第36話 理想郷、レンド村
「こ、これがレンド村……?」
「どう、すごいでしょ?」
変わり果てた村の様子に、ニーナと呼ばれた女が絶望の表情を浮かべている。
レナは姉さんと呼んでいたな。
恐らくこの村出身で、出稼ぎに出ている友人ってところだろう。
くくっ……最近村の連中は虐待に慣れてスレてきやがったからな。
新鮮な反応を楽しめそうだぜぇ!!
おっと、レナノナはケガしてねぇな?
下僕共の身体をチェックしつつ、俺は次なる虐待に心を躍らせるのだった。
*** ***
「う、うそ……」
痩せた土地で、モンスターのねぐらになっている山も近くにあったレンド村。
良い所は水源である湖が近いくらい。
そんなレンド村が……。
村の近くまで押し寄せていた深い森は開墾され、広々とした農場に変わっている。
すきま風が通り放題だったあばら家は、王城にも劣らないしっかりとした黒い石造りのお屋敷へ。
村の中には湖から引いたであろう、清潔な水が流れる水路が張り巡らされ、子供たちが歓声を上げながら水遊びをしている。
なにより……。
村のみんなの顔が輝いているのだ。
家に空いた穴を直すために、モンスターに壊された畑の柵を直すために、どれだけの作物を売りに出せばいいのか。
それだけ売ってしまって冬の食べ物は足りるのか。
両親を始め大人たちが深刻な顔で悩んでいたのを思い出す。
そんな心配など、もう無いと言わんばかりの笑顔。
「お姉ちゃん! おかえり!!」
「!!」
ずっと聞きたかった、家族の声に振り向く。
「……ああっ!」
そこに立っていたのは、見違えるように大きくなったニーナの弟。
ツヤツヤとした肌が、栄養状態のよさを物語っている。
「……ニーナ」
「最近手紙も滞りがちだったから……心配したよ」
上質な服を身に着けた両親が、穏やかな笑みを浮かべてこちらに歩いてくる。
「うっ、うわあああああんっ!」
夢のような光景に、感極まったニーナは両親に抱きついて子供のように泣きじゃくるのだった。
*** ***
「くっくっく、素朴だった家族が贅沢を覚えて変わり果ててしまった……お前の絶望感はよく分かるぜぇ!」
泣き崩れる少女の姿に、ゾクゾクとした快感を覚える俺。
遠くから戻って来た人間に、変わり果てた村の姿を見せる……素晴らしい!!
「相変わらずマジで言ってるのかしらガイは」
「まぁまぁノナちゃん。
それより……虐待の時間じゃないですかおにーさん!」
「おう、そうだったぜ!!」
俺の虐待を理解し始めたレナに、深い満足感を覚える。
「そうだね、行こうよお姉ちゃん!」
がしっ!
「ふふっ、ガイ様の虐待、楽しんできなさい」
がしがしっ!
「え、えええええええっ!?」
すっかりドMに染まった家族に担ぎ上げられ、哀れニーナは俺の城に運ばれてゆくのであった。
*** ***
「美味しい! 美味しいですっ!!」
「くくっ、おかわりもあるから倒れるまで食いやがれ!!」
俺様が繰り出す食虐待のごちそう乱舞に、一心不乱に食らいつくニーナ。
今日のメニューはカプレーゼにドードー鳥の煮込み、エビルバッファローの串焼きだ!!
ビールかワインが欲しくなることろだろが、この女はおそらく未成年だ。
未成年には酒は飲ませてやらねぇぜ!!
まさに外道!!
「ぬふ~、良かったねニーナ姉さん!」
ぱくぱく
「あっ、こらレナ姉! それはニーナ姉の分よ!」
もぐもぐ
「はっはっは!! まだまだたくさんあるから腹がはちきれるほど食え!!」
度重なる食虐待で暗黒面に堕ちたレナノナが、餓鬼のごとく他人の皿に盛られた料理にまで手を出していく。
くくっ……可愛い下僕共の調教具合は順調のようだぜぇ!!
俺はさらなる料理を提供し、二人が姉と慕うニーナまで暗黒面に落とすのだ!
まさに非道!!
「ふぅ……お腹いっぱい。
それにこの服……」
ひと通り飯を腹に詰め込み終えたニーナが、先ほど錬成してやった薄緑のワンピース身に着け、真っ青な顔をしている。
くくっ、この女は都会へ奉公に出ていたらしく、しっかりと体を覆う長袖衣装を着ていたからな。
いきなり布面積が少ない薄手のワンピースを着せられ、さぞ寒いだろうぜ!!
新鮮な反応に、俺様はご満悦だ。
*** ***
(ううっ、この肌触りはまさかシルク?)
(お、王都の仕立て屋さんで買ったら何千センドするかしら……?)
ニーナは与えられた服があまりに上質なので、あとでお金を請求されないか不安になっていただけなのだが。
「むふ~、ご飯と服はガイおにーさんの『虐待』だから、無料だよ!
むしろ、ニーナ姉さんも村のために働けば1日4時間労働でお給金も貰えるよ!」
「!?!?」
「なんというホワイト職場!?」
なにしろレグニス家では朝から晩まで働いていたのだ。
給金はそこそこ頂けるとはいえ、自分の時間はほどんど取れなかった。
「お、おおおおお……」
「あたしたちと同じリアクションしてる……っと、それより」
ソファーに座り、頭を抱えてぷるぷると震えるニーナを苦笑いで見つめていたノナだが、大事な事を思い出したようだ。
「ニーナ姉、どうして急に村に戻って来たの」
「それは……」
ようやく衝撃から立ち直ったニーナは、王都の惨状を語り始めた。
*** ***
「なるほど……あの女勇者、やっぱ変なヤツだな」
「史上最大のおまゆう!? イヤこの場合は、まおゆう?」
「なにがだ? 俺様は非の打ち所の無い残虐魔王だぜ?」
「お、おう」
率直な俺の感想に、何故かツッコミを入れてくるレナノナ。
「フェリシア様がおっしゃることと、両親の手紙に書かれていることがあまりに違うので、確かめに帰って来たの」
「ふむ……」
別にフェリシアとやらのいう事がそんなに間違っているとは思わねぇが (俺様が残虐魔王なのは間違いねぇからな!)……。
この村の連中は苦痛を快楽に変えるドMの天才だから、喜んでいるように見えるのかもしれない。
前も説明したように、勇者とは女神が遣わす救世主の事だ。
レナノナをはじめ、レンド村の連中を虐待し放題の俺を成敗するために神託を受けたのだろう。
「ふん、目ざとい女神め……”残酷”な俺の行いが気に召さないようだな!」
全く忌々しいぜ!
「「「ええっ!?」」」
何故か驚きの表情を浮かべる3人。
「とはいえ、万一という事もある……早めに手を打っておいた方がよさそうだ」
勇者フェリシアの旗印の下、人間共の戦力が結集したら厄介だ。
人間ってのは、団結すれば思わぬ力を発揮するからな!
Cランク世界と油断した大魔王ゲイザーが現地住民に打ち取られた衝撃は記憶に新しい。
「よし!
次は一気にジール王国とやらの王都を攻め落とす!!」
ザッ!!
「「!!」」
俺は勢い良く立ち上がると、カオスブリンガーの切っ先を王都の方角に向けた。
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