けして、対話形式のカフェにするなんてどうかしら?」

「たっ…対話…?」

 対話を常に断絶してそうな奴が青ざめている。

「輪投げして、その結果に応じて謎解きを出題して、お客さんとやりとりする、っていう。どうせ別に皆が皆輪投げにトライする訳じゃないし、少数の人と密にやり取りできるのはいいんじゃないかな」

「みっ密な…対話…?」

 別にそんなねっとりしたことをする訳じゃないだろう。第一、私たちはお客さんからの質問に対してYES/NOだけ言えばいいだけだし。インコ並みに楽な仕事だ。


「良いと思う、そうだね。ゆったりできるといいね」

「よっし、じゃあ決定!良かった~もうほぼこれでやる事は完成だよ、一安心」

 中々ローカロリーで良い企画だと思う。やる気あるナシということでもなく、一つの在り方としてアリな気がする。高畑君は引き続き青ざめているけれど…大丈夫だから。インコ並みのことしかしないから。

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