第7章 迫りくる魔の手
第57話 魔王たちのバカンス
「ねえレナ姉、こんなのはどう?」
ノナちゃんが持っているのは、水色のワンピースタイプの水着。
「むむぅ……レナさんとしてはもうちょっと攻めたい所存」
なしにろ、わたしにはノナちゃんのような
お腹と背中の露出が鍵でしょう!
わたしたちの部屋のテーブルの上には、数十着を超える水着が置いてあります。
孤児院の運営に四天王手当……増える一方のお給金を使って買いました。
「じゃ、これは?」
次にノナちゃんが水着の山から取り出したのはセパレートタイプの水着。
目の覚めるような赤色で、胸を覆う面積がやけに少ないです。
それで一番高いんですから詐欺じゃないでしょうか。
「ぬはっ!?
また姉いじめだよね?
そうだよね!?」
わたしが涙目で抗議すると、肩をすくめるノナちゃん。
「そんなこと言って、レナ姉もバストが大きくなったじゃない」
「2㎜は測定誤差だと思うんですが!!」
「そう? あたしは2㎝大きくなったわよ?」
「恐ろしい姉妹格差!?」
残酷な現実に、お気に入りのうさちゃんクッションに抱きついたわたしは、ぽすんとベッドにダイブします。
優しくわたしの身体を受け止めてくれるマットレス。
ああ、レナちゃんの胸もこれくらい柔らかければいいのにって……ぐはあっ!?
「レナ姉が手の込んだ自害をしてる……」
孤児院の運営も軌道に乗った今日この頃……わたしとノナちゃんは久々におやすみを堪能しています。
わたしたちの部屋の窓からは、さんさんと照り付ける真夏の太陽が。
ガイおにーさんに下僕にされてから、いつの間にか半年近い時間が経ちました。
勇者フェリシアさんもどこかに吹き飛ばされてしまったのか、あれから現れません。
おにーさんの力は下がったままですが、四天王であるわたしたちが超レベルアップしたのでっ!
ちょっとくらいのんびりしても大丈夫でしょう。
「お~い、お前達! 準備はいいか?」
「ん! 今行くわ!」
部屋の外からガイおにーさんの声が聞こえます。
「ノナちゃん、とりあえず全部持って行こう」
「りょーかい!」
もうそろそろ出発の時間のようです。
わたしはノナちゃんに声を掛けると、水着たちをカバンに詰め込みます。
がちゃっ
「ごめん、おにーさん! 準備に手間取っちゃった」
「くくっ、四天王女子ともなれば準備に時間が掛かるだろうしな! いいってことよ!」
部屋のドアを開けると、ラフな黒いシャツ、短パンサンダル姿のガイおにーさんが立っています。
腰にはなめし皮で作られた浮き輪を装備と、超気合が入っています!
「よし、お前達! 海に向けて進撃だ!!
過酷な無人島キャンプに出発だぜ!!」
「らじゃー!」
「えいえいおー!」
そう、わたしたちとガイおにーさんは1週間の休暇を取り……南の島に訓練という名のバカンスに向かうのですっ!
*** ***
「くくっ……実地訓練だ、ノナ。
長距離転移魔術を使ってみろ。
座標設定は慎重にするんだぜ?
ポイントGH-ISL876272、グリッドA-81771だ」
「……ふん、あれだけ練習したんだから、任せてよね!!」
「ふふ、頼りにしてるぜ、四天王ノナ」
ヴンッ!
あたしは転移魔法の術式を展開し、転移先の座標をイメージする。
行きたい場所を立体的にイメージし、格子模様の枠の中に落とし込むのがコツだ。
ガイは1メートル四方の精度で転移できるらしいけど、あたしにはまだ無理。
頭の中に転移先の南の島の地図をイメージ、10メートル四方のグリッドを上乗せしていく。
島の南には広い砂浜があるから、そこなら岩や木にぶつかる心配はないだろう。
(だけど……)
あたしは慎重に転移先座標を調整しながら、ちらりと背後に視線をやる。
相変わらず邪悪な笑みを浮かべて仁王立ちするガイ。
その自信満々な立ち振る舞いにはいささかの曇りもないのだけれど。
(おにーさんが”力”を使う場面、減ったよね……)
あたしの横に立ったレナ姉がそっと耳打ちする。
そう。
定期的なモンスター退治はあたしたちに任せてくれるし、王都への通勤もあたしの転移魔法を使うことが多い。
王都民さんへの”虐待”でどうしても錬成魔法が必要なときはガイの出番だけど……最近はご飯もほとんど普通に調理している。
(それに……)
あたしはこないだ見てしまったのだ。
夜中にトイレに起きた時、魔王城の尖塔の屋根に立って一人頭を抱え、苦悩するガイを。
あたしが初めて見た、自信なさげなガイの姿。
(呪われた島、レルムーラ島……少しでもガイおにーさんの力が戻ってくれれば、だね!)
レナ姉の言葉に小さくうなずく。
バカンスの目的地は大海の南の果てに浮かぶ絶海の孤島。
王宮に伝わりし古文書に記されている”魔”の島だ。
「よし、行くわよっ!!」
ぱしゅん!
あたしはガイとレナ姉の手を握ると、転移魔法を発動させた。
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