第16話 魔王俺、金と経験値を稼ぐ手段を奪い、村の支配を完成させる(前編)

 

「次は種まきだ!!

 魔界農協からお急ぎ便で取り寄せた”初めての農業”セットをくらえ!!」


 ドドドドドッ!


「「のおおおおおおおっ!?」」


「……え~っと」


「ガイおにーさん、副村長さんたちを変なモンスターに変えちゃったよ?」


 光と共に上空から落ちて来た何かの種 (デカい)を引っ掴むと、副村長たちに植えさせるガイ。

 彼らの両腕両脚は、鋤や鍬、馬車の車輪のようなものに変化している。


「あ、あれがガイの本当の力なの?」


 人間をモンスターに変えてしまう魔法なんて聞いたこともない。

(ていうかそんなの禁呪法だよね)


 ぶるるっ


 それをやすやすと実現してしまうガイの力の強大さに、今さらながらに寒気がしてくる。

 今のところ、ガイの『虐待』は村の為になっているけれど……。


「あ、あたしがしっかりしなきゃ……!」


「むんっ♪ お姉ちゃんも頼ってね!」


 なぜかガイはあたし達の事を気に入っているようだ。

 レナ姉と力を合わせれば、魔王アイツをコントロールすることも可能かもしれない。


 なんかこの村……むしろ世界の為にでっかい使命を背負っちゃった気がするけど、レナ姉と一緒なら怖くない。

 生まれた時から支え合ってきたのだから。


「レナ、ノナ」


 あたしが使命感を新たにしていると、ノーラさんが話しかけてきた。

 赤く腫れあがっていた頬はすっかり良くなっている。


(……ん?)


 僅かな違和感。

 それに気づく間もなく、ノーラさんの形の良い唇が開かれる。


「副村長も青年団のみんなも……あんなに張り切って。

 ふふっ……初めて見る魔法?だけれど、ガイさんは素晴らしい力をお持ちのようね」


((えええ~~~~~っ!?))


 思いもよらぬノーラさんの言葉に、耳と尻尾を逆立てるあたしたち。


「村の隣にこんな広い畑が……これで食料問題も解決できるかもしれん!!」

「うお~~っ、頑張れ副村長たち!!」


((あれあれあれ~っ!?))


 周りを見れば、無邪気に声援を送る村人たち。


 ガイの力を恐れているあたしたちがおかしいんだろうか?

 脳内ハテナで混乱するノナたちであったが、辺境に位置するレンド村の住人達には魔法の知識など皆無なのであった。

 脳筋ぞろいの村人たちは、この光景を違和感なく受け入れていた。


「え、えっと、頑張れ副村長さん?」


「の、飲み物もあるわよ?」


 色々な街を転々としていたので意外に博識なあたしたちなのだけれど、ここは空気を読むことにしよう、うん。


 そうして畑に種を植えまくること数時間。

 森があった場所は青々と若芽を茂らせる立派な農場に生まれ変わっていた。


「安心しな。

 畑を出れば普通の人間の手足に戻る。

 だがなぁ!

 2日以上農作業をしないと禁断症状が出て来るぜぇ……くくく」


「「ひいいっ!?」」


 う~ん、今までの虐待とは少し違うけど、安増反省してなさそうだった副村長たちはちょうどよかったかもしれない。

 ガイの謎魔法で作物の育ちもよさそうだし、食べ物の心配はなさそうかな。


「ずずず……」


「たっ、大変だ大変だ!!」


 レナ姉の入れてくれた薬草茶を飲んでほっこりしていると、道具屋のセリオさんが慌てた様子で広場に駆けてくる。


 どうしたんだろう?

 確かセリオさんは村はずれの監視塔で、モンスターの襲撃を警戒していたはずだ。


「どうしたのですセリオさん、そんなに慌てて」


「や、山のようなモンスターがこちらに向かっている!!」


「「!!」」


「……んあ?」


 どうやら、レンド村の危機はまだ去っていないようだった。

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