第23話 ノナですがあたしたちの村が魔王領みたいです(後編)

 

「ふぉ? どどど、どーぶつえん?」


 おかわりのミルフィーユを頬張ったレナ姉が、目を白黒させている。


 どーぶつえん……。


 小さいとき、流れ着いた街で一度だけ見たことがある。

 シルバーウルフやミニエレファントなどの下級モンスター、ヤギさんやひつじさんを飼いならし、芸をさせたり動物と触れ合ったりさせる移動式動物園。


 その日の食事にも事欠いていたあたしたちは、楽しそうに動物園を楽しむ子供たちを遠くから眺めていただけだけど。


「動物園って……なにもいないじゃない」

「……あっ」


 そう言いかけてあたしはちょっぴり後悔した。

 ガイの紅い両目がギラリと光ったからだ。


 こーいうときのガイはご機嫌MAXでとんでもないことをしでかすのだ。


 じりり……思わず窓際から後ずさるあたし。


「くくっ、良くぞ聞いてくれたなぁ!!

 俺様のちんけな動物園は、レッサーキメラやガーゴイルなんかの低級魔獣を展示する子供だましじゃねぇ!」


「えぇ……」


 ちなみにガイが今言ったモンスターは、もし出没したら地域レベルの危機である。

 いやな予感しかしないけど、あたしたちはガイ (魔王)から逃げられないのだ。


「来い!! 俺様のかわいいペット共!!」


 ズガーーーーーン!!


 数十条の雷が”動物園”の敷地内に落ち……。


 ずももももも


「「えっ、ええええええええええっ!?」」


 土煙が晴れるに従い見えてきた衝撃の光景に、ただ叫び声を上げる事しかできないあたしたちなのだった。



 ***  ***


 目ざといノナは気付いたようだな。


 魔界も大概だが、この世界には「娯楽」が少ない。


 魔界の娯楽は魔獣狩りだの奴隷を戦わせる闘技場だの、血生臭いものしかなくてうんざりだ。

 だからミルラみたいなクソ真面目で頭の固い魔王候補が生まれるんだな。


 ……なぜか通信魔術でミルラから抗議が飛んできたが当然無視だ!


 楽しい娯楽で住民どもを精神的に堕落させる……燃え落ちた灰の中から輝く才能が生まれるんだぜぇ (と親父も言っていた)!!


 メシ虐待も服虐待すら乗り切った下僕どもには俺も一目置いているが、さすがにこの娯楽虐待は乗り切れまい。


 そもそもこの世界の連中は働きすぎだ。


 やれ

「城の植木の手入れは毎日します!」

 とか

「城の入り口には交代で見張りをつけます!」

 だの。


 俺様の推測では、モンスター退治という経験値稼ぎの手段を奪われた連中が考えた打開策と思われる。

 俺様クラスの魔王となると、身の回りの些細な”クエスト”でも莫大な経験値が手に入ってしまうからな!


 悔しさに耐え抜きながら俺様の世話をして経験値を稼ぎ、機を見て反撃するつもりだろうがそうはいかねぇ!


 城の雑用はレナノナを中心にさせるし (1クエストあたり3000センドしか払わない低賃金労働!)、村人どもはもっと遊ばせてレベルを上げないことが大事である。


 ただの村人ごときが、この誘惑に耐えることは不可能だ。


 なぜなら、俺様の動物園には親父の代から狩り集めてきた魔獣がそろっている。

 生半可な魔族なら触れることも出来ない高位魔獣が織り成す珠玉のパフォーマンス。


 そいつが下僕や村人どもを魅了することは確実。

 これからは1日8時間睡眠、4時間仕事、12時間余暇と言う地獄の怠惰生活が始まるだろう。

 しかも「娯楽」はこれだけじゃねぇぞ?


 おっと、前置きが長くなってしまったな。


 俺様のかわいいペット共の登場だぜ!!



 ***  ***


 ずももももも


 落雷が巻き起こした土煙が晴れた後に見えたのは、真っ赤な鱗を持つ、家より遥かにでっかいトカゲ。


 キシャーーーーーッ!!



 あ、あれってまさか?


「おう、エルダーレッドドラゴンの”シェリー”だっ!

 レッドドラゴンの変異個体で、レベルはわずか7000!!」


「ぎゃ~~~っ!?」


 あたしの記憶が確かなら、史上最高の勇者様のレベルが300だったはずだ。


 ゴオオオオオオッ


 ばこ~ん!!


 大きく開かれた顎から放たれた七色のブレスがフェンスに当たって吹き散らされ、轟音をとどろかせる。


「ちょ、ちょちょちょっ!? 大丈夫なのアレ!」


「ふははははっ! シェリーの七色ブレスはオープニング演出に最適だからな!

 今日も絶好調のようだぜ!」


「そ、そーではなくっ!」


 あたしはびしりとフェンスを指差す。

 ブレスの当たったところがちょっと変色して曲がってるしっ!

 あんなのが直撃したら村は跡形もなく吹き飛んでしまう。


「あ? 俺様の”ペットハウス”があんなので壊れるわけねぇだろ?」

「それに……」


 ブワワワン


 フェンスを構成する魔力の網がわずかに明滅する。

 その光はフェンスの上側に集まっていき……。


 バシュッ!


 お城の塔に設けられた避雷針のようなものに直撃する。


「シェリーのブレスを魔力に変換し、城の魔導装置で使うんだぜ!

 エコロジーだ!!」


「あ、あはは……」


 とりあえず突っ込んでも無駄みたいだ。

 あたしは乾いた笑い声を上げるしかなかった。


「あっ! あの子かわいい!」


 レナ姉は次に現れたモンスターを見て歓声を上げている。


「おう! あいつはコカトリスのモモだな!

 まだ幼鳥だから白くてかわいいだろ!」


「うん!」


 確かに真っ白な羽毛にくりくりとした大きな黒目、丸っこい身体はとってもかわいいけれど……。


「……でかくね?」


 ずず~ん


 お城の塔ぐらいの高さがある白いもこもこが大地に降り立ち、城全体がわずかに揺れる。


「モモのくちばしは石化の追加効果があるからな、モフる時は気をつけるんだぜ?」


「らじゃー!!」


「え~っと」


 この異常事態に適応しているレナ姉をみて、あたしは考えることをやめた。


「さあ! 次々来るぜ!

 久々の魔獣ショー、村人どもに見せてやるぜ!!」


 その後も世界の危機レベルなモンスターの召喚が続いたのだった。

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