缶蹴りなんて⑤
「じゃあ、始めるぞ、一斗缶ねぇ…」
JKジャージは木の棒を使って地面に円を描く。
「今日は一斗缶を使うから、円も少し大きめにかいておかないとな…仕方ないなぁ…」
おいおい…ワクワクしてるぞこいつ…。なんで顔を赤らめてるんだ…。そんな、ダメ男に夜ご飯をつくる優しい彼女じゃないんだから…。
「じゃあ、ここを陣とする」
「いや…大きくないですか…?半径2メートルくらいありますけれども…」
「いや、今日は、一斗缶を使うから」
「一斗缶のプライオリティ結構高いんですね…」
何だかんだ「初めての一斗缶」が刺激的なのかもしれない。もしかして、実は普段の缶蹴りに飽き飽きしていたのかもしれない…?
「じゃあ、新入り、蹴って」
なんか謎の缶蹴り集団、というか缶蹴り姉妹に加入させられている。
「あぁ、私?え、私?というか鬼は」
「私よ私」
「あ、それは確定なんですね…絶対に鬼をやりたいガールなんですね…」
ジャージはそう言いながら、一斗缶の上に足を乗せて腕組みをしている。あの…それじゃけれないんですが…。
「お姉ちゃん、今日は私が蹴るよ。パン屋さんだって今日が初めてなんだし」
いや…なんで今後も末永いお付き合いが続くようなニュアンスなんでしょうか…」
私が困惑していると、妹アロハが私の手を取る。
「ごめんなさいパン屋さん、一瞬お時間宜しいでしょうか…」
「あぁ…私は完全にバ〇コさんと同列にあるのね…」
妹アロハは公園の隅の方まで急いで私を連れていき、私に向き直って語る。
「本当にすいません…姉のわがままに付き合わせてしまって…」
一応、これは「姉のわがまま」の一部なのか。
「いつもは私と姉で缶蹴りをやっているのですが、大体いつもは姉が鬼を務めておりまして…」
ここだけ切り取ったら全く意味のわからない一文をアロハは言い出す。というか、きちんと他人に対しては「お姉ちゃん」ではなくて、きちんと「姉」で通すのか。
「なので、今回も姉が鬼ということで、ご対応頂いても宜しいでしょうか…?」
「いや、別にスーパー鬼やりたいウーマンではないので…全然大丈夫です…」
「ホントですか…!ありがとうございます…」
結構本気でこのアロハは嬉しそうにしている。そこまで、本当に缶蹴りを遂行することが重要なのか?
「あの…つかぬことをお聞きしますが」
だから私は質問する。
「お二人は、なぜいつも缶蹴りをやられているんですか?」
「はい、そうなんです…いつもこのあたりの時間にやっていて、基本的に他の人が入ることはありませんし、このあたりは人通りも少ないので…」
どこか、この缶蹴りは姉妹の間だけの「秘密」であるようだ。誰にも介入されたくない、姉妹の、というか、多分あの「姉の方の」秘密なんだと思う。
「だけど、今日は不思議なことに、多分姉はパン屋さんを歓迎していると思うんです…だから、少しで良いので付き合っていただけないでしょうか…?
今更になって、この妹アロハは本音を、自分の意図を伝えてくる。最初からそうすればいいのに。
だた、多分もっと触れるべき核心というものがあるような気もする。まぁ別に、私には関係ないことではあるけど。
「まぁいいですけど…でも缶蹴りなんて私そんなやったことないですよ…少なくとも、このくらいの歳でやるものでもないですし…」
「ホントですか!!!ありがとうございます……!!」
私がそう言うと、妹アロハはぐっと顔を近づけて嬉しそうにそう告げる。
正直、私は早く帰りたい。そんなに、自分と関係ないことには、カロリーゼロの対応をしたい。ただ、カロリーゼロでふざけ過ぎてしまったので、多分簡単には帰れない。別に、積極的に色んな人と関わりたいという訳ではないのに。
横目で見るジャージの姉は、引き続き一斗缶を見つめながら恍惚とした顔をしている。多分、純粋に缶蹴りを楽しみにしている気持ちと、「この一斗缶を使うとどんな缶蹴りが出来るんだろう…?」という特殊性癖からくる期待だろう。
特段、私が来たから楽しみだということは無いだろう。新メンバー登場!というのは大変盛り上がるけれども、それは単に「新しい刺激が受けられるから」である。特段「〇〇さんだから」というのはあまり関係ない。あまり関係ないから、別に缶蹴りに加わるのは私じゃなくてもいいんだろう。そう思うと、大変気が楽である。
◆◆◆作者よりお礼とお願い◆◆◆
ここまで読んで戴きありがとうございました。
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あと、同系統で面白い小説があれば、こちらも是非教えて下さい。
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