第49話 魔王俺、世界経済を牛耳ってみた

 

「ば、馬鹿な!?」


「これだけの純金がどこから湧いてきたんだ!?」


 ここは世界最大国家、グラノール帝国の中央取引市場。

 半月ほど前から市場に投入され続ける大量の純金に、商人たちは大混乱に陥っていた。


 1か月ほど前、刻印を削り取られたインゴットが国際金市場に割安で登場し、金商人たちは大いに潤った。

 出所は、ならず者に襲撃されたというジール王国の中央銀行かもしれないが、証拠は無いし正直知った事ではない。


 ここ数年、世界の金本位制経済の中枢を担うグラノール帝国の市場操作で、金は空前の高値を付けていた。

 ハイエナのような金商人たちは手に入れたインゴットを担保に大量の資金を調達し、下落していたジール王国の国債や国有企業の株を買いあさった。


 ジール王国は目立った産業は無いが、世界最大の農業生産力を持つ国である。

 ジール王国を経済的に支配することで、莫大な利益が彼らのもとに入るはずであったが……。


 突如マオーメタルなる謎の企業が、高品質の純金を市場に流し始めたのだ。

 その量は1日数十トンに及び、たちまち金の価値は暴落した。


「わ、ワシの資産があぁぁぁぁあああ……」


 市場の片隅で頭を抱えている商人は一人や二人ではない。

 担保にしていた金の価値が暴落したため、莫大な含み損を抱える商人が続出……やむなく格安で手放したジール王国の国債や株を、マオーメタルは買い占めて行った。


 この日を境に、世界経済を裏から支配していたグラノール帝国は急速に没落していくのだった。



 ***  ***


「かくして俺様はジール王国の債権の60%、国有企業の株70%に……ついでになんちゃら帝国上場企業の過半数の株を格安で手に入れたのだ!!」


「ふ、ふおぉ……!?」


 冒険者ギルドの所属の学者さんと合同で立ち上げた”マオーメタル”が本格稼働して1か月。

 わたしたちの資産はとんでもないことになっていました。


「レナ姉……ゼロが、ゼロがいっぱい並んでるわよ!!」


「あうあう」


 ギルドの事務員さんが持ってきてくれた収支報告書にはたくさんの数字が並んでいて……わたしたちの元には、配当だけでも7000億センド以上の大金が転がり込んだよ―です。


「あたしたち7億年くらいは遊んで暮らせるわね……」


「えた~なるっ!?」


 そのころには別の種族に進化していそうですがっ。


「ガイおにーさんやべぇ……投資の鬼か!」


 いくらわたしたちが金を無限生成できるとはいえ、投資は介入するタイミングが重要なはずです。

 安く買って高く売る……口で言うのは簡単ですが、おにーさんの見極めはチートを通り越し悪魔的レベルといえます。


「くくっ……力で支配するだけでは、まだまだ半人魔王。

 経済的にも牛耳ってこその大魔王!!

 オヤジにみっちり仕込まれたからな!!

 この世界の株式市場は未熟だからな……簡単だったぜ!」


 ガイおにーさんのドヤ顔もいつもの五割増しです。


「グラノールてーこくは大混乱みたいよ?

 今回はいつもと違って、ガイも超ガチね!」


「ふん、俺様が手に入れた国を使って金儲けをしようとするハゲタカ連中は気にくわねぇ! 虐待する価値もないから潰してやったぜ!」


「もちろん失職した連中は俺様のマオーメタルで強制徴用だ!

 慣れない仕事で苦労するがいいぜ!!」


 ……そーいえば弊社の従業員がいつのまにか数千人を超えています!

 ハゲタカファンドを経営していた商人さんたちはともかく、従業員さんたちはウチで雇ったそうです。


「せっかく転職したというのに、給金はたったの1割アップ! おのれの不幸を呪うがいいぜ!!」


 ……転職者さんたちから、感謝の声がいっぱい届いているのはひとまず置いておきましょう。



「くくく……グラノール帝国は世界中の国々に不要な諍いを起こさせ、戦いに介入する死の商人でしたから。

 むしろ喝采の声の方が大きいです……ざまぁみろ」


 資料を持ってきてくれたギルドの事務員さん (レナ的には密かにギルド最強じゃないかと思っているのですが)が悪い笑みを浮かべています。

 いつもの優しい虐待じゃなく、ガチでシバきに行っても最終的にはみんなの為になるのがガイおにーさんっぽいです!


「さぁて……これで名実ともに俺様がジール王国の支配者となったわけだが!!」


 にやり、と邪悪な笑みを浮かべたガイおにーさんが大きな紙を壁に貼り付けはじめます。


 レナ知ってます!

 連日深夜まで掛けて”ジール王国丸ごと虐待計画”を練っていたおにーさんの姿を!!


 でっかい紙は10枚以上に及び、魔王城会議室の壁一面を覆い尽くします。

 所々に手描きのイラストがちりばめられていて、とってもかわいいですっ!


「お前ら見とけよぉ!! これが俺様の究極虐待だ!!」


 ばばん!


 その紙に書かれていたのは……。


 ・王国住人全員に、月額1万センドの手当を支給する→王国内で利用できる飲食クーポン付き!

 働く意欲を無くした住民どもは外食しまくって散財するのだ!!


 ・国内に100カ所の学校を新設し、魔王軍式洗脳教育を強制する。

 モットーは強く賢く美しく! 学術から魔術まで! 授業料はもちろん無料!!

 貴族相手に商売していた私塾は商売あがったりだな!


 ・王国民を更に骨抜きにするために、競馬場、カジノなどの娯楽を整備!

 何と売り上げの50パーセントを俺様がせしめ、孤児たちに分配する。

 無垢なガキどもは俺様の忠実な尖兵となるのだ!!


 ・上記に関連して、孤児院を隠れ蓑にした魔王軍戦士の養成機関を設立する。

 魔王式暗殺術 (※護身術)

 敵国への浸透工作技術 (※一般市民に溶け込むための一般常識と豊かな人間性)を叩き込み、20歳を迎えた連中は強制的に退役させる。

 手厚い補助金を与え強制的にお見合いさせた後、希望者には次世代の魔王軍戦士を育成してもらう。


「素晴らしい!! これだけの金があるからこそ出来る悪辣な支配!!

 この世界は今後数千年間、魔王ガイ様とその子孫により支配されるのだ!!

 ふははははははっ!!」


 高笑いを続けるガイおにーさん。


「まったく……ガイったら絶好調ね」


 ガイおにーさんはさっそく役人さんを呼びつけて何やら指示しています。

 役人さんの顔は興奮で紅潮していますが、おにーさんには屈辱に震えているように見えるんでしょう♪


「ふふっ……」


「えへへ……」


 わたしとノナちゃんの視線は、壁に貼られた虐待計画の一部に釘付けになります。


 お城の隣に作られる”魔王孤児院”……ガイおにーさんは優しいので、わたしたちのような境遇の子たちを救うことにしたのでしょう。


「にぎやかになりそうね!!」


 わたしたちがもらった幸せを、今度はこの子たちに分けてあげるんだ。


「そのためにも……もっと強くなるよノナちゃん!」


「もちろんよ!!」


 全力が出せないガイおにーさんの為にも、もっとレベルアップしないといけません。

 わたしとノナちゃんは意気揚々とお城の地下に設けられた訓練場に向かうのでした。


「ところでノナさんや」


「どうしたのレナ姉?」


「ガイおにーさんの言っていた魔王ガイ様とその子孫ってもしかしてっ……」


「!?!?!? なに言ってんのよレナ姉!!」


「あ、あうあうあう!」


 自分で言ってて恥ずかしくなってしまいました。

 今はこの幸せで十分。


 煩悩を振り払うようにスパーリングに没頭するわたしなのでした。

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