第35話 レナとノナ、初めてのバトル(後編)

「ニーナ姉、あたしたちに任せて!」


「ぬふ、いざとなったら頼れるおにーさんもいるしっ!」


 紅い魔法陣の中から現れたのは、見知った顔の妹分。


(え、今この子たち何もない所から現れたよね!?)

(”おにーさん”って、肖像画に描かれてた背の高い人の事?)

(って、この子たち、二人だけでモンスターを相手にするつもりなの!?)


 ふたりの表情には緊張感が漂うものの、決して怖がっている感じではない。


「む、無茶よ!」


 思わず叫ぶニーナだが、半年ほど会っていないだけなのに、見違えた二人の姿に息を飲む。


 少し背が伸びただろうか?

 心配になるくらい痩せていた身体には、少女らしくふっくらと脂肪がついて。

 それでいてしっかりと鍛えられた筋肉が見て取れる。


 なにより、アレはミスリル銀製だろうか?

 王都でもなかなか見ないレベルの上等な装備を身に着けている。


「行くよノナちゃん!」

「了解っ!」


 だんっ!


 モンスター達に向けて大地を蹴った二人の姿を、唖然とした顔で見守るニーナなのだった。



 ***  ***


「行くよノナちゃん!」

「了解っ!」


 ニーナ姉さんを庇うように前に出たわたしたち。


 シルバーウルフたちの視線が一斉にこちらを向きます。

 恐らく、新たなエサが現れたぜ、がうがう。

 なーんて考えてるんでしょう。


 ……む?

 狼さんの視線がすべてノナちゃんの方を向いてる?


 はっ!?

 着地した瞬間にぷるんと揺れるノナちゃんのお山。

 対して微動だにしないわたしの洗濯板……いえ、なだらかな丘!


 ほうほう、狼さんはこう言いたいのですな?


 こっちは食べるところが少なそうだな、と。


 ピキッ#!


 失礼な狼さんは成敗っ!!


「な、なんかレナ姉の気迫が増したわ……」



 ウオオオオンッ!



 ざざっ!



 遠吠え一つ、わたしをスルーしてノナちゃんに飛び掛かろうとするシルバーウルフA、Bの間に割り込みます。


 とんっ!


 わたしは着地と共に軽く腰を落とすと、シルバーウルフに向けて右の拳を繰り出します。


「レナちゃんパンチ!!」



 キュボッ!

 ズドンッ!!



「ふおっ!?」


 牽制のつもりで放った右ストレートがシルバーウルフAを捕えた瞬間、信じられないことが起きました。

 シルバーウルフAはあっさりと千切れ飛び、後ろにいたシルバーウルフBも衝撃波で血煙になります。


「うええ、ちょいグロ……」


『ナイスだレナ!

 お前が装備している手甲は初心者向けだが攻撃力1000だからな!

 おまえ自身の筋力も併せてそんくらい楽勝だぜ!!』


「強すぎ!?」


 武器屋のジョアンナさんの店にある最強の剣が攻撃力50だった気がしますっ!


『レナ! 今度は右だっ!』


「!!」


 ガイおにーさんの声に振り向くと、シルバーウルフC、Dがいつの間にかわたしの右側に曲がり込んでいます。

 2体同時の時間差攻撃っ!


 ですがわたしはあわてませんっ!


 ぐぐっ!


 しっかり左足を踏み込んで……腰の回転を利用してっ!


「レナちゃんキック!!」


 ブオンッ!!


 ガッ!!


 ローファーの踵が、シルバーウルフCを捕えた瞬間。



 ズドオオオオオオオオンッ!



 紅い粒子が散り、大爆発とともに草原が20メートルほどえぐれます。


「「えぇ……」」


 もちろんシルバーウルフC、Dは粉々になってしまいました。


『おう! お前が履いてる白のローファーには、爆炎の追加効果を付与しといたぜ』


「ぬほっ!? あぶねぇ!」


 このローファー、お気に入りで普段使いしてるんですがっ!?

 おふざけでノナちゃんを蹴るのはやめた方がよさそうです。



 ***  ***


「……あんまりレナ姉をからかうのはやめとこ」


 パンチとキック一発ずつでシルバーウルフ4体を吹っ飛ばしたレナ姉の様子を見て、思わず引くあたし。

 いくらガイがくれた装備が強いからって、レナ姉自身も相当強くなってない?


 ちょっと前までは、最下級モンスターであるスライムにすら敵わない無力な村娘だったはずだ。

 これなら、ガイにばかり頼らなくても村を守れるっ!


 オオオオオオオンッ!!


 そう思っていると、シルバーウルフとは明らかに一線を画す遠吠えが辺りに響く。


「!!」


 そうだ、確かゴールデンウルフは閃光系の中級魔法を使ってくるはずで!


 そーいや、前にガイが

「お前らのたいまじゅつこーてぃんぐ(?)を剥がしてやったぜ!」

 とか言ってたし、魔法で攻撃されちゃレナ姉もヤバいんじゃ?


「させないっ!!」


 ざっ!


 あたしは両脚を肩幅に開くと、黒曜石のマジックロッドをゴールデンウルフに向ける。


(え~っと、初心者には爆炎魔法はコントロールが難しいから、氷雪魔法がいいのよね)


 ガイの授業を思い出しながら、じゅつしき?を組み上げていく。

 なぜか脳裏にミルラさんの冷たい眼差しが浮かんだ。

 ミルラさんがいるとお部屋が涼しくなるのよね、窓が結露するのは勘弁してほしいけど。


『がーん!』


 何故かミルラさんの声が空耳で聞こえたけど、あたしは気にせず魔力をじゅつしきに込める。


「”氷よ”!!」



 バキンッ!!

 バキバキバキッ!!



「!?!?」


 牽制のつもりで放った魔法は、ゴールデンウルフだけじゃなく傍らに付き添っていたシルバーウルフEをも巻き込んで凍り付かせていき……。



 パッキイイイイイイインッ!!



 巨大な氷山となったモンスターは、粉々に砕け散るのだった。


『ナイスだノナ! これで氷雪術式初級編はクリアだ!!』


「これで初級なの!?」


 ……上級魔法とか、どんな威力なのかしら。


 ---


 バサバサバサッ!

 ピシャ~ッ!


 稲光に浮かび上がる漆黒の魔王城。

 不敵な表情でマントをなびかせるガイの肩に、世界一のまほーつかいと呼ばれるあたしがよーえんにしなだれかかる……。


 ---


「ご、ごくっ!」


「おーい、もどってこ~い」


 ぺちっ!


「……はっ!?

 そ、そーいえばニーナ姉!」


 レナ姉のチョップで我に返ったあたしは慌てて振り向く。


「…………」


 ニーナ姉は唖然とした表情で口をあんぐりと開け、草むらに座り込んでいた。


 ま、まあそーだよね。


「え、えっと」

「ニーナ姉、おかえり」


 あたしはなおも固まっているニーナ姉を抱き上げ、レンド村に運ぶのだった。

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