第15話 魔王、農場を作る

 

「よう、お前らだな?

 あのハゲ頭とつるんでセンスのない虐待をしていたのはぁ!!」


 ブオオッ!


 黒ずくめの男が大地を踏みしめただけで、魔力の衝撃波が旋風を巻き起こす。


「うわっ?」

「な、なんだコイツ!?」


(ちっ……せっかく丸く収まりそうだったのに、何をする気だ)


 驚きの表情を浮かべたまま、内心舌打ちをする副村長。


 モンスターの群れに襲われた村の危機を救ったザンガたち冒険者パーティ。

 最初は連中の横暴にうんざりしたものの、思ったより単純な彼らに取り入ることに成功した。

 連中を上手くコントロールすれば、現村長であるノーラを追い落とし村長の座に就くことが出来るかもしれない。


 その企みは突然乱入してきた男に阻止されてしまった。

 ノーラが飼っていた獣人族のガキが手引きしたのかとも思ったが、どうやらそういうわけでもないようだ (下僕とか言ってたし)。


 焦った副村長だが、実際にノーラを解任する前で助かった。

 ザンガたちは倒された事だし、自分たちは連中に脅されていたという事にすれば、お人好しのノーラの事だ。 

 この場は乗り切れるだろう。

 報酬代わりにもらったこのマジックアイテムを使えば逆転の機会もあるはず。


 副村長は懐に忍ばせた小さなオーブを握りしめる。

 コイツは低級モンスターを引き寄せる効果を持っており、ノーラを村の外に誘い出すことが出来ればモンスターに襲わせることも可能だ。

 ノーラがいなくなれば自分が合法的に村長の地位に……!


 そんな陰謀に頭を巡らせていた所にこれである。


「ガ、ガイ様?

 村を救って頂いてありがとうございます。

 私どもはザンガに脅され仕方なく手を貸しておりました。

 ですが、しでかしたことに対する罰は必要だと存じます。

 レンド村の為に(働きたいと……」


 ザンガを一撃で倒したことから考えて、この男は得体が知れない。

 ひとまず下手に出るべきだ、そう判断した副村長は早口でまくし立てる。

 自分の言葉の中に”ホットワード”が潜んでいたことをなど知らずに。


「!?

 いい心がけだぜぇ!! てめぇにはぜひ身を粉にしてもらおうかぁ!!」


 ブワンッ!!


「……え?」


 黒ずくめの男が驚きに目を見開いた瞬間、赤い魔法陣が副村長たちを包み、懐に忍ばせたオーブがはじけ飛んだ。



 ***  ***


 なるほどな!

 目の前のさえない中年男から発せられた言葉に俺は感動していた。


「身を粉にする」

 コイツは村の為に自分の身を差し出す覚悟を持っているという事だ。

 近年、そこまでの忠誠心を持った男は減ってきている……お前も、もしそんな部下が現れたら大事にするんだぞ。


 オヤジの言葉を思い出す。


 レナの言う通りに虐待してやってもいいが、コイツらは苦痛を喜びに変えるドM。

 あまり喜ばせてやるのも罰にならねぇし、村の為に身を粉にしたいという望みをかなえてやるのも悪くねェ。


 そこまで得意じゃねぇが、変化の魔術を使ってやることにするか!


 ブワンッ!!


 赤い魔法陣が男達を包んだかと思うと、稲妻が彼らを直撃した。


 ズドンッ!


「ぎゃんっ!?」


 しゅううううう……


 落雷の衝撃で巻き起こった土煙が収まった後……そこには変わり果てた男達の姿があった。



 ***  ***


「な、何だこれは!?」

「オレの、オレの手がぁあぁぁあ!?」


 混乱し叫ぶ副村長たち。

 まあそれはそうだろう。

 雷に打たれたと思ったら、自分たちの両手が鋤や鍬に変わっていたのだから。


(え、えええええ? なんか新しいパターンだわ!)


 内心反省していなそうな副村長たちを懲らしめるため、ガイに虐待してくれと頼んだレナ姉。


 よく考えたら、アイツら良い思いしちゃうんじゃ?

 ガイの虐待って結局アタシたちにとって嬉しいことも多いし。


 だけど、副村長が「村の為に身を粉にして働く」と言った瞬間、ガイの雰囲気が変わり……こうなったのだ。


 あたしが息を飲んで事の成り行きを見守っていると、高笑いと共にガイの大声が聞こえてくる。


「くはははははっ! 驚いてくれたようだな!!

 村の為に身を粉にして働きたいというその心意気……このガイ、いたく感動したぜぇ!

 だから褒美を取らせてやるぜぇ……俺の魔術知識を総動員し、農耕特化モンスターに改造してやった!!

 長老共ですら実現困難な高等魔術だ! 感謝しろよぉ!」


「う、うそだろ!?」


 頭を抱えて叫ぶ副村長たち。


「さらに!!」


 ズドオンッ!


 村を囲んでいた森が半分ほど吹き飛び、広大な更地が出現する。


 ズゴゴゴゴゴゴッ


 更地を囲うように、何本もの塔が地中から生えてくる。

 細い塔の先端にはガーゴイル?のような邪悪な石像が鎮座しているし、塔の真ん中からはトゲトゲがいっぱい生えている。

 すっごく邪悪な見た目なんですけどっ!


 バチバチッ!


 次の瞬間、紫の電光が網目のように塔の間を埋め尽くす。


「コイツは作物を食い荒らす害獣の侵入を防ぐ防護柵だぜ!」


 害獣というかドラゴンでも消し炭になりそうじゃない!!


「お前らにはぁ……ここを耕してもらうっ!!」


「「うわああっ!? 体が勝手にっ!?」」


 ズドドドドドッ!


 ガイに操られた?副村長たちが、ものすごい勢いで更地を開墾していく。

 僅か数十分後には、地平線まで広がる肥沃な農場が出現していたのであった。


 ……えっと、いやあの……なにこれ?

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