缶蹴りなんて⑥

 「じゃあ、蹴ります!」

 正直、缶蹴りの開始ってどんな感じだっけ…と思っているうちに、妹アロハの宣言と共に缶蹴りが始まる。

 ボンッッと、当たり前だが、一缶なので、ただただ缶は無造作に倒れるだけである。一斗缶を一生懸命女子中学生が足で倒していると考えると、なんともシュールである。

 一斗缶が倒れるのを見てから、私たちは走る。そして早くも、姉ジャージが数を数え出す。いち、にぃ。

 私たちは「缶蹴りをする」ということだけが頭の中にあったから、あまり考えていなかったけれど、この小さな公園でどう隠れろというんだ?木のうしろ?草むらの中?ベンチの後ろ?

 どの場所も、はっきり言って隠れる上では不安が残る。

これはあれか、あくまで「缶蹴り」であり、「かくれんぼ」とは別物だから、綺麗に隠れる必要は、必ずしもないということか。ごぉ、ろく。

 当たり前ではあるけれど、鬼以外のプレイヤーは、「鬼に見つからないように缶を蹴ること」が、このゲームにおいては最も重要なミッションとなる。

 ただ、「鬼に見つからないように缶を蹴ること」は、あくまで「鬼に捕まった仲間を助ける上で」重要なことである。だからその前提として、今回で言うと「妹アロハが捕まっている状態」があるということであり、その上で「妹アロハを助け出す上で」缶を蹴る必要があるのだ。なな、はちぃ。

 よっぽど私も頭を使っていなかった。取り急ぎ、ベンチの後ろにかがんで隠れながらそう思う。というか、缶蹴りに対してこの歳になって意識を向けることが出来る方が、よっぽどおかしいとは思うのだが。

 つまるところ、今回の缶蹴りの「ゴール」は、何?

鬼はともかくとして、それ以外のメンバーは何を目指すのが正解なのだろうか?きゅう。じゅう。

「よーし!皆私がまとめてとっちめるわよ!」

 姉の方は大変楽しそうである。いやいや…どんだけ缶蹴りに対して熱い想いを抱いているんだよ…。

 「さぁ、悪い子はどこにいるかなぁ~?」

 なまはげのと同じスタイルで、姉は私たちを探す。自分のことで頭がいっぱいだったけれど、果たして妹の方がどこに行ったのだろう?

「あ!実希!みつけた!」

「あ~今日もすぐ見つかっちゃったよ…」

 妹アロハは光の速さで見つかった。おいおい。

 姉の方は妹を見つけ、すぐ一斗缶の方に戻る。一斗缶を踏みながら「ホラ!見つけたぞ!」ともう一度、高らかに宣言する彼女は、明らかに高揚していた。

「もう!実希はいつも同じところに隠れるから、すぐわかっちゃうんだから!」

 彼女は、明らかに高揚していた。とはいえ、妹の方はいつも滑り台の後ろに隠れているのか?

「こんなの、私じゃなくたって、誰でも見つけられるよ!」

「いやいや、お姉ちゃんは私のことを理解してくれているから、すぐ見つけてくれるんだよ」

 彼女は、明らかに高揚していた。こんなものは嘘だ。こんなイージーな缶蹴りは、本当は存在するはずがない。

「いや~でも缶蹴りは何回やっても楽しいなぁ~!」

「ふふふ、お姉ちゃんがそう言うなら良かった」

 彼女は、明らかに高揚していた。こんなイージーゲームを毎回新鮮な気持ちで取り組めるというのは、果たしてどういうことなのだろう?

 時刻はもう夜の十時に近い。ちらほら遅い仕事帰りのサラリーマンが見えるけれど、そろそろ各家庭が就寝に向けて動き出す時間でもある。

 えー、いよいよあの奇妙な姉妹が、缶蹴りを終えて楽しそうにしているけれど、果たして私はどうしたらいいのだろう…?

「やっぱり実希は、隠れるバリエーションを増やした方が良いよ」

「えぇ~そうかな、、結構それが難しいんだよね…」

「もっとさ、こっちにもさ、どこかな~どこかな~って探す時にワクワク感が欲しいんだよね」

 いや…こんな狭い公園で2人で缶蹴りをしていたら、それは一生かなわないだろう…。

「うん…そうだね。でも、今日はパン屋さんもまだ隠れてるから探さないと。まだまだ終わってないんだからね!」

「あぁそうか、そうか。いたなぁ…そんなの」

 つまるところ、あの姉の方が私をどのように認識しているのか、よくわからない。

「そうか。まだ終わらないのか。缶蹴りは…」

 ただ、彼女は、明らかに高揚していた。

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