缶蹴りなんて③

「よっし終わった~!」

「というか、金山が仕事が遅いだけじゃん」

「いやいや…荒崎さんにはいつも感謝しています…」

 金山は、良くも悪くも一般的な男子っぽいので、そこまで手際が良くない。金山は、良くも悪くも「楽しんでやろう!」みたいな人間なので、そこまで仕事は早くない。まぁそのことも織り込み済みなので、適当に私が手伝ってあげるのが恒例だ。

 高戸さんはまだレジ締めが終わっていないらしく、私たちは2人で先に帰る。家の方向は真逆何で、すぐ店の前で別れる。このあたり、ドライなのだ。

 既に夜の9時はまわっている。さすが夏の終わり。夜になるとしっかり涼しくなる。夏の終わりと言えば、大変感傷的な季節ではあると思うけど、そこまで感情が揺さぶられることもない。あるとして、授業がまた再開して面倒だなという位である。

反対側の歩道で、夫婦が楽しそうにランニングをしている。お互い励まし合いながら、言葉をかけあっている。模範的な夫婦である。単純に、外で仕事をしたり家事をしたりして生活を過ごすだけでなく、そこからさらにプラスでランニングという努力を重ねている。否、彼らにとっては特段努力でも何でもないのだろう。最早ゼェゼェ走ることでさえ、「2人ならきっと楽しい!」理論で軽々しく通り抜けていくのだろう。

軽々しく、彼らが通り抜けていくものが、私にはまだわからない。夏の終わりだから、夏の終わりっぽい曲がこれから至るところでかかる。曲を聴いて感動することはあるけれど、それがどのようにして自分の日常とリンクするの、あまりよくわからない。というか、多くの人が「よくわからない」のだと思う。「夜中一緒に駆けましょうや」みたいな曲を、昼間散歩している自撮りと共にSNSにアップするように、あまり聴き手にとってふさわしい「文脈」があるとも思えない。そう考えると、あらゆる曲が自分にとって宙に浮いている様に感じられてしまう。

「う~ん、もうお店しまっちゃったかな…」

 ふと気づくと、店のドアの前に、女の子が突っ立っていた。中学生くらいか?制服は来ていないけれど、下は短パンに、上はアロハシャツを着ている。このあたりの街並みに、合わない。

「さすがに誰もいないかなぁ…どうしよう‥」

服装は大変アゲアゲなのに、顔は超不安そうじゃん。ていうか、このあたりでアロハシャツを着ていると、結構浮くもんなんだな。こういう時こそ、「夜中一緒に駆けましょうや」みたいな曲をかけるべきなのかもしれない。

 女の子は地べたに寝っ転がったりして、店の中を覗こうとしている。何がしたいんだろう?

「あっ、あの」

 やばっ、こちらに気付いたようだ。帰りたい。

「こちらお店の店員さんですか?」

「は…はぁ…そうですが、、どうしたんでしょうか…?」

 アロハシャツは、神妙な顔つきでこちらを見つめてくる。そんなに真剣にならなければいけないことがあるのだろうか?なんだろう、「大エビフライ祭りをするのにパン粉が足りなんです…」とか?いやいや、そんなはずは、というか「大エビフライ祭り」って何だよ。

「あの…丈夫な空き缶とかってお持ちだったりしますか…?」

「缶…ですか…?具体的にはどのような、、」

「いや、何でも良いんです。単純に、丈夫で手ごろなものが1つあればいいんです」

 私は「使用シーン」を聞きたかった。相手の目的というのを踏まえて、話をしたかった。だけど、少しだけこのアロハとは距離を感じる。

 ちょっとお待ちくださいと私は告げて、店の裏側にまわる。空き缶なんて、お店の分別されたゴミ箱に山ほどある。

 そもそも、何故この店の前に現れたのだろう?自分の家にもあるだろうし、もしくは空いているコンビニだって近所にいくらでもあるから、適当にジュースを買って飲み干しもよさそうだ。それこそ、1つあればいいのであれば。

はたまた、急いでいる?急いで焦って、判断能力を欠いてしまっている?だからアロハ?

私は、ゴミ箱の蓋を開ける。文字通り、山ほどある空き缶のかたまりを見つめる。トマト缶、フルーツ缶、バターの缶、よりどりみどりである。

私は、缶に手を付ける。どれでも良さそうだけど、そもそも「どれが相手にとって最適か?」を考えられるほど、私はヒントを持ち合わせていない。

私は、意地悪をしたくなる。私は、相手の言いなりにホイホイ従う程、私は、馬鹿じゃない。

「どれが相手にとって最適か?」が特にないなら、私が見たい未来を見ればいい。私はやりたいようにやる。意地悪をしたくなるのは、相手と私が関係ないからだ。だから。


「お待たせしました!!!」

 顔ガンギマリで私は戻る。

「ありがとうござい…こ、これは…?」

「空き缶です」

 顔ガンギマリで私は言う。

 私が用意したのは、一斗缶。

手頃なサイズだろう。レ〇ギガスあたりが持てばね。ギガギガフンフン。

「パン屋でも結構食用油を使うんですよね、だからこのくらいの缶がたくさんあって、処分するのも面倒なので、丁度助かりました」

「あっ、ありがとうございます。。こちら、活用させていただきます…」

 明らかに、困惑している。そりゃそうだ、伝える努力をしてないからだ。

「それでは失礼いたします。。」

そう言いながらアロハは歩き出す。だけど私は、意地悪をしたくなる。顔ガンギマリで。

「あれ、私も家がそっちの方向にあるんです、奇遇ですね」

 普通に嘘です。

「そうなんですか…」

 アロハは、「マジで早くどこか行けよ…」という顔でこちらを見つめてくる。中々にシュールだ、一斗缶を抱えるアロハと、バイト終わりのキラキラJK。

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