第34話 レナとノナ、初めてのバトル(前編)

 

「はあっ、はあっ!

 街道は安全になったって聞いてたのにっ!」


 グルルルッ!


 必死に走るニーナの周りを、銀色の毛を持つ狼型のモンスターが並走する。

 シルバーウルフが5体、逃げられないようにニーナを包囲している。


 ウオオオオンッ!


 群れのリーダーらしき、金色の毛をもった個体が大きく吠えると、他のシルバーウルフたちが進路を変えた。


(ああっ!?)


 周りを連中に囲まれているため、まっすぐ走ることが出来ない。

 そのまま街道を外れ、深い森がある方へ誘導される。



 命からがら王都を抜け出したニーナ。

 護衛の冒険者を雇うお金はないので、安全になった街道を通ってレンド村に向かっていたのだけれど。


 主要街道を外れた途端、人通りが一気に少なくなった。

 王国内でもド田舎であるレンド村に通じる道は、モンスター除けの街灯の整備もおざなりで。


 ひとりで歩いている人間の女。

 格好のエサを見つけたモンスター共に襲われてしまったのだ。


(父さん、母さん……ジュン、ごめんっ!)


 どさっ!


 もう走れない……観念したニーナが草原に倒れ込んだ瞬間。


 パアアアアアアアッ!


 ウオンンッ!?


「……え?」


 突然、空中に赤い魔法陣が出現し……その中から見知った顔が現れた。



 ***  ***


「ふむ……Gランク魔獣が5匹に、Eランク魔獣が1匹か。

 ま、アイツらなら余裕だろ」


 レナとノナを魔獣に襲われている女の近くに転移させ、俺は少し離れた丘の上にそびえる大木の枝の上に座る。


『あれ……ガイおにーさんがいない?』

『え、あ、マジ? あたしたちが戦うの!?』


 通信魔術を通じて、ふたりの声が聞こえてくる。


「おう、せっかくだし実地訓練だ!

 今のお前達なら倒せる!!」


『ちょ、ゴールデンウルフまでいるじゃないの!?』

『こんなのそれなりの冒険者じゃないと倒せないわよ!?』


『ぬぬぅ……いきなりのスパルタ!』


「問答無用!」


『ま、まって!』


 ノナの抗議を途中でさえぎり、通信魔術を切る。


 キチンとレベルアップするには、トレーニングだけではなくしっかり実戦経験を積むことが重要である。

 いつもなら『虐待』を最優先する俺であるが、今回はふたりのため”優しく”行かせてもらう!

 下僕共に経験値を稼がせてやるなんざ、俺も甘くなったもんだ。


 ま、危なくなった時は助けてやるさ。


 俺は下僕共の初めての戦いを見守ることにした。



 ***  ***


 ぷつっ!


 ありゃ、通信魔法を切られてしまいました。

 わたしたちの前には、ガイおにーさんと出会った時に襲われていたシルバーウルフが5匹と、上位種であるゴールデンウルフが1匹。


「あーもう! 最近ガチが多いんだから!!」


「まあまあノナさんや、いつもおにーさんに守ってもらうのもアレだし、わたしたちも強くなったと思うよ?」


 ノナちゃんはガイおにーさんの仕打ちに憤慨しているけど、これはおにーさんの優しさだ。

 いつも『虐待』で甘やかされているわたしたちに、世の中の厳しさを教えてくれているのです。


「やろう! ノナちゃん!」


「う……レナ姉の言う通りかも。 仕方ないわね!」


 ちょうどトレーニング中だったので、トレーニングウェアの上に簡易的な戦闘装備を身に着けています。


「ふうっ!」


 わたしは息を整えると、腰を僅かに落とし構えます。


「よ、よし! あたしもパワーアップした魔法を見せてあげるわ!」


 じゃきん!


 ノナちゃんも覚悟を決めたのか、黒曜石で出来たマジックロッドを構えます。


「もしかして……レナ、ノナなの?」


「えっ!?」

「ふおっ!?」


 モンスターに向けて集中していたので、女の人の顔をよく見ていませんでした。

 聞いたことのある声に驚いてよく見ると……そこにいたのは、わたしたちとよく遊んでくれたニーナお姉さんでした。

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