第14話 魔王俺、この世界の秘密を悟る

 

 ガイの『虐待』により、村じゅうの家が石造りの豪邸に変貌した。

 自分で何を言ってるかよく分かんない。


 何か気になることがあったのか、ガイは目を閉じ考え込んでいる。


「ガイおにーさん?

 おーい! つんつん

 むむむ……レナちゃんあた~っく!」


 むにむに


「くっ、やるねおにーさん。

 最終兵器、かんちょー!!」


 べしっ!


「ぬほっ!? 突き指したぁ……」


 ガイに悪戯を試みるレナ姉は放っておいて、

 あたしはノーラさんの介抱を続ける。


 濡らした布でノーラさんの腫れた頬を冷やしていると、ようやく衝撃から立ち直ったのかノーラさんが優しい笑みを浮かべる。


「ふふっ……突然の事でびっくりしたけど、貴方たちがあの人を連れてきてくれたの?

 私を助けるだけじゃなく、みんなの家を建て直してくれるなんて。

 少し変わった方だけど、外国の賢者様かしら?」


「あ、あはは……連れて来たと言いますかなんといいますか」


 下僕にされたんですけどね。

 それにアイツは”魔王”らしいですけどね。


 そうとは言えず、あいまいな笑みを浮かべるあたし。


「あ、あの……ノーラ村長」


 どう説明したもんか、そんなことを考えていると数人の男達がノーラさんに話しかけてくる。


「!!」


 ノーラさんを裏切り、解任しようとした副村長たちだ。


「あ、あたし見てたわよ!

 ノーラさんを裏切るなんて……許さないんだからっ!」


「うっ……ゆ、許してくれっ! ゲウスのヤツに脅されていて仕方なくっ!」


「フ~ッ!! ホントかしら!」


 白々しい言い訳を口にする副村長。

 あたしはノーラさんを守るために前に出る。

 なんかしたら噛みついてやるんだから!


「ノナちゃんの言う通りね! ホントは望んで裏切ったんじゃないの?」

「そうだそうだ!」


 特にノーラさんを慕っていた村人たちから同調の声が上がる。

 このまま副村長たちのつるし上げタイムが始まるのかと思っていたのだけれど。


「……みなさん、おやめなさい」


 静かなノーラさんの声が、皆を遮った。


「ノーラ村長……」


「副村長。

 あなたは8人家族で食べ盛りの子供たちもいる……分配された食糧では足りなかったのでしょう?」


「そ、それは……」


「他の皆さんも連中に手を貸していたとはいえ、大なり小なり脅されていたこともあったでしょう。

 村を守ることを優先するあまり、ゲウスさんたちをつけあがらせてしまったのは私の落ち度でもあります」


「…………」


「明日にはギルドの救援隊が到着するそうです。

 貴方たちが私に対して申し訳ないと思ってくれているのなら、贖罪代わりに村のために働いてくれませんか?」


「「ノーラ村長!

 ありがとうございます、何でもします!」」


「皆さんもそれでよろしいですね?」


「ま、まあ……村長がそう言うなら」



 ああ、どこまでも優しいノーラさん。

 村の為に副村長たちを許してあげるみたい。

 頬を紅潮させ、感動の表情を浮かべる男たち。


 むむむ……あからさまにほっとした表情を浮かべている奴もいるし、本当に反省してるのかしら。

 胸の奥がざわつくあたしは、ちらりとレナ姉に目配せを送る。



 ***  ***


 きゅぴ~ん!


 ノナちゃんから指令を受け取ったわたしは、ガイおにーさんへの悪戯をやめ、レナちゃんセンサー (アホ毛)を副村長さんたちに向けます。


(こ、これわっ!?)


 じんわりとした緑色の気持ちに混じって、どす黒いモヤモヤを感じます。

 むむむ……反省はしてるみたいですが、なにか含むところがあるみたいです。

 例えばまだバレていない悪事があるとか……わたしの良い人センサーが曇ります。


 副村長さんたち何でもするって言ってたし……そうだ!


 あたしの脳内に天啓走る!!


 ガイおにーさんに『虐待』してもらえば、副村長さんたち感動して心を入れ替え、村の為にもなるのじゃないでしょうかっ!

 ガイおにーさんは『良い人』なので、ひどいことはしないのです(たぶん)!


 わたしはこくりとノナちゃんに合図を送ると、ガイおにーさんの肩によじ登り、耳に向かって大声で叫びます。


「ガイおにーさん! まずはあの人たちから虐待しちゃおう!!」


「……なんだとっ!?!?」


 ギラリ!


 ガイおにーさんの両目が怪しく輝きます。

 ぬふふ、ブラックレナちゃん暗躍します!!



 ***  ***


 俺様の『ペット扱い虐待』を何故か喜ぶこの世界の住人。

 得体のしれない反応に、恐怖すら覚えた俺だが……。

 こういう時にこそ論理的な思考だ!

 考えろ……考えろ!

 オヤジの書斎で読んだ古文書とか、魔王学院の書庫で読み漁った文献にヒントがあるはずだ。


 ……そうか!!


 俺の脳内に、ある歴史書の1ページが蘇る。

 極東世界ファーイーストのヤーポンという国には精神的・身体的苦痛を経験値に換える驚異の種族が住んでおり、偵察に出た魔王候補があえなく撤退を余儀なくされたことがあったらしい。


 その種族の名は……”ドM”!!


 この世界の住人は、そいつらの末裔だという事だ!!


 ……ふぅ、俺としたことが少々焦っていたようだぜぇ。

 相手の正体がわかれば怖がることはねぇ!!


 精神的復活を遂げた俺の耳に、レナの大声が届く。


「ガイおにーさん! まずはあの人たちから虐待しちゃおう!!」


 !!


 そうだったなレナ!!

 魔王の本分を忘れるところだったぜ!!

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