オーロラなんて①

「強くなりたいに決まってるじゃん?大会で勝ちたいに決まってんじゃん?」

「はいはい」

「でもさ、皆動きが鈍いんだよね。いや、練習をさぼっているとかじゃないんだけど、なんか、ウダウダずっと休憩しているっていうか…」

「わかる、なんかあるよね。休憩も大事だし、それこそ、脱水症状とかになったら大変だから」


 ただただ、相手の話を聴く。


「しっかり水を飲むことも大事だけどさ。もっとキビキビ動いて欲しいときあるよね」

「そうそう!でさ、私も言うんだけどさ、なんていうんだろう…まぁ元々同じ学年の仲間だからっていうのもあるんだけど、なんか…まだ自分の部長らしさが足りないっていうか…」

「うん…そういうのもあるとは思うけど。別に七島が悪いっていう訳じゃないと思うよ。普通に部員全体の意識の問題でもあると思うし」

「いや、そうなんだけどさ~でもさ、もうちょっと、言っちゃなんだけど私に対する敬意というか、そういうものを持ってくれないかな~って」


ひたすら、自分の話をする。ただただ、喋りっぱなし。


七島は、私にひたすら自分の話をしてくる。自分の部活の話をしてくる。


 十月の金曜日。既に時計は十七時を回っている。辺りは真っ暗だ。

 選択B教室。なんてことはない、私たちの唯一の活動場所だといえども、単なる教室である。普段は選択授業の時に使われるという教室で、数学か古典か、とか、物理か化学か、といった選択式の時間に使用される。なんてことはない、私たちの選択と言うものは。


 高校生でも、仰々しく「進路選択」などというものをするけれど、私たちが選べる範囲なんて、たかが知れている。選んだとしても、実感が無いし、それこそ「離島でジャム屋を開きたいです」なんて言ったら、絶対に否定される。


 人間というものは、「差分」の中でしか意思決定が出来ない。自分と、自分より1つ下のランクの人間を比較して、その「差」の中にしか自分の選択肢が存在しないと、錯覚している。


 そんなことはない。本当は、私たちは何をしたって良いし、「らしくない」ことをしたっていい。少なくとも、私が七島の話を聴いているくらいには。


「そっか、でも新人大会だっけ、結構近いんだっけ」

「そうそう!もう来月なんだよ…そろそろメンバーとかも決めなきゃなんだけど、なんかそのレギュラー決めに関してもあんまり皆緊張感ないんだよな~」


 他の教室に生徒はいないから、廊下以外は真っ暗になっている。だから、傍から見れば、教室に2人だけでたたずむ私たちは、かえって目立って見えるだろう。光り輝く女子高生、イェア。


「だったら七島は少し強権的になれば?ずっとそういうキャラでやってるんでしょう?」

「やっぱりそれしかないかな~少しこっちも態度を変えたら皆ビビるよね。今度やってみようかな」

「まぁアメとムチだよ」

 古来より古く使われている言葉を、私は発する。

「ほほぅ、その心は」

「今風に言うとツンデレとも言うよね。普段はいつも通りの感じで良いと思うんだけど、たまに厳しくなる。で、その配分を考える訳です」

 またまた日本に古来より伝わる「様式美」について話す。

「なるほど、5対5とか?」

「う~んあんまりよくわからないけど…初めは3対7とかかな…?」

「あ、でもツンデレ黄金比は9対1ってネットに書いてあるよ!」

 そうやって七島は、スマホの画面を私に見せる。おい、更新年が2009ってなってるぞ。でも実際に考えてみると、「ツンデレ」という言葉は、結構賞味期限が長い気がする。「笑う」を表現する方法が「w」や「草」と色々ある(からこそ変遷がある)のに対して、「ツンデレ」は「ツンデレ」としか表現できないのかもしれない。なんだ、他に表現するとしたら…「メロコワ」‥?メロディック・ハードコア…?

「それは、その記事を書いた人が相当ドMなんだろうね…時代…」

「はっ、おい、なんだよ?」

「いや、怖い怖い…いきなりツンを出してこないでください…ていうか言葉遣いも悪いし…」

「すりつぶすぞ」

「いやいや…離乳食を作るんじゃないんだから…」

「人肌まで冷ますぞ」

「ホントに離乳食作ってんじゃん…」

 結局デレ(というか母性)が出てきている。

「でもこういうもんなんじゃないの?」

「いや…私も分からないけど…でも初めはちょっとずつでいいんじゃないかな?」

「まぁちょっと考えてみるよ、なんか、自分の身の振り方とか」

 七島は立ち上がる。立ち上がって窓の外を見る。


 眼前に広がるは横浜港。とはいえ、ほぼほぼ工業地帯である。昼はもくもく煙を上げて、決してロマンチックとは言えない。だけど、夜になってしまえば関係なく、光り輝く「なんかいい感じのもの」になる。夜景をバックに、光り輝く女子高生、イェア。


 「自分の身の振り方」なんて、一度も考えたことが無い。少なくとも、そういう1つの「組織」の中で自分が人の目にどう映るかなんて、一度も考えたことが無い。もちろん、無意識のうちに考えたりはするんだろうけど、自分の身の振り方が、全体のパフォーマンスに大きな影響を及ぼすなどということは、自分は一生経験することは無いと思う。


◆◆◆作者よりお礼とお願い◆◆◆

ここまで読んで戴きありがとうございました。

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