第11話
「ま、待ってください!い、今私のことを『美羽』って呼びましたよねっ?ど、どういうことですかぁっ?!」と尋ねた瞬間、私は彼女に抱き締められながら頭を撫でられていたのだがそこでふと気が付いたことがあり尋ねてみることにした。
「……あれ、もしかしてなんですけど私と何処かで会ったことがあるんじゃないですか?」
「えぇ、そうよ。とは言っても正確に言うと違うんだけど、あなたが考えているように私もあなたと同じ転生者なのよ!ただ、ちょっと訳ありで記憶を失くしちゃった状態で転生してしまったから、今のあなたのような状態になる前の記憶がほとんどない状態になっちゃってるのよねぇ。それにどうやらお互いに相手に関する記憶だけを忘れてしまったみたいだからお互いのことを知ることが出来なかったっていうわけなの、残念でしょうけどね?」とそこで一旦言葉を切った彼女は、それから私の顔を見つめて微笑みながらさらに続けた。
「……だけどね、今はこうやってまた再会することができたんだしこれからは二人で協力してやっていきましょうね♪勿論、今までのように他の人達の目を盗んで二人だけで過ごすことも出来るはずだから楽しみましょ♪」
「……わ、わかりました。それじゃあまずはこれからどうすればいいかを考えるためにも自己紹介から始めていきましょうか。そ、それでは私からですね!改めましてこんにちは、そしてお久しぶりですね……いや違いますか、この場合は初めましてと言った方が正しいでしょうか??改めて、私は佐藤美羽と言います、よろしくお願いしますね!」
そうして互いに名乗りあった後で初めて出会った時と同じような感じで軽いスキンシップを取った後にようやく落ち着いた私達はゆっくりと話をすることにしたのだった。(ふぅ……、一時はどうなることかと思いましたけど何とか上手く切り抜けることができたみたいですね!それにしてもさっき鏡の中に映っていた女性の正体はいったい誰なんでしょうか?というか、何であんなに馴れ馴れしく接してきたんでしょう??)そんなことを考えながら首を傾げていたのだが、その時には彼女の方から先に話し掛けられていたので考え事を中断せざるを得なかった。
「さて、それじゃ早速だけど今の状況について説明させてもらうわね。あなたはさっきまで自分がどういう状態だったか覚えてる?」
「え?あ、はい、それは覚えてますよ!仕事が終わって帰ろうとしてたら何故か記憶が無くなってしまってて気が付けば見知らぬ場所で目を覚ましたんですよねぇ〜。」
「そう、それなら話は早いわね。実はね、あなたは仕事から帰る途中にトラックに跳ねられて命を落としちゃったのよ。それも、かなりひどい有様だったらしくて即死に近い状態だったみたいなの。それで本当ならそこで終わるはずだったんだけど運悪く女神の目に留まってしまい、本来ならそのまま消滅するだけだった魂を自分の管理する世界に送る代わりに転生して幸せになる権利を得たというわけよ。まぁ細かい部分まで説明すると長くなって面倒臭いから割愛するけどそういうことだから理解しておいてね!」といってウインクしてくる彼女に若干引き気味になりながらも頷いた私だったのだが、その後に続いた言葉で今度は私の方が固まってしまうことになった!「……それからこれはあなたにお願いしておきたいことなのだけれど、もし次に生まれ変わるとしたら今回みたいに誰かに殺されて死んだりしないようにしてほしいのよね。あなたのような存在はとても貴重なのだからむやみに死なせたりなんてしたくないからね、その点だけは気をつけておいてほしいのよ。わかったかしら?」
その言葉を聞いて私は愕然としながらもどうにか頷いてみせたものの、心の中では全く別のことを考えていたため思わず呟いてしまっていた。
(そ、そんな……!?私が死んでしまった原因がまさかそんなことになっていただなんて……。それにこの女神様が言うには私は本当に誰かに殺されたということになるみたいですが一体どういうことなのかさっぱりわからないです!!ですが、それでもまだ一つだけ確かなことが言えますね!それは今の私には絶対に死ねない理由があるってことですよ!)そう強く決意を固めた私が顔を上げてしっかりと頷くと、それを見た女神様の方も安心したらしく優しく微笑みながら私を抱きしめてくると耳元でこう囁いてきたのだ……「うん、いい心構えね♪あなたの気持ちは十分に伝わったし安心して任せてちょうだい、きっと悪いようにはしないつもりだから♪それともう一つ伝えておくことがあるのだけど、実は今回の転生では特別にあなたに対して一つだけ特別な力をプレゼントしているの。だから、あなたがこの世界で幸せに過ごすためには何が何でもその力を使えるようになること、これが一番重要になってくるから頑張ってほしいの!もしもその力が使えなかったらあなたはすぐに死んじゃうことになるから注意してちょうだい。……それじゃそろそろ時間切れだし元の場所に戻すわね。色々と不安はあるかもしれないけど、とにかく無事に過ごしてくれたらそれでいいからあとはよろしく頼んだわよ!!」
その言葉を言い終わった直後に私の意識は途切れてしまい、気が付いた時には見慣れた自宅のベッドの上だった。
「……ん、んん……、はぁ〜……。私、どうしてこんなところに寝てるのかしら……?」
そう思いながら辺りを見回すとすぐ側にスマホが落ちているのが見えた私はそれを手に取り画面を点けてみたところ、そこに表示された日付を見てようやく何が起きたのかを思い出した!!「……あぁそっか、確か昨日は職場で急に倒れて病院に運ばれた挙句そのまま入院することになったんだっけ?……それにしても随分とリアルな夢を見ていた気がするなぁ〜、まるで本当の出来事みたいだったもん!それにあんな綺麗な女の人に会ったことなんて今まで一度も無かったしもしかしたら前世でも知り合いだった人なのかもしれないよね?!ふふっ、だとしたら嬉しいなぁ〜♪」
そんなことを考えつつもベッドから降りたところで私は鏡の前へと移動していくと、いつものように自分の姿を確認してから笑顔を作ってみることにした!!するとその時に見えた私の顔はまるで作り物みたいに整っていて一瞬驚いてしまったのだが、そこであることに気が付いて思わず叫んでしまった!「……う、嘘っ!ほ、本当に私の身体が変わっていってるわ……!!な、何でこんないきなり変わっちゃったのよぉっ?!」
しかしそこで私はあることを思い出してしまった!
(……そういえばあの時にあの鏡の中に居たはずの女性は私のことを美羽って呼んでたような気がするんだけど、これってつまりそういうことだよね……?だとするとあの人の正体はやっぱりこの私ということになってしまうはずなんだけど、だったらどうしてそんな人があんなことをしたんだろうか?しかも私に『あなたがこの世界にいる限り必ず会いに来る』って言っていたような気が……!)
そこで一度考え込んでしまったのだがどうしても答えを見つけることが出来なかったので、仕方なく考えるのをやめることにした私はとりあえず朝の準備を済ませるといつも通り仕事に向かうことにしたのだった。
その日の夕方になってやっと仕事が一段落ついたので伸びをしていると、同僚の女の子が声をかけてきた。
「美羽ちゃん、お疲れ様〜!今日はいつにも増して元気がないみたいだけど何かあったの??」と尋ねてきたので、私は素直に今日あったことを話してあげることにした。するとそれを聞いた彼女は最初は驚いていたものの最終的には納得してくれて、それからこんなことを言い出した。
「そうだったんだね!それなら今度私と一緒に行ってみない??私も前から興味があったから一回だけ入ってみたことあるんだけど結構いい感じだったんだよねぇ〜♪だから良かったら美羽ちゃんも一緒に行こうよ!ねっ、いいでしょ??」
そう言って笑顔で誘ってきた彼女に少し悩んだ末に頷き返した私は早速その日の帰りに行ってみることにしたのだった!
「あ、美羽!待ってたよ!こっちだよ、早くこっちに来てみてよっ!」という元気な声の方へと向かって行ったところ、そこには水着姿で立っている彼女が待っていた!どうやらここはプール施設の一部らしいのだが更衣室で着替えてこなければいけない決まりになっているそうで、彼女もそのために私を呼んだようだ。(それにしてもここの施設にはよく来ているとは聞いていたけどこんなに立派な建物があるとは思ってもいなかったな!)
そんなことを考えながら中に入って行く彼女の後を追いかけていくと、その先にある部屋の一つに案内されたので二人で中に入るとそこでは数名の男女が着替えている真っ最中であり私達が入ると同時にみんな驚いた様子でこちらを見てきたのだが、その中でも一際目立った女性がいた!(うわっ!すっごい美人だなぁ〜……、この人こそまさに女神って感じだね!!)そんなことを考えながら思わず見蕩れてしまっていたところ、彼女は不意にこちらへと近寄ってきてから声を掛けてきた。
「……あら、あなたも来ていたのね?ちょうど良かったわ、今ここで会えたことに感謝しないといけないわね!だってあなたに会わせるためだけに今日の予定を組んだようなものなのだから……。」と言って笑みを浮かべた彼女を見た私はなぜか悪寒のようなものを感じたのだが、それに対して不思議そうな表情を浮かべていた他の女の子達が話しかけてきたため私は何とか平静を保つことに成功した。そして、その後は彼女達と共に色々な話をしたりしながら楽しく過ごしながら、帰り際にはまたここに遊びに来ようと約束してからその場を後にしたのだった。
それから数日後、仕事終わりに例の女性から再び連絡が入ったことで彼女と待ち合わせをする約束をした私は待ち合わせ場所へと向かうと、そこにはすでに彼女の姿があった。なのでそのまま近付こうとしたところで何故か彼女に腕を引っ張られて近くの路地裏へと連れて行かれてしまったのだが、そこで唐突にこう尋ねられたのだ。「実はね、あなたに会わせたい人がいるのよ。だけどその人はちょっと訳ありで誰にも見られたくないって言ってるから、こうして隠れて会わないといけないわけなのよねぇ〜。というわけで悪いけど少しの間じっとしててくれるかしら?そうすればきっと満足してくれるはずだから……!」と言った直後、急に意識が遠のいてしまった私はその場で倒れ込んでしまい、それを優しく抱き止めてくれる彼女の胸の感触を感じながら完全に意識を失ってしまった……。それからどれくらいの時間が経過したのだろうか、次に目を覚ました時には見知らぬ場所に横になっていた私が慌てて起き上がると、そこで初めて自分に何が起きたのかを悟ってしまったのだ!なぜなら、私のすぐ側にあの女神様が座っていたからである……。
(……い、いったいどういうこと?!確かに私はあのときに気を失ったはずなのに今は全く別の場所にいるなんてどう考えてもおかしいよね!!だ、だとしたら考えられることは一つしかないじゃない!まさかとは思うけど、本当にこんなことが起きてしまうだなんて信じられませんよぉっ!!!)そんなことを考えながら呆然としていると、女神様の方がゆっくりと近付いてきながら話し掛けてきた。「……目が覚めたみたいね?その様子を見る限りだと私があなたを気絶させた理由をもう察してくれているようね!実はね、あなたはあの時に会ったあの女性のことを覚えていたりするのかしら?」そう言いながら女神様が指差した方向に視線を向けると、そこに見えたものに私は思わず驚愕してしまった!何故ならそこにあったのは鏡に映っている私の姿だったらしく、そのあまりの衝撃に言葉を失っていたところ女神様はこう続けてきたのだ。
「ふふ、やっぱりそうみたいね!まぁ、それも無理はないか……。でも残念ながらあなたが考えているようにあれは間違いなく本物のあなた自身なのよ!どうしてそんなことをしているのかまでは教えてあげられそうにないけれど、少なくともあなたのために何かしようとしてくれてるのは間違いないはずよ。それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけどね……。」そこまで言ったところで急に黙りこくってしまった女神様だったが、すぐに私の方へ視線を戻すとさらに続けてこんなことを言ってきた!「とにかくそういうわけだからしばらくの間大人しくしていてほしいのよ。もしも余計な動きを見せたりしたらそれこそ取り返しのつかないことになってしまうかもしれないからね!それでは、これからしばらくあなたの世話はこの人達に任せることにするわ。だから何も心配せずにしっかりと過ごしておきなさい!」と言い終わるなり突然強い光に包まれたかと思うと、それと同時に私の意識は再び失われていったのだった……。
「……ん、んんっ!はぁ、はぁっ……!や、やっと起きましたか!随分と長い居眠りだったようでしたがようやく目を覚ましてくれたみたいですね!まったく、人を呼んでおいていつまで待たせるつもりなんですか!!いくらなんでも長すぎですよ!!って、そんなことよりまずは確認しないといけませんね!本当にちゃんと生きているのかを……。」
「……な、何をいきなり失礼なことを言ってるんですかぁっ?!そんなわけないじゃないですかっ!!わ、私だって生きてるんですから当然でしょう!!」と、思わず叫んでしまっていた私だったのだが、それを聞いて安心した様子を見せた男の方が私にこんな質問を投げ掛けてきた!「そうですか、それは安心しました!それにしてもあなたが無事で何よりです!あれから一体どうなったのかと心配してましたが元気そうでなによりですね♪ですがそれはそれとして、どうしてこんなところにいるのかはわかりますか?確かあなたはあのお方に頼まれてあの方に会いに行っていたはずなんですが、その時に何かあったんですか??」
その質問に私が首を横に振って答えると、男は納得して頷き返してきた。「ふむ、どうやらそういうことではないようですね!しかしだとするとやはりあの方に何かが起こったと考えるのが妥当でしょうし、そうなればこちらものんびりとしてはいられませんね……!そういうわけで申し訳ないのですがあなたにはしばらくここにいてもらうことにします!詳しい説明についてはまた後で話すことになると思うのでとりあえずはここでゆっくり休んでいてくださいね。それじゃあ私達は一旦席を外しますが、何かあったらすぐに近くにいる誰かに知らせてください。それでは失礼しますね!」と言いながら出ていった彼らの足音が遠ざかっていき、その場に静寂が訪れたところで私は一人考え込んでいた。(う〜ん、やっぱり今の状況はかなりヤバいことになっているみたいだよね……。もしこのことがあの女神様にも知られたら大変なことになるだろうから絶対に気を付けないといけないんだけど、今はとにかくここから脱出する方法を考えないとだよね!それにしても、どうしてこんなことになったんだろ……?)
そう思い悩んでいた私だったのだが、いくら考えたところでこの状況が打開出来るとは思えず次第に考えること自体が面倒になってきてしまったので、私はとりあえず気持ちを落ち着かせることにした!そしてその後で何気なく周りを見回したところ、部屋のあちこちに見覚えのあるものがたくさんあることに気が付いた!(あっ、これって全部私のものなんだ……!ってことはつまりこの部屋って私の家の地下室だったりするってことなのかな??ということは、もしかしてここはあの人の家だったりとかするのかな?!でもそうだとしても一体どういうことなのかがさっぱりわからないんだよなぁ〜!だってそもそも私がこうして存在していること自体おかしいことだっていうのにその上知らないうちにここへ連れてこられてるわけだし、それにあの時のあの人は私に何かしようとしていてたみたいだったからそれを考えると色々とおかしな点があるんだよね……。う〜ん、これはやっぱり考えても仕方がないってことで割り切るしかないかなぁ〜……)
そんなことを考えながら大きなため息をついたところで私はふと気になることを思いつきそこでもう一度辺りを見渡して確かめてみたのだが、結局この部屋には特に怪しいところはなかったように思えた。なので一先ず安心したところで次に気になっていたことを試してみることにして、鏡の前まで移動するとその前で自分を見つめてみたりしながら色々な表情を作っていったのだが、そうやっているうちにあることに気が付き私は愕然とした……!!何故なら、今の私の顔には普段の面影など微塵もなく全く別の顔へと変わってしまっていることに気がついたからだ!!(こ、これが今の私の顔なの……?嘘でしょ……。で、でもそれならさっき見たものは一体何だったんだろうか……?いや、それよりも何で私はこんなことになってるんだろう……?だって私ってばついこの間まで美羽の姿だったのに、いつの間にか別人になっちゃってるんだもん!!それなのに何で違和感がないのか全然わからなかったけど今ならその理由もはっきりと言えるわ……。私はきっと……、いいえ、確実に今までの記憶を失っているんでしょうね!!だからこそ、私は自分が誰なのかさえわからなくなっているという現状に陥ってしまったに違いないのよ!!あぁ〜、まさかここまで追い詰められることになるなんて思いもしなかったよぉ……。こうなったら一刻も早く逃げ出さないといけないのに逃げるどころか逃げ出すことすら出来そうにもないし、どうしたらいいのかわからないよぉ……。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。