第19話 魔王城を作ろう
「よいしょっと……」
「ガイおにーさん、これはどこに置けばいいの?」
自身の身長ほどある魔界クリスタル製の筒をレナが重そうに持ち上げている。
「あ~、それはエントランス右側に置いとけ。
回復装置だからな」
「か、かいふくそ~ち?」
目を白黒させながら”自宅”の門をくぐり、エントランスホールの中に回復装置を運んでいくレナ。
くくっ……お前らも知っているだろうが、アレは良くダンジョンのボス前などに設置されている回復ポイントってやつだ。
通常の回復装置は体力と魔力を回復するくらいが関の山だが、ガイ様謹製の回復装置は一味違うぜ?
なんと、個数に限りがあるとはいえ、エリクサーなどの上級回復アイテムの購入が可能なのだ!!
決戦のラストダンジョンともなると、想定される消費量を想定して回復アイテムを準備するのが定石……。
万全の準備をしてきたはずが、ダンジョンの入り口に回復アイテムを購入可能な装置が!?
もしかして、このダンジョンの難易度は我々の想定をはるかに上回っているのか!?
勇者共は混乱するだろう。
疑心暗鬼に陥った奴らは無駄に散財してしまうという寸法よ!
まさに外道!!
ちなみに装置の売り上げは、親を亡くした魔族の少年少女を拉致しスキル教育という名の洗脳を施して社会の荒波に手厚く放り出す、極悪非道な魔界孤児院に全額寄付されるぜぇ!!
「ガイ、おそーじ終わったわよ!
……それで、あたし達の部屋は本当にあそこでいいの?」
フリフリのメイド服を身に着け、高性能魔導ほうきを持ったノナがレナとすれ違うように屋敷から出てくる。
背中に結ったドデカいピンク色のリボンがワンポイントだぜ!
下僕にされただけじゃなく、可愛いメイド服を着せられ屋敷じゅうの掃除を命じられるなど、さぞ屈辱だろうなぁ!
「くくっ、似合ってるぜ、ノナ」
「なっ!?」
俺の口から撃ち出された侮辱の言葉に、顔を真っ赤にして震えるノナ。
ふふ、頭から湯気まで出しやがって、相当屈辱なようだな。
「いや、その……このメイド服もめっちゃ可愛いけどぉ……あうっ」
相変わらずいいリアクションをするオンナだ。
ゾクゾクした俺はノナの頭を乱暴に撫でる。
「もうっ! そんなに撫でないでよ……」
真っ赤になったノナはうつむいてしまう。
「……じゃなくって! アタシたちの部屋は本当にあそこでいいのか聞いてんの!」
俺の手を乱暴に振り払ったノナは
「ふむ」
案内が遅れたがここは村のはずれ。
高さ20メートルほどの斜面をくりぬいて、地上7階地下2階建ての俺様の城、魔王城を建築中なのだ。
レナが指さしたのは城の中心部にある尖塔の最上階。
俺と下僕共の私室があるフロアである。
「あ? 魔王の居室は城の最上階だと相場が決まってるだろうが?」
そんな事も知らないのか?
さすが平和なGランク世界だ。
その世界を俺様が蹂躙する……今さらながらにゾクゾクしてくるぜ。
「いや、そうじゃなくて……
あたしたちの部屋はめちゃくちゃ広い大部屋で、お風呂もトイレもついてて、キッチンまであるのはびっくりしたけどっ!」
くくっ、コイツらの部屋の広さは20メートル四方。
ベッドは魔界の名工がしつらえた最高級製を置いてやったぜ。
姉妹で怠惰な惰眠を強制的に貪るがいい。
怠惰は7つの大罪の一つだからなぁ!
コイツらは悪に染まるのだ。
「アンタの部屋はこ~んくらいしかないじゃない。
……ふつう逆じゃないの?」
両手を広げたノナはとても意外そうだ。
はっ!!
何を言うかと思ったら!
確かに俺様の部屋は5メートル四方しかねぇ。
だがな、風呂にもトイレにもすぐ行けるし、暖房も冷房もすぐ効くんだぜぇ!!
魔王たるもの、いちばん機能的な部屋に住むのが特権よ!!
「くくっ、残念だったな……無駄に広いお前らの部屋は暖房が効くまで10分は掛かる。
冬の寒さは堪えるぜェ?」
「お? おう」
「それに、お前らの部屋には最高の魔導調理器具と掃除器具を設置しといた。
1日5時間は働いてもらうぞ!」
「城の掃除と飯作りだ! 食材は僅か200種類からしか選べねぇ!!
給料は僅か月給5000センドだ (しかもふたりで)!!」
「えええええええええっ!? お金までもらえんの!?」
ずがーんと尻尾を逆立てて驚くノナ。
くくっ、強がりが心地いいぜ。
俺の調べでは、この世界の一般的なメイド (宮廷付き)の月給はおよそ2万センド。
4分の1の給金でふたりをこき使うなど、何たる外道!!
「お、おおおおお?」
あまりのブラックさに震えるノナのもとに回復装置を設置し終えたレナが戻ってくる。
「まぁまぁ、ノナちゃん。
これがガイおにーさんの『虐待』らしいから、甘んじて受けよう?」
「本当にありがとう! ガイおにーさん!」
「おう、どういたしましてだぜ!!」
やはり姉の方が肝が据わっている。
満面の笑みで特大の嫌味を言ってくるレナの頭を優しく撫でてやる。
「えへへ……」
「そうだな、次は……」
次なる虐待を命じようとした俺だが、突如鳴り響いた轟音に言葉を遮られてしまう。
ズガアアアアアアアアアアアアアンッ!
造成中の城の中庭に、稲光と共に雷が落ちた。
「ガイ、貴様っ!! なぜ私の連絡を無視するんだっ!!」
俺の耳に届いたのは、数日前に別れたばかりの幼馴染兼監察官の声だった。
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