第46話 正義の勇者を打ち破ったというのに、もろ手を挙げて歓迎されるんだが?

 

「王宮からも逮捕状が出ている! 抵抗する者は攻撃して構わん!!」


 俺の手下になった冒険者ギルド長が、構成員に指示を出している。


 天下の冒険者ギルド様が勇者狩りとはな!

 すっかり俺様の軍門に下ったようだぜ。


「くっ……」


 くらっ


 急激に力を使ったからか、立ち眩みがして膝をついてしまう。


「おにーさん!?」


「大丈夫なの!?」


 ぎゅっ!


 慌てた様子で抱きついてくるふたり。

 両肩に感じる柔らかなぬくもりに、柄にもなく恥ずかしくなってしまう。


「ふたりとも、なんだその……ありがとな!」


 わしゃわしゃ!


 照れ隠しにふたりの頭を乱暴に撫でる。

 綺麗にセットした悪の幹部的髪形を乱してやるぜ!!


「あうあうあう」


「わわっ?

 その……力は戻ったの?」


 髪をくしゃくしゃにされたというのに、まんざらでもない表情を浮かべるふたり。


「いや、駄目だな……」


 ノナの問いに、俺は眉間にしわを寄せる。

 先ほど勇者を吹っ飛ばした瞬間は力が戻った感触があったんだが……。



 ずどーーーーん!!



「「どわっ!?」」


「ガ、ガイ! 無事かっ!?

 大きな怪我をしたと聞いたが!」


 俺の事を心配したらしいミルラまで転移してくる。

 相変わらず騒々しいヤツだ。


 バキバキッ!


 ミルラが興奮しているのか、周囲の地面が凍り付いていく。


「おいミルラ! 力を抑えねぇか!」


「おお! 物凄い魔力だ!」

「あれもガイ殿の手勢か!」


「……まずは落雷とともに現れたことに疑問を持ちなさいよ」


 きゅぴ~ん!


 ぴこんっ、と耳と尻尾を立てるレナ。


「おにーさんっ♡」


 ぎゅっ!

 なぜか頬を染めて俺に抱きついて来る。


「さ、さらに進展しているだとっ!?」


 バキバキッ!


 何に反応したのか知らないが、レグニス家の屋敷ごと凍り付かせんとするミルラの膨大な魔力。


「炎よ!!」


 しゅうううううっ


 急いで爆炎魔術で中和する。


「こ、恋の炎まで燃え上がっているというのか~っ!?」


「み、ミルラさん落ち着いてっ!!」


「炎違いだよ!」


「おおっ、ガイ殿も隅に置けませんな~!」


「てめぇら、ケガ人がいるんだから静かにしやがれ!」


 どたんどたん!


 バタバタと混乱が加速する。

 現場が落ち着くまでにはしばらくの時間を要したのだった。



 ***  ***


「ガイ殿、この度は王都を救って頂き、誠にありがとうございます

 ささ、民衆も貴殿の登場を心待ちにしていますぞ!」


 びしりと式典用の礼装を着込んだ大臣さんが、ガイおにーさんを促します。


「うむ! はーっはっはっはっ!」


「くるしゅーないぞ!!」


 わあああああああっ!


 王宮の中庭を望むバルコニーに出て手を振るガイおにーさんを、ものすごい歓声が出迎えます。

 今日のガイおにーさんはいつものトゲトゲ鎧ではなく、黒髪をオールバックに撫でつけ、白いスーツを着ています。


 新鮮な感じでカッコいいですっ!



「ジール王国の住人たちよ!!

 お前達はこの魔王ガイの軍門に下ったのだ!

 覚悟する事だな!!」


 うおおおおおおおおっ!


「……えーっと」


 もはや魔王であることを隠そうともしないガイおにーさんの言葉に、なぜか大歓声を返す王都民さんたち。


「あ、あそこまで堂々と宣言されると逆にホラだと思われるのかもね……あはは」


 額に冷や汗をにじませたノナちゃんが、頬をポリポリと掻いています。

 まあ、ガイおにーさんの見た目は少し悪そうだけど、中身はとってもいい人なので!

 こうなるのも当然って気はします。


「ふふっ、ガイ殿が勇者一味をおびき寄せるため魔王を名乗っていることは民衆も理解しておりますからな」

「それに、レンド村を救援するだけでなく発展させていただいた事……感謝に堪えません」


「ささっ、四天王のお二方もどうぞ!」


 わたしたちの言葉を最大限好意的に解釈したらしい大臣さんが、わたしたちもバルコニーに出るように促してきますが……。


「ううっ、この衣装で出なきゃダメですか?」


 顔を真っ赤に染めたノナちゃんがもじもじしています。


 そう! なぜか今のわたしたちは悪の幹部的ボンテージスーツ姿なのです!

 おにーさんは爽やかスーツ姿なのになぜに!?


 さすがにこの格好で大勢の人前に出るのは恥ずかしい……。

 そう思っていましたが。


「俺様の頼りになる……大事な大事な相棒を紹介するぜ!!」


「最高の四天王、レナ! ノナだ!!」


「「!!」」


 誇らしげなガイおにーさんの声が外から聞こえてきて。


「……行こうかレナ姉」


「うんっ!」


 覚悟を決めたわたしとノナちゃんは、光輝くバルコニーへと駆け出したのでした。


「「きゃ~っ! かわいい!!」」


「「う、うおっ!?」」


 生まれて初めて嬌声なるものを掛けられたわたしたちなのでした。

 えっと……悪の魔王軍団なのに、王都の救世主、ですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る