第37話 魔王俺、王都侵攻計画を練る

 

「次は一気にジール王国とやらの王都を攻め落とす!!」


「ガ、ガイさん! 少しお話が!」


 そう宣言する俺に、慌ててしがみつくニーナ。


 俺を止めようとしているのか?

 王都の住人として殊勝な心掛けだ。


 だが、幾らレナノナの友人の頼みとはいえ、聞き入れることはできねぇ!

 末永くコイツらを虐待するためには、災いの芽は小さいうちに摘んでおく必要がある。

 それに、一国まるごと虐待できなければ、大魔王とは名乗れないだろう。


 にべもない俺の態度に、うつむいていたニーナが決然と顔を上げるとこう言い放つ。


「その戦い、私にも手伝わせてください!!」


「なにっ!?」


「フェリシア様は思い込みは激しくとも優しいお方……なんとしてもお嬢様を止めたいんです!

 それに、お屋敷の仲間や王都の人たちだって」


「そうね……ニーナ姉の言う通りだわ。

 あたしにも手伝わせて!!」


「むふ、もちろんわたしも手伝うよ!

 王都が混乱してたら、村の作物の売り先が無くなっちゃうからね!」


「なん……だと?」


 すでに俺様が調教済みのレナノナはともかく、ニーナまで俺の”悪行”を手伝いたいだと?

 俺はこの女の言動に心底驚いていた。


 俺が王都を支配するという事は、数万人の人間が闇に包まれ、俺に虐待されるという事だ。

 そんな地獄を望むだと……?


 はっ!?


 もしや、破滅こそが唯一の救いとぬかす、ヤバい邪教の信徒かコイツ!?


「ふっふっふ!」


 背中に冷や汗をかきドン引きしていると、サングラスをかけたレナが芝居がかった仕草で立ち上がる。



「ガイおにーさん、今まで秘密にしていましたが……実はわたしたちの野望は世界征服……。

 幼き頃、秘密結社ヘソノゴマを結成した同志なのです!!」


「!?!?」


「今までは力なき己に悔しい思いをしていましたが……ガイおにーさんという素晴らしき主を得て、一度は潰えたやぼーの炎が激しく燃え上がっているのです!!

 はいノナちゃん!!」


「え~っと、燃え上がってイルノデス?」


「!!!!」


 あまりの感動に全身が総毛だつ。


「あ、ああ!

 俺はいつの間にか、最高の相棒を手に入れていたんだな!!」


 魔王一人だけでは覇道は成就しない。

 心から信頼できる仲間を見つけろ。

 オヤジの言葉がいまさらながらに心に響く。


「行くぞレナノナ! 俺たちの最強魔王軍伝説はここから始まるぜ!!」


「らじゃー!!」


「……えいえいおー」


「……なんていうか貴方たち、いいコンビね」


 こうして後世、三千世界にその名をとどろかす、最強の軍団が産声を上げたのだった。



 ***  ***


「くっくっく、太古の遺跡を改修し王都中に張り巡らされた地下水道……。

 王国や冒険者ギルドでも把握できていない場所がたくさんあるみたいなんで、しんこールートとしておすすめですぜガイおにーさん!」


「ほう! これほどまでに精巧な地図を手に入れているとは……やるなレナ!!」


「ぬふふふっ! 実は王都の裏路地で物乞いをしていた時に、なんかえらそーな人から貰ったパンの包み紙がこれだったのです!!」


「いやいや、何でレナ姉そんなにノリノリなのよ……」


「こ、こんな所に国家機密が……」


 城内の会議室に移動し、王都侵攻計画を練る俺たち。


 そこでレナのヤツが特一級の機密資料を出してきやがった。

 国家機密というのは思わぬことろから漏れるものだからな。

 気まぐれに飯を恵んでやった浮浪者のガキが包み紙を大事に取っておくとは思わないだろう。

 ていうかそんな大事なもんを包み紙にすんな。


 って、さらりと流されたけど、レナもノナもそんな生活をしてたのか。


「よし! おやつのシュークリームは3倍支給だ!!」


「やたっ!!」


 くくっ、血糖値スパイクで眠くなるがいいぜ!

(ちなみに、俺様の下僕共に対するカロリーコントロールは完璧だ。

 ブーデーは美しくないからな!)


「ていうかガイ、そんな回りくどいことしなくても、アンタの実力なら空から飛んで行ってドーンとやったら一発じゃないの?」


「馬鹿野郎!!」


 風情の無い提案をしてきたノナを一括する。


「魔王ってのはな、魔王城を建設した後は受け身になるもんだ。

 勇者や冒険者どもの挑戦を跳ね返し続け……敵対勢力が全滅ゲームオーバーになったタイミングで一気に世界を征服する」

「これがセオリーだ」


「だが、俺たちはその定石を破り、こんな序盤で攻勢に出ようとしてるんだ。

 どれだけ慎重に事を運んでもやりすぎという事はねぇ」


「お、おう。 相変わらず常識的なのね……」


「それにだよノナちゃん!!」


 俺が魔王学院で学んだ魔王侵攻基礎概論の内容をノナに説明していると、モノクルを装着したレナがぺしんと教鞭で黒板を叩く。


 わざわざ紺色のパンツスーツに着替えているレナ。

 女教師スタイルが最近のマイブームらしい。


「そんなにあっさりヤッちゃったらつまんないでしょ!

 ガイおにーさんが本気を出して二秒で終わっちゃったら、読者もミルラさんも大ブーイングだよ!」


「……読者ってなに?」


 ふむ、レナの言うことも一理ある。

 魔王である俺様の働きは、ミルラを通じて監査局、更に長老連にまで報告される。

 報告書の読者であるご老人どもにがっかりされちゃ、余計な横やりを入れられるかもしれねぇ。


「ま、魔王の世界にもいろいろあるという事よ。

 それに……下僕改め相棒のお披露目と初陣だからな!

 今回は慎重に行かせてもらうぜ!」


 俺はレナとノナをソファーの両側に座らせると、わしゃわしゃとふたりの頭を撫でる。


「えへへ」


「ううっ、悪い気はしないけど……あたしたちすっかり魔王の手先よね」


 まんざらでもない表情を浮かべるふたり。


「なるほど……これを見てお嬢様は勘違いを。 ふむふむ」


 なにかひとりで納得しているニーナ。

 おやつタイムを挟みながら、夜まで掛けて王都侵攻計画を練る俺たちなのだった。

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