第22話 ノナですがあたしたちの村が魔王領みたいです(前編)

 

「ガイの旦那! 案内板は村の入り口に置くってコトでいいかね?」


「おう、目立つところに頼むぜ!!」


「……ところで、お城の間取りを載せて良かったんですかい?

 一応、”マオウジョウ”なんでしょ?」


「はっ! 来客を迷わせるなんざ、C級魔王のやることだ!!」


「しょ、承知しやした!

 さすが旦那、気持ちのいい男だぜ」


「……え~っと」


 ”虐待魔王”ガイがこの世界に降臨し、あたし達が下僕になって1か月が過ぎた。

 ガイとあたしたちのおうちである、魔王城の建造も大詰めを迎えている。


 ……100軒余りのお家を一瞬で作ってしまった絶大な力を持つガイをして、なぜ1か月もお城の建造に掛かったのか。

 定期的に訪問してくる”監察官”のミルラさんが、その都度一部をぶっ壊してしまうからなのだ。


 その度に「まったくお前は!」の一言で済ませるガイもたいがいだけど。


 ガイの『虐待』は相変わらず絶好調で、飯虐待と称する美味しいごはんパーティや、怠惰への片道切符と称される定期的なモンスター退治により、以前より比べ物にならないくらい平和になったレンド村。


 村人みんなからガイは慕われている。

(ちなみに副村長たちは文字通り馬車モンスターのように農場で働かされてる。当然の報いよね)


 レナ姉もすっかりガイに懐いてしまったし、あたしも彼の事は嫌いじゃない……ていうか結構……彼に撫でられると胸の奥が……。


 ってもう!

 そうじゃなくてっ!!


 あたしの知識によると、魔王ってのは魔界と呼ばれる暗黒世界からもたらされる災厄。

 圧倒的な力と魔力で世界を支配し、絶望を撒く者。


 ミルラさんも時々怖いし (部屋の隅にあるごみ箱を見ながらブツブツ言ってる)、いつ二人があたし達に牙をむくかは分からない。


 あたし達人間とは隔絶した力を持つふたりなのだ。


 ということで、みんなが飼いならされてもあたしだけは最後まで気を許さないんだから!!


「おいノナ! 今日の虐待はイチゴミルフィーユ地獄だぜ!!

 庭の草刈りを終えたらすぐにお前らの部屋に集合だ!!

 おっと、城の完成祝いに特別ボーナスをやる!!

 新しい服も用意したから、せいぜい僅かな貯金を散財するがいいぜ!」


「やった~~!!」


 あうっ、そう簡単に心を許したりは……許したりは……。


「いそげっ!」


「あっあっ……ま、待ちなさいよぅ!!」


 鉄の意志を持った(?)ノナちゃんの戦いは続く。



 ***  ***


「はうう~、クリームの甘味とイチゴの酸味がさいこう~っっ」


 ガイの手作りミルフィーユ(魔法で錬成?するより作る方が楽しいらしい……ホント変わってるわね)を頬張ったレナ姉が蕩けている。


 かくいうあたしも頬が緩むのを抑えきれないんだけどね。

 香ばしく焼き上げられたパイ生地はさくさくで、とろけるように甘いクリームと、村の新農場で採れたイチゴの組み合わせは最高。

 ノーラさんの話によると、ガイから伝えられたレシピを元にレンド村の新名物にするそうだ。


 今まで王都からまれに届く書物でしか見たこのとなかった最先端スイーツに、身体じゅうの細胞が喜んでいるのが分かる。


「それにしても……」


 おかわりを狙うレナ姉の魔の手からミルフィーユを守りつつ、あたしは窓の外に視線をやる。

 あたしたちの部屋には大きな窓が設置され、最高級のクリスタルガラスがはめ込まれている。


 そこから見えるのは広大な敷地を持ったガイの魔王城とレンド村の風景。


「どうだ! 俺様の城はすごいだろう!!」


「そ、そうね……」


 すごいなんてもんじゃない。


 まず目を引くのは馬でも走り回れそうな広大な中庭。

 中央部には綺麗な水が湧き出すでっかい噴水があり、自由に泳いでいいらしい。

(ガイは対魔術コーティングを纏わせねぇとか言ってたけど、意味わかんない)

 中庭の右手にはこないだミルラさんをおもてなしした応接棟がある。

 ここは万一の際の避難所をかねており、地下室をあわせればレンド村の全員を収納可能みたい。


 ガイいわく

「お前らは災害が起きたらこれ幸いと逃げ出すんだろうが、そんなことお前らの所有者である俺様が許さねぇ!」

「安全な避難場所に閉じ込めてやるぜ!!」

 らしい。


 このあたりは低地なので洪水被害にたびたび悩まされており、ノーラさんは大喜びだ。


「ね、ねえガイ。

 応接棟の反対側にある超広い敷地は何なの?」



 応接棟の反対側には禍々しいオーラを放つフェンスで囲まれた広大な土地が広がる。

 元は小さな山があり、モンスターの住処となっていた。

 モンスターが凶暴化する前からたびたび村のみんなを悩ませていた厄介な場所だったんだけど……。


「ふん!」


 ガイが剣を一振りすると山は綺麗さっぱり吹き飛ばされてしまった。

 跡地には芝生が植えられ、深い溝が彫られ湖から水が引かれた。


 お庭でも造るのかな?

 そう思ったんだけど、敷地の周りはとげとげとした邪悪な見た目の塔に囲まれていて(農場を囲っているヤツと同じ)……。


「あれはな……」


 あたしの疑問に、ミルフィーユのおかわりを作っていたガイはその手を止め、ドヤ顔でポーズをとる。

 ひよこさんのエプロン姿がちょっとかわいい。


「ガイ様謹製、動物園だ!!」


「……は?」

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