第24話 正義のお嬢様、村の惨状を目撃する

 

「な、なんと言うことでしょう!

 レンド村が……!」


 村から少し離れた場所にある小高い岩山。

 レンド村の全景を見渡せるその頂上に、白銀の鎧をきっちり着込んだ少女がいた。

 先日救援隊としてレンド村に赴いたフェリシアである


「ああっ……あの後すぐに救援に赴けば、救えたかもしれませんのに!」


 ネストを一撃で吹き飛ばし、紅い悪魔を一太刀で両断するという恐るべき力を持つ男が出現した。

 邪悪な見た目をしており、家宝である宝玉の反応から見ても伝説の魔王に違いない。


 王都に戻ったフェリシアは、レグニス家当主である父親に訴えたのだが。


 ---


「此度のモンスター暴走事件、ギルドの調査ではマナのバランスが崩れた事が原因であり、珍しいことではあるが、まもなく収まるとのことだったぞ?

 それより、ネスト退治はギルドの者に任せろと言ったのを忘れたのか?」


「お前は大事な我が家の跡取りで、来年には隣国のグランジス家より婿をもらう身なのだぞ!?

 レグニス家は代々近衛師団長を勤めた家系……陛下への手前、救援隊の指揮官を任せたが」


「大体”ボク”とはなんだ! 貴族の子女らしく話せといつも言っているだろう、そもそもお前は小さなときから……!」


 ---


「ううっ、お父様ったらボクのしゃべり方は関係ないでしょうに……」


 父親からは理解してもらうどころか散々説教を食らってしまった。


「それに”陛下への手前”などと……苦しむ民を救うのがレグニス家の勤めであるのに。

 お父様はノブレスオブリージュの伝統をお忘れになったのでしょうか!」


 紅い悪魔が出現した時の衝撃でギルドの同行者たちはみな気を失っており、あの黒い鎧の男を目撃したのがボクだけと言うのが悔やまれる。

 それに、男は希少な獣人族の少女たちを連れていた……首輪をつけられていたし、無理やり奴隷にされているに違いない。


「レグニス家の誇りにかけて、助けなければっ!」


 フェリシアは冒険者ギルドに掛け合うものの、

「ネストの爆発と珍しいモンスターの出現は、崩れたマナのバランスが元に戻る際に発生した偶発的な現象」

 と言う形で事後処理が終わっており、まともに取り合ってもらえなかった。


 正義かぶれお嬢様の正義ごっこに付き合っていられないというのが本音だろう。


 憤慨した彼女は侍女の一人に影武者を頼むと、王都を飛び出してきたのだ。


「そ、それにしても……なんと巨大な城でしょうか」


 レンド村の入り口に、周囲を圧するようにそびえる禍々しい城。

 王城の大きさをはるかに上回っている。


「それに」


 村のほうに目をやると、変わり果てたレンド村の光景が。


 村人の家があったであろう場所には漆黒の石塊が林立しており、村のそばには城と同じデザインの禍々しい塔が何本も建っており、紫色の電光で覆われている。


 ……ぱたり


「!!」


 ちょうどその時、塔の影から数人の村人たちが姿を現し地面に倒れ込んだ。

 驚くことにその両手両足は武器の形に変形している。

 すぐに人間の手足に戻ったのだが、村人たちはピクリとも動かない。


(な、何てことでしょう! が行われている!?)


 レグニス家に封印されている古文書には、禁呪とされた肉体改造魔法が記されているという。

 あの黒い男は、そんなおぞましい魔法を使ったと言うの!?


 真っ青になり両手で顔を覆うフェリシア。

 恐怖に震える彼女の耳には


「青年団のみんな今日もお疲れ様!!

 ガイ様からキンキンに冷えたビール虐待があるぜっ!」


「うおおおおおっ、あの唇がちょっと凍るヤツな! あの感覚が癖になるんだよなっ!」


「おう、1日6時間しか働かなくて良いし、この生活最高だぜっ」


 などと言う、村人たちの声は届かない。


(何とかしてレンド村の皆様を助けないと……次は王都が狙われるにきまっております)



 ズガーーーーーン!!



「!!!!」


 次の瞬間、何条もの雷が城の隣に落ちる。


「なっ……なっ!?!?」


 すさまじい土煙が収まった後、更なる衝撃がフェリシアを襲う。



 キシャーーーーーッ!!



「ど、どどどど……あれはドラゴンですかっ!?」


 伝承のみに存在する、最上位のモンスター。

 わずか数日で大陸の半分を灰燼にせしめたとか。


「あ、ああああ……」


 なんということだろうか、

 大勢の村人が悲鳴 (※実は歓声)と共にドラゴンの元に走っていくではないか。


「あの男……魔王は罪のない村人たちを生贄にしようとしているっ!?」


 銀の篭手を身につけた右手を力なく伸ばす。

 腰に差した家宝の聖剣ゲイボルグ。

 だが、貴族のたしなみとして基礎剣術をかじっただけの自分には、ドラゴンを倒す力などない。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ!

 ボクが必ず強くなって、あなた達の仇を討ちますからっ……くっ」


 大粒の涙を流しながら村に背を向けるフェリシア。

 この身のすべてをささげても、何とかしなければ。


 ……キインッ

(気高き少女よ)


 その瞬間、何者かの声が頭の中に聞こえた気がした。

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