缶蹴りなんて④

「やっぱり、朝JR川崎駅の京浜東北線のホームから、東海道線の車内を眺めていると、ホントに車内がギュウギュウ詰めなんですよね。なんだろう、そこまでして会社に行きたいのかなって、そんなに圧死しそうになりながら働く意義ってあるんだろかって思ってしまうんですよね」

「は…はぁ…そうなんですか…」

「というか最近の恋愛リアリティーショーとかって観ます?あれって凄いですよね、特に十代向けのものって、平気で容姿に対して言及するじゃないですか。「スタイルが良い」とか「顔がタイプ」とかって、平気で言ったりするじゃないですか。あれを見て、そういう「外見に刺激される性的欲求」を「恋愛感情」とはき違える人って多いんじゃないかって。なんか、青少年の健全な発達に悪影響を及ぼしかねないんじゃないかって」

「そ…そうなんですね、私、あまり考えたこともなかったです…」

 アロハと、カロリーゼロの会話をしている。今の私は大変意地悪だから、大変どうでもいい話を重ねてしまう。

 信号を渡り、住宅街を進む。「私の家もこっちの方角で~」みたいな嘘をつきながら、適当にアロハの行く方向に従う。

 アロハの歩みがどんどん遅くなる。そもそも家に帰って行くのだろうか?それこそ、家に一斗缶を持ってかえるアロハの姿を見てみたいというのはある。もしくは、今から他の誰かと会うとか?なんだ、彼氏?彼氏に空き缶を貢ぐのか?

 少なからず、このアロハは急ぎだったから、この後すぐ何かアクションを起こすはずだ。

「ていうか『生わさび丼』って知ってますか?『ただ主人公が一人でご飯を食べる』っていうドラマで登場してたんですけど、伊豆の方にあって、ただごはんとわさびを一緒に食べるだけなんですよ!多分、普通に水が綺麗だからわさびもおいしくて、香りは良いけど変に辛くないから食べれるっぽいんですよね。いや~普段チューブのわさびしか食べたことないんで、一度そういうのに触れたら人生観変わるんですかねぇ。そういえば伊豆とインドって語感似てますよね」

「あっ、あの」

 何だろう、最後のインドの下りはさすがに要らなかったかな。

「私、ここで用事があるので、、それでは失礼します。ありがとうございました」

 アロハは公園を指さしてそう言う。わかった。

「そうなんですね!奇遇ですね、私家がこの中にあって」

 最早意地悪というより、支離滅裂な言動をしている。

「えっ…あっ…は、はい…」

「そうそう、私この公園に住んでいて、そうそう、一緒にパン食べます?よるごはん」

 顔ガンギマリで、私は家から持ち帰ったパンを手に取る。クリームパン、大変手ごろなサイズ。

「全然おかず系もあるので、食べたいものがあったら」


「おい」

 アロハの後ろ側から、声が聞こえてくる。

「おい実希、戻ってきたの?」

 背後から、女の子の声が聞こえてくる。アロハじゃない。ジャージ姿だ。ジャージの、多分JKがいる。

メガネをかけていて、化粧も薄い。お風呂に入った後かもしれない。髪もあまりまとまっていない気がする。左目の横の黒子が特徴的だ。ちなみに昔、某バスケ漫画を「ほくろのバスケ」と呼んでいた時期が私にもありました。

 公園は白い照明で照らされている。当たり前だけど、夜の9時を回っているので、子どもの姿は見えない。周辺の住宅はまだ明るいけれど、多くの家庭がクーラーをつけているから、窓は閉められている。

 私たち以外に、公園にいる人はいない。たまに、超きわどい男女がいるんじゃないかと期待してしまうことはあるけれど、そういうテンプレな展開は無さそうだ。ましてや、ホームレスのような人もこのあたりにはいない。さっき私がホームレス宣言をしてしまったけど。

「やるよ、缶蹴り」

 このジャージは、言葉遣いが少し乱暴だ。青い上下のジャージで、下は短パン。格好の雑さと、言葉の雑さが目立つ。

「あっ、あのねお姉ちゃん。缶なんだけど」

 あぁ、そうか。缶蹴りか。というか缶蹴りという単語さえ、久しぶりに聞いた。

私はこれを見たかったんだと。思い出した。一斗缶を持って、アロハ女子中学生が何をしでかすのか。それとも、どのくらい困惑するのか。

「これしかなくて…というか、これを頂いて…」

 このアロハは、思ったよりも私に配慮してくれている。意地悪な私に対しても、「迷惑な奴だ」という扱いではなく、あくまで「缶を頂いたありがたいお方」として言葉上は扱ってくれている。

「いやいや、こんなの大きすぎるでしょ」

 当たり前だ。こんな一斗缶、というか缶蹴り関係なく、どうやって使えばいいんだ。我ながら、頭を全く使っていなかったと反省する。

「まぁそうなんだけど、でも結構これを使っても楽しいかもよ」

「いやいや、おかしいでしょ…全く…」

 この妹アロハは、結構心の広い人間のようだ。ギガギガフンフン。

「で、あなたは何なの?」

 ジャージは結構可愛らしい顔をしていて、姉妹だ、アロハと似ている。だけど、アロハと違って、感情を私にそのまま突き刺してくる。

 確かに、ちょっと、ふざけ過ぎたような気がしている。確かに、何故わさび丼の話までしてしまったし。

「いや~私は、この彼女に頼まれて、お店から空き缶を持ってきただけでして…」

「空き缶?あぁ、これね?」

「そうですそうです!私パン屋の店員なんですけど~是非こちらお使いください~ではでは」

「おい、ちょっと待て」

 私はそそくさと逃げ出そうとしたけれど、ふざけ過ぎたので、帰してくれないようだ。JKジャージが、妹アロハに目配せしている。明らかに機嫌が悪い。明らかに機嫌が悪いけれど、そこまでして缶蹴りをしたいのだろうか?

 私たち以外に、公園にいる人はいないから、要はこのJKジャージがこの場では一番偉い。

「あっ、お腹すきました?もし宜しければ、余りもので恐れ入りますがうちのクロワッサンが」

「いらない、クロワッサンなんていらない」

 ですよねー。というか、結構このJKジャージはどうしたいんだろう?妹アロハも含めて、この2人は自分の意図を話さない。それを聞かない限り、私は何も出来ないのに。

 翻って、JKジャージはこちらを見つめている。どこか、考えがあるように。

「おい、ねぇあなた。付き合ってよ。缶蹴り」

「缶蹴り…ですか…?いや、なぜ…?」

「いいから、どうせ時間あるでしょ?別に何時間もやる訳じゃないし、いいじゃん、付き合ってよ」

 先ほどまでと比べて、顔はそこまでイライラしていない。充実した缶蹴りを行うことが、こいつにとって第一目標なのだろうか。

「まぁ、いいですよ…一回くらいなら全然…」

 私はそう言いながら、荷物をベンチに置く。

「あの…パン屋さん…ごめんなさい…付き合わせてしまって…」

 妹アロハは私に近づき、申し訳なさそうに頭を下げる。とはいえ、大変小声で、JKジャージにかなり気を使っているようだ。

「いや…あの、アロハさんはいつもお姉さん?と缶蹴りをしているんですか…?」

「はい…そうなんです…でもあまり、周りの人には言ってなくて…」

 普通に「アロハさん」で通ってしまった。いいんかい。

「まぁそうでしょうね…でも、どうしてこんな缶蹴りを…?」

 私は質問する。私は、耳を傾ける。

「いや、まぁ色々ちょっとありまして…すいません…」

 質問の仕方が悪いというより、タイミングがすこぶる悪そうである。



◆◆◆作者よりお礼とお願い◆◆◆

ここまで読んで戴きありがとうございました。

お待たせいたしました、、ようやく本題に入りつつあります、、!

是非とも!★評価とフォローをお願いします。

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