第48話 魔王俺の王都虐待計画
「正義傭兵団の残党が物資を持ち逃げしたため、特に回復アイテムや医療品が不足しているようです。
それに、大量の金塊が流出したため、ジール王国のタイガイケッサイ(?)に支障が出ている……とのことですが」
「ふむ……」
王都の手下共 (冒険者ギルド)から届く報告資料をニーナから受け取る。
王都での戦いから1週間ほど……勇者フェリシアの行方はようとして知れず、王都の混乱もまだまだ収まっていない。
「ほう!」
ニーナが用意してくれた資料は、王都の各セクションからの報告内容が綺麗に整理され、数字が見やすく一カ所にまとめてある。
ニーナは事務作業が得意なようだ。
内容はいまいち理解していないようだが。
「ポーション系の回復アイテムは70%、薬草とかの医療品は30%の値上がり……釣られて食べ物も10%の値上げかぁ。
こんなに上がっちゃったら、孤児院とか下町の人たち大困りよ?」
俺の横に座り、資料を覗き込んだノナが眉間にしわを寄せている。
ふむ、アイテムの値上がりは下位層を直撃するからな。
魔王軍を動員する際も、下級兵士の経済状況を気に掛けておく必要があると学院で習った。
「むむぅ……国際的な信用が下がるとジール王国通貨センドの価値も落ちちゃうからね。
ただでさえモンスターの凶暴化事件で王国経済は混乱してたのに、大量の金が流出しちゃったから、国外のきかんとーしかに嫌われて……」
レナのほっそりとした指が資料の一点を指さす。
ジール王国の対外債務の推移が書かれている表だ。
ぴょんっ!
レナはその資料を手に取ると俺の膝の上から飛び降り、会議室内に設置された黒板に向き直る。
「ただでさえ、ここ数年対外債務は増えてるのに」
赤いチョークを持ったレナが黒板にでっかく右肩上がりの線を引く。
「このタイミングで通貨の価値がガクンと落ちちゃったから、商人さんたちの信用取引が滞ってぇ」
今度は青いチョークに持ち替え、右肩下がりの線を引く。
両方の線が交わる部分に大きく矢印を付けたレナは、すちゃっとモノクルを装着するとドヤ顔で言い放つ。
「今まで5センドで買えていた小麦が10センド出さないと買えない、債務の返済期限もやってくる……なんやかんやで結果的にいろんなものが値上がりしてるんだよ!!」
「分かったかなみんな!!」
ばばんっ!
ぺちんと黒板を叩いたレナは、教壇の上に仁王立ちする。
「お、おう!
アレがコレで、これがああで……このままでは国全体がさらにヤバくなるという事ねっ!」
「その通り!!」
「……ほえ~」
「ふむ……」
ちゃんと授業を聞いていたレナはさすがの理解度だ。
居眠り常習犯のノナも何とかついて行っている。
……ニーナは年上なのにマヌケ面を晒しているが。
村人どもへの教育を強化すべきだな!
教育虐待、楽しみにしてるがいいぜ!
「ということでっ!!
早急な経済対策を進言いたします長官!!」
「だからどういう設定なのよ」
レナの言うことに異論はねぇ。
良い虐待には良い経済からという言葉もあるしな!
領民共に良い暮らしをさせてこそ、落差のある虐待が映えるんだぜぇ!!
「……わかった」
俺は真剣な表情で立ち上がる。
「おおっ!!
じゃあ最初は長期金利の切り下げかな?
いやいや、大規模な為替操作もいいね……いやむしろ隣国の大規模金山を跡形もなく吹き飛ばしてやるのはどうですかおにーさん!」
「いや待ってレナ姉! 途中から明らかな犯罪になってるわよ!?」
「ぬふっ、戦いに犠牲はつきものなのだよノナちゃん!」
「ふっ……レナの案も悪くねえが」
「良くないわよ!?」
段々と悪の道を極めてきたレナの頭を優しく撫でる。
「今回はスマートに行かせてもらうぜ!
二人とも……俺の動物園に行くぞ!!」
「「ほ、ほえっ?」」
俺の言葉が意外だったのか、目を点にするレナノナを両肩に乗せ、俺は城の西側に広がる動物園エリアに向かうのだった。
*** ***
キシャ~~ッ!!
どがーん!
「おお、今日も元気だなシェリー」
エルダーレッドドラゴンのシェリーが吐き出したブレスがペットハウスのフェンスを大きく揺らす。
「げ、元気すぎるけどね」
相変わらず慣れないのか、ノナの腰が引けている。
俺の魔力が減退している今、村の灌漑装置や明かりのエネルギー源はシェリーのブレスが頼りだ。
「おやつをやろう!!」
ぽいっ!
俺はエビルバッファローを一頭丸ごとシェリーに与える。
ぱくっ!
「じゃくにくきょーしょく……」
「あ、モモ、お手!!」
嬉しそうにエビルバッファローにかぶりつくシェリーに引き気味のレナだが、隣の檻で飼われているコカトリスのモモが近づいてきたので表情を輝かせる。
きゅいきゅい!
レナが巨大キャベツを差し出すと、器用に右脚でキャベツを掴み美味しそうにつつき出す。
「もふもふ~♪」
「あ、ずるい! あたしもモフモフする!」
何を隠そう、レナノナのベッドのマットレスにはコカトリスの抜け毛を使っている。
ふわふわで保温性も抜群だぜ!
「ま、今回の目的はコイツらじゃねえ」
俺はシェリーにおやつをあげ終えると、二頭の檻の横を通り、飼育エリアの奥へ向かう。
「ふお? こっちの方って……」
「あまり行ったことがないわね」
興味深げに俺の後を付いてくるレナノナ。
シェリーとモモが俺様の動物園の目玉だからな!
少々目立たないのは仕方がない。
広大なシェリーとモモのゲージの奥は窪地となっており、近くの湖から水が引かれ大きな池が作られている。
向こう岸までは100メートルほどの大きさだ。
「出てこい、アダン!」
ゴボボボボボッ
「ぬほっ?
池の真ん中に?」
俺が彼の名前を呼び、手を叩くと池の中心部が泡立ち、大きな渦を巻き始める。
ざあああああああっ
「お、おっきい……亀?」
水しぶきを上げながら浮かんできたのは、甲羅の長さが10メートルほどある巨大なアダマンタートルのアダンだ。
クアー!
「おお、よしよし。
こいつはな、創世時代にいた古代種の生き残りで、数千年の時を生きていると言われているが、詳しい事は俺も分かんねぇ」
「マジ!? 急に神々しく見えて来たわ……」
「きんぴか……」
アダンは水から上がると、俺に頭を擦り付けてくる。
クア?
四天王であるレナノナにも興味津々のようだ。
「あうっ、ちょっと可愛いかも」
「この子大人しいね!」
創世の時代から生きているであろう神の魔獣が、小さな獣人族のレナノナに大人しく撫でられている。
中々レアな光景だぜ。
「コイツの好物はアダマンタートルらしく石灰石なんだが……」
ずずん!
俺は村の近くにある岩山から切り出してきた石灰石のブロックを、アダンの目の前に置いてやる。
♪♪
ばりばり
「ご、豪快……」
美味しそうに石灰石をかじりだすアダン。
コイツはやわらかめの石灰石しか食べないグルメだからな……近くに良質な石灰石が採れる場所があってよかったぜ。
「体内で食べた物を金に変えることが出来るんだ!」
「はっ!?」
「ふおっ!?」
俺たちが話している間にもアダンは巨大な石灰石のブロックを食べ尽くしていき……。
ぶりぶり!
♪~~♪
ケツから気持ちよさそうに
「ちょ、ちょっ!? ビジュアルがヤバいわよ!?」
「こーもんからうんかいならぬ金塊が!?
というか、なんでとぐろ巻いてるんですかおにーさん!!」
「アダンなりのお茶目じゃね?
安心しな。
アダマンタートルは有機物を食べないから、綺麗なもんだぜ?」
「いやなんか湯気立ってますが!?」
「チートにしても嫌過ぎる!?」
レナノナのツッコミが冴えわたる。
その後、1日かけて100トン近くの石灰石を平らげたアダンは、数十トンの金塊を生み出してくれたのだった。
「さぁて! コイツを持って金市場に殴り込みだ!!
慌てる商人どもの様子が目に浮かぶな!!」
「……形はウ○コのままなの?」
ノナのツッコミが耳に心地よい。
俺たちの経済侵略が今始まる!!
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