第3章 暴虐の限りを尽くしていたら監察官が来たウザい
第18話 ザンガの苛立ちとミルラの危惧
「なに、仕留めそこなっただと!?」
ガシャン!
ソファーから立ち上がった拍子にテーブルからワイングラスが床に落ちる。
ここは広大な敷地を持つ魔王候補生ザンガの私宅。
こぼれた魔界ワインが高級絨毯を汚すが、ザンガには気にしている余裕などない。
「は、はっ! 準備していたレッドデビルは予定通りガイを襲いました。
ある程度の傷は与えたと推定されますが、先ほど反応が消えまして……」
不幸にも任務の失敗を報告する事になった部下の右脚が震えている。
主君の怒りが自分に及ぶことを恐れているのだ。
「馬鹿な……!」
絶句するザンガ。
魔王の力は、派遣される
創造神共が作り上げた忌々しい制約だが、今回はそれを逆手に取りガイをわざとランクの低い世界に派遣し、高レベルな魔獣に襲わせ始末するつもりだったのだ。
(そのために切り札の1つを使ったのだぞ!)
本来、1人の魔王が派遣された世界に干渉できないのがこの世の
だが、何事にも例外はあるもので、オルカディア家はそのような理を無視する
渋る祖父を説き伏せ、Gランク世界には出現しえない高レベル魔獣を送り込んだのだ。
「くそっ!」
ドガッ!
「ひいっ……」
「ザンガ、彼が怖がってるわよぉ~?」
荒れるザンガを宥めるように、背後からしなだれかかったのは紫髪の女。
魔王学院の女子制服を着ているが、胸元を大きくはだけており、妖艶な雰囲気を漂わせている。
ザンガの取り巻きの一人であり、愛人とも噂される魔族ミラージュ。
伝説の魔族、グランサキュバスの血を引いたバシキール家の末裔である。
「でもぉ~」
女の双眸が三日月のように細められ、暗殺計画の実行を担当した壮年の魔族をねめつける。
「やっぱレッドデビルってのがヌルかったんじゃない?
アタシ忠告したんだケド、そ・こ・の無能なオジサンが大丈夫って言ったんだよねぇ?」
「!? ミラージュ様、これはヤツの力が我々の想定を超えていたためで、S+ランク以上の魔獣となればこちらにも危険が……」
「えいっ♪」
キュボッ!
必至に弁解する魔族だが、最後まで言い切ることは出来ず……ミラージュが右手をかざしただけで、悲鳴を発する暇もなく血煙の中に消える。
「ん~、汚なぁい。
ねえザンガ、やっぱアタシたちが直接動いちゃう?」
現在ミルラが務めている監察官を成り代わり、直接手を下す方法もある。
アタシと貴方の家の力を合わせれば、それも可能だとその目が語っている。
「……いや、まだやめておこう。
祖父に借りを作るのも癪であるし、ご老体共の影響力は無視できん。
もう一つの”切り札”を使うさ」
ガイを抹殺する事だけがザンガの目的ではないのだ。
魔界を手に入れるため、なすべきことは多い。
「それに……」
「どうしたのぉ?」
「……いや、何でもない」
(一番の切り札は最後まで取っておくものだ)
「ええ~、教えてよぉ~」
甘えた声で股間をまさぐってくるミラージュを冷たい目で見降ろすザンガ。
オレの野望が成就した時には、コイツもしょせんは障害物だ。
ミラージュの愛撫に身を任せながら、ザンガの視線は魔界の支配者として君臨する自身の未来を見据えていた。
*** ***
(くそっ! あの馬鹿者め! 私の忠告を無視しおって……)
屋敷の外から隠密魔術で聞き耳を立てていた女子生徒が一人。
ガイの幼馴染であり、監察官を勤めるミルラである。
(今回は何とか切り抜けたから良いものの……ザンガの、オルカディア家の切り札ともなれば2度目はあるまい)
(派遣数日での監査など異例中の異例ではあるが、急がねば!!)
ミルラは急ぎその場を立ち去り、”監査申請”をするために魔都中心部に建つ監察官協会本部へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます