第6章 魔王様、世界征服へ

第47話 ミルラの調査報告

 

「まったく……民衆の歓喜の声に迎えられる魔王など、聞いたことがないぞ」


「ふっ! この世界の住民どもはそろいもそろってドMだからな!

 俺様の虐待っぷりが国中に喧伝されたんだろうぜ!!」


「あ、ああ」


 王都の住民どもに城下の誓いを立てさせた後、大量の褒美 (推定:賄賂)を取らせようとする国王の誘いを断り自分の城に戻ってきた俺たちは、遅めの夕食を取っていた。


 くくっ……国王め、俺様に取り入っておいてあわよくば寝首を掻こうという算段なのだろうが……。


 甘めぇぜ!


 どうせ全て俺様のものになるのに、賄賂なんて必要ない。

 それに、俺様が全世界を征服した後も奴には国王の地位にいてもらう予定だ。

 行政機関を一から構築するなんて面倒な事をするのはリソースの無駄である。


 ジール国王は住人から慕われているらしいからな、せいぜい利用してやる!

 変わらず悪政を敷くがいいぜ!!


「こほん……それで、今回の事だが」


 テーブルの対面に座ったミルラが居住まいを正す。


 そうだった。

 突然俺を襲った不可解な力の低下。

 ミルラは以前から気になる点があったらしく、水面下で調査していた結果を教えてくれるそうだ。


「おう、二人とも座れ」


 ぽすん!


 ショートケーキと紅茶を運んできたレナノナを、俺の両側に座らせる。


「えへへ」

「ま、前髪が崩れちゃうから優しく撫でてよねっ!」


 頭を撫でてやると頬を染め、ぎゅっと身体を寄せてくる二人。


 くくっ、さすが俺の誇る四天王筆頭たちだぜ。

 胸の奥がぽっと暖かくなる。

 よく分からねぇがいい気分だ。


「くっ……あっ、なんたるっ!?」


 ミルラのヤツは金魚のように口をぱくぱくさせているが、なんだ?

 そんなにイチゴが欲しいのか?


「俺はイチゴより本体の方が好きだからな、やるぜ?」


 ぽんっ


「~~~~~~はあ~~~~っ」


 俺が自分の皿に乗ったショートケーキからイチゴをミルラの皿に分けてやると、なぜか盛大なため息をついてテーブルに突っ伏すミルラ。


「ミルラおねーさんに3500のダメージ!!」


「恐ろしい追撃だわ……」


「くっ、くっ……もういい! 本題に入るぞ!!」


「??」


 顔を真っ赤にしたミルラは魔術映像を投影すると、やけくそ気味に説明を始めた。



 ***  ***


「なるほど……。

 オルカディア家の秘宝とは、厄介なものを持ち出してきやがったな」


 ミルラの話を聞き終えた俺は、カップに残っていた紅茶を飲み干し、ため息をつく。


「それってヤバいの?」


 クッキーを焼いていたノナが、エプロン姿で焼きあがったクッキーを運びながら聞いてくる。

 コイツこういう格好も似合うよな……可愛いぞ。


「かっ、かわわわっ!?」


 相変わらずの羞恥虐待を仕掛けると顔を真っ赤にしてこけそうになる。

 いやー、最高のリアクションだぜ。


「たっ、確かにかわいい!! むしろ飼いたい……。

 ……いやいや、今は女子力に更なる差がついたことを危惧するべきかっ!!」


「ふおっ!? どこからか寒気が!?」


 それはミルラが興奮しているからだな。

 まったく、また窓が結露するじゃねぇか。


 ……おっと、話を戻して。


「話したことがあるかは覚えていないが、魔王は1つの世界に1人しか降臨できず、他の魔王候補がその世界に干渉する事は出来ない。

 ミルラのように”監察官”になれば別だがな」


「こほん!

 私は監察官だからお前たちの世界に来ることが出来るのだ

 使える力は大幅に制限されるが」


「……あれで?」


 チョコクッキーをかじりながらツッコミを入れるノナ。


「ま、ミルラは色々と規格外だからな。

 ザンガのヤツは魔王候補のままだから、俺の世界に干渉できない……ごくわずかな例外を除いて」


「例外とは?」


 ぱくぱくぱく


 クッキーを高速で口に運びながら訪ねてくるレナ。


「付いてんぞ」


「……えへへ」


 俺はレナのほっぺに付いたクッキーのカスを取ってやる。


「神々の力が魔界全てには及ばなかった創世の時代……オルカディア家の始祖に連なる者が女神に対抗するため生み出した禁断のアイテム」

「女神のルールを無視するチートアイテムってやつだな」


「ガイの口からチートって聞くとマジでヤバそうな気がするわね」


 顔色を青ざめさせるノナの頭を撫でてやる。


「ま、裏技みたいなもんだから、出来ることは限られてるが」


「そうなの?」


 こくん、と首をかしげるノナ。


「ああ。 まず、ザンガのヤツが俺を直接攻撃することはできねぇ。

 ……そうだな、ミルラ?」


「…………」


「……ミルラ?」


 せっかく話を振ってやったのに、返事をしないミルラ。

 よく見ると凍り付いたように固まっている。

 ……氷雪魔法の暴走で本当に凍ったのか?


 つんつん


「…………はっっ!?

 そそ、そうだったな! ザンガの話だった!!」


 俺が頬を突っついてやると、ようやく再起動するミルラ。


(ななななな、なんという自然なイチャイチャ!!)


 事態の深刻さを感じているのか、顔を青ざめさせている。

 ぶんぶんと頭を振ると、居住まいを正して語り始めた。


「こほん!

 いくらオルカディア家に伝わるマジックアイテムと言えど、1世界に1魔王の原則を破ることはできない……魔界の根幹ルールだからな」


「だが……。

 ヤツはマジックアイテムの力を使って、この世界の住人に干渉したのだ。

 勇者候補となるべき正義感の強い人間……」


「つまりフェリシアさんね?」


「ふむ……」


 勇者とは女神が無作為に選びだす対魔王決戦兵器と言える人間。

 ソイツを事前に見抜くとは、マジックアイテムの力は相当なモノらしい。


「ザンガが干渉した際に女神の神託と混じり合ったのか、詳しいことは分からないがイレギュラーともいうべき規格外の勇者が誕生したんだ」


「それがフェリシアが急激にレベルアップした理由か」


「ああ。

 それに加えて、別のアイテムで女神の調整力を強くしているようだ……こちらはまだ正確なことは言えないが」


「なるほどな」


 ミルラの言葉に目を閉じて考え込む。

 聖と魔の力を持つ規格外の勇者。

 抑えられる俺様の力。


(正直厄介だぜ)


 いまの俺はひとりじゃない。

 守るべき相棒と、まだまだ虐待し足りない領民たちがいるのだ。


 勇者が俺の仲間に刃を向けてくることは確実だろう。


「……それで、戦いの最中一時的に俺の力が戻った件については?」


 思考を中断し、目を開けるとちらりとレナノナの方を見る。

 先ほどの戦いのさなか、コイツらの身体が淡く光り、”力”が俺の中に流れ込んできた。


「……すまん、そちらの方はさっぱりだ。

 私も初めて観測する現象だったしな……マジックアイテムで無理やり理を捻じ曲げているんだ。

 一時的に効力が弱まったとも考えられるが……」


 ミルラが自信なさげに言いよどむ。


「ぬふっ……レナちゃんノナちゃんの愛の力だねっ!」


「ちょっ、レナ姉恥ずかしいってば!!」


「な、なんとぉ~っ!?」


 レナのヤツがドヤ顔で語り、ミルラが白目を剥いているが、レナノナはユニークの素養がある。

 不可思議な力を持っていても不思議ではない。

 ……大事にしないとな。


 改めてそう誓う俺。


「……まあ何にしろ。

 俺はこの世界を征服するまで魔界に戻ることはできねぇ。

 頼りに出来るのはお前だけだ。 迷惑をかけるな、ミルラ」


 すっ


 俺はミルラの双眸をまっすぐにのぞき込み、白磁のような頬を優しく撫でる。

 オヤジ直伝の”落とし”方だぜ!!


「!?!?!?!?」


 その効果はてきめんだった。


「まっまままままま任せろガイ!!」


「このミルラ・グレンデル!

 全ての力を駆使してお前たちを守り、ザンガの陰謀を打ち砕くと約束するぞ!!」


「この戦いが終わったら、また私のチーズオムレツをごちそうするから、迎えに来てくれ!!」

「っっっ~~~~♪♪」



 ぱしゅん!



 ぱあああっと満面の笑みを浮かべたミルラは、ふんすと大興奮すると食い気味の言葉と共に魔界に戻っていった。


「ふっ、安心しろ二人とも。

 あんなでもミルラは頼りになるオンナだ」


「ミルラおねーさん……ちょろかわ!」


「なんか物凄いフラグ立ててたけど大丈夫かしら……」


 くくっ、グレンデル家の魔族は諜報活動を最も得意とするからな、ミルラに任せていれば安心だろう。

 俺はおやつのおかわりを作るべくキッチンに向かいながら、王都の虐待計画を練るのだった。

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