第11話 魔王俺、無粋な冒険者どもを退治する
「あれがレンド村か……都合のいいことに村人どもが広場に集まっているじゃねぇか!
くくっ! 虐待しがいがありそうだぜ!!」
馬鹿正直に真正面から攻め込むなんざ、三流魔王のすることだ。
コイツらみたいに思わぬユニークがいるかもしれねえし、まずは偵察だ!
はるか上空からレンド村を睨みつける。
周囲を森に囲まれた平地に100軒ほどの家が点在している。
人口は4~500人と言ったところだろうか。
村の中心には広場があり、物見やぐらの周りに大勢の人間共が集まっている。
レナとノナの話では、食糧不足で村は大変だとのことだったが……。
へっ!
古文書で読んだことがあるぞ。
オリエントと呼ばれる世界では、断食を行って神と一体化し、その力をわが身に降ろす祭りがあるらしい。
はは~ん、魔王である俺様の出現に焦り、慌てて神降ろしの儀式をしてやがるな!
くくっ……甘いな人間共よ。
すぐにそのすきっ腹に大量のメシをぶち込んでせっかくの儀式を台無しにしてやるぜぇ!
俺が思わず舌なめずりをしていると、ノナの悲鳴が聞こえる。
「何であたし、空を飛んでんのよ!? お、落ちるっ!」
ひしっ
「あ? 飛行魔術を使ってんだから、落ちるわけねェだろ?
レナを見習え」
高い所が怖いのか、俺の腰にしがみついて来るノナ。
「すご~い! 浮いてる!
ひゃほ~い!」
どうやら度胸は姉の方がありそうだな。
ふむ、今後の事を考えてノナに高高度飛行訓練を積ませるか。
「ちょっと! ヘンなこと考えてないでしょうね!?」
今後の虐待計画を練る俺に何かを感じたのか顔面蒼白でしがみついて来るノナ。
くくっ、相変わらずリアクションが面白いヤツだぜ。
『虐待』には向き不向きがあるからな、不得意な事を無理強いするつもりはねえ!
「おっと、そんな事より村だ村」
魔王としては
辺りを闇に包んで静かに降臨するか、巨大な爆発と共に出現するか。
学院で習った魔王演出論基礎の内容を思い出していると、何かに気付いたのかノナが声を上げる。
「ちょっとまって!
あそこにいるのはいじわる冒険者パーティのゲウスとデガ?
って、なんでノーラさんが捕まってるの!?」
「あ?」
上空数百メートルから見ると広場の人間共は豆粒にしか見えない。
ノナは相当目がいいらしいな。
「なんか気になる事があんのか? ほら」
シュワン!
ノナの様子が気になった俺は、遠見の魔術を発動させる。
目の前に板状のスクリーンが出現し、広場の様子が大写しになる。
俺様の遠見魔術は、音まで拾う優れものだぜぇ!
「「っっ!?」」
その瞬間、二人の下僕が息を飲んだ。
*** ***
『とまあ、そういう事で……副村長殿らの同意も得て、ノーラ氏を解任する事になったのだよ』
『むう~っ、むぐうううううっ!?』
あたしの目が捉えた村の異変。
最初はゲウス達の横暴にノーラさんが抗議しているのかと思ったんだけど、
ガイの謎魔法で見えた光景は、信じられないものだった。
「ノーラさんが、村長を解任? ど、どういうこと?」
「あっ! 副村長さんや青年団の人たちもいるよ!」
「も、もしかしてっ!」
村人の中に裏切り者が出たんだろうか?
優しい人が多いレンド村の中にそんな人がいるとは信じたくないけど……確かに最近村の空気はあまり良くなかった。
『このアマ、暴れるんじゃねぇ!』
バキッ!
「ああっ!?」
「ノーラさんっ!」
戦士デガに殴り飛ばされ、なすすべもなく吹き飛ばされるノーラさん。
地面に倒れた彼女は気を失っているのか、ピクリとも動かない。
「助けなきゃ! ガイっ……」
お願い……そう叫ぼうとしたあたしは、あることに気付いてしまう。
コイツの趣味は『虐待』……あたし達が食らった?ごはんとか服とかはともかく、本来の虐待とは暴力のはずだ。
コイツの圧倒的な力が、レンド村の人たちに向けられたら?
『はっ! 先を越されちまったが、いい虐待をしてんじゃねえかぁ!!』
そんなセリフが放たれることを半ば確信し、恐る恐るあたしはガイを見上げたのだけれど。
「なん……だとぉ!?
あのハゲ野郎……美学のかけらもねぇ!!
虐待対象に怪我させるなんざ、三流のやる事……俺様直々に成敗してやる!!」
「……へ?」
何故だかガイが激怒しているのは、いじわる冒険者たちに向けてらしく。
「いくぜ! うおおおおおおおおおおっ!」
ゴッ!
「「きゃあああああああああっ!?」」
紫色の魔力が渦を巻き、あたし達は仲良く風になった。
*** ***
「おいゲウスよ、この女がワシの (ピー)でよがり狂うことを見せればコイツらも考えを改めるんじゃないか?」
「はっ、相変わらず悪趣味だねぇ……でも悪くないか。
その後は裏切り者共にもヤラセようぜ」
気絶したノーラの両腕をつかみ、宙づりにするデガ。
べろりとノーラの頬を舐めまわす。
怒りの表情を浮かべる村人もいるが、ゲウス達を止められるものは誰もいない。
悲劇が始まろうとした時、突然天から黒いなにか舞い降りた。
「うおおおおおおおっ! 食らいやがれ!」
ドガバキッ!
上空から降って来た黒ずくめの男が、渾身の右ストレートをゲウスに見舞う。
「ぐぼうべっ!?」
鼻血をまき散らし、遥か彼方まで吹き飛ぶゲウス。
「きゃあああああああっ!? どいてっ!?」
バキッ!
「ふぐうへっ!?」
続いてくるくると回転しながら落ちてきた少女の踵が、デガの脳天にめり込む。
ズドンッ!
大穴を開けながら地面にめり込むデガ。
「くっ、何事だ!?」
魔法の発動体制を取るキーツだが、その動作は遅きに失した。
「きゃははっ♪ レナちゃんひっぷあた~っく!」
ズドオンッ!
斜めに降ってきたレナのお尻がキーツの顔面を直撃し、あっけなく吹き飛ぶ魔法使い。
そのまま屋敷の壁に激突し、動かなくなる。
「はっ、弱くて話にならねぇな!」
ぽいっ!
黒ずくめの男は動かなくなったデガとキーツの首根っこをつかむと、遠くの森まで放り投げる。
「「……え?」」
突然の闖入者に、目が点になる村人たち。
「「ノーラさんっ!」」
何とも言えない空気が流れる中、レナとノナは地面に倒れたノーラに駆け寄る。
ノーラは頬が腫れているものの、大きな怪我なさなそうだ。
「うっ……その声は……レナとノナですか?」
「よ、よかった~!」
「はいっ! あたし達が助けに来ました!」
ぎゅっ!
目を覚ましたノーラに、感極まった様子のふたりが抱きつく。
「もう、村の外に出たと聞いて……心配しましたよ?」
優しい笑みを浮かべるノーラ。
だが、ゲウス達が消えていることに気づき、怪訝な表情を浮かべる。
「彼らはどこに……もしかして、あなた達がやったのですか? それにその服は?」
「えっと、話すと長いんですけど……」
ノナが経緯を説明しようとした時、空気を読まない男の声が響いた。
「聞くがよい、ひ弱な人間どもよ!!
俺の名はガイ・バリアート!!
魔王学院主席にして、お前たちの世界を支配すべき征服者だぜ!」
ズオオオオオオオオオオオオオッ
ドドドドドドドドッ!
「きゃああああああっ!」
「な、なんだっ!?」
晴れ渡っていた上空は暗雲に包まれ、大地は大きく鳴動する。
空中に浮かび上がった漆黒の偉丈夫が放つとてつもない力に、混乱する村人たち。
「まずはあいさつ代わりだ!!」
「オオオオオオオオオッ!!」
ガイの咆哮と共に、抜き放たれた魔剣カオスブリンガーが怪しく輝く。
ズガアアアアアアアアアアアンッ!
剣が振り下ろされた瞬間、大音響と共に村中の家が大爆発を起こした。
「「えぇ……」」
レナとノナのつぶやきは、爆発音にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
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