第10話 魔王様、出撃
「よお~っし! ガイ様絶好調だぜぇ!!
レンド村征服に向けて、全速前進だぁ!!」
ふかふかのベッドでたっぷり睡眠をとった俺の魔力は、はち切れんほどに充実している。
有り余る魔力でご機嫌な朝飯であるサーモンサンドを調理する。
「おはようガイ……って、朝ごはん?」
「ふああああぁ……おはようガイおにーさんって、ふわぁ! いい匂い!」
「おう、おはよう!」
ようやく起きだしてきた下僕レナノナとおはようの挨拶を交わす。
くくっ、昨日は晩飯食ったらすぐ寝室に押し込んでやったからな。
さぞ退屈だったろう!
やけにツヤツヤした顔を綺麗に洗って、身だしなみも整えて来たようだ。
教えたとおりに出来ている、感心な下僕たちだ。
俺は鼻歌を歌いながらテキパキとテーブルを組み立てると、綺麗に磨き上げたお皿を並べる。
ちっこいコイツらの飲み物は、魔界カルシウムたっぷりのミルクがいいだろう!
くくく……せいぜい成長痛に苦しむがいいぜ!!
「そんなのんびりと……ねえ、村に行かないの?」
ん?
何故かノナのヤツは早く俺を村に連れて行きたいようだ。
征服に意欲的なのは結構だが、それよりも……。
「なにを言ってやがる! 朝飯が一番大事だろうが!!
1日の活力は朝飯から! はい、”いただきます”だ!!」
「わ~い! いっただきま~すっ!」
「なんでコイツ、こういうとこだけ常識的なの?
……いただきます」
「くははははは! サラダもあるぜぇ! バランスよく食えよ!!」
こうして俺は、下僕たちとたっぷり朝食を楽しんだ。
*** ***
「さぁて! そろそろ行きますかねぇ!!」
焚火の跡をきれいに片づけた俺 (火事になるといけねぇからな!!)は、魔剣カオスブリンガーを腰に差すと高らかに宣言する。
「もう9の刻じゃない……レンド村はここから歩いて3時間はかかるわよ?」
「レナちゃん食べ過ぎて歩けない……」
昨日着せてやった防御力皆無な衣装に身を包み、心細そうに立ち尽くす下僕たち。
くくく……お前たちを守っていた対魔術コーティングはもう無いのだ。
いまから戦いに行く、さぞかし不安だろうなぁ?
ピコピコと嬉しそうに降られるしっぽが、せめてもの虚勢を感じさせて心地いいぜ!
「あ? そんなもの……転移魔術でひとっ飛びだろうが!!」
「は?」
「ふえっ?」
ブワン!
ぽかんとするふたりを緑色の転移魔法陣が包み、次の瞬間に俺たちはレンド村の上空に転移していた。
*** ***
「ほらほら、こっちだ元村長さん!」
「くっ、自分の足で歩きますからそんなに引っ張らないで」
ゲウスとデガに両肩を掴まれたノーラは、足取り重く村の広場に向かっていた。
彼女の背後には魔法使いキーツと副村長たちが従っており、逃げる隙など見つけられそうになかった。
「やあやあ! 親愛なる村人諸君!
安心したまえ、明日にはギルドの救援隊が到着するようだ!」
ゲウスは広場に到着すると、中央に設置された物見やぐらに登り、村中に響く声で高らかに宣言する。
おお、ようやく助けが来るのか!
私達……助かるのね!
おい、なぜノーラ村長がアイツらと?
ゲウスの声を聴いて、家から飛び出し広場に集まり始める村人たち。
その顔には安堵と困惑の表情が入り混じっている。
「皆さん! 実は……!」
「おっと、オマエは黙ってろ!
後でワシが可愛がってやるからな、ぐふふ」
「むぐっ!?」
村人に事情を説明しようとしたノーラだが、デガに口と両腕を押さえられあっさりと拘束されてしまう。
「そんな皆様に残念なお知らせだ……」
「”元”村長であるノーラ氏が、君たちに配給すべき食料を横領していたことが発覚した」
「ふん!」
ドササッ
キーツが黒パンや干し肉の束を無造作に放り投げる。
これはゲウス達が持参していた食料なのだが、”証拠”を突き付けられ、一部の村人の顔色が変わる。
「とまあ、そういう事で……副村長殿らの同意も得て、ノーラ氏を解任する事になったのだよ」
そ、そんな……ノーラ村長が俺たちを裏切ったのか?
信頼してたのに……騙されたぜ!
待って、村長はそんなことをする人じゃない! 現に私が乱暴されそうになったときにかばってもらったわ!
はっ! お前もアイツらに媚びて食料の分け前を貰ってたんだろ!?
なっ!? 何てこと言うの!
ゲウスの告発にざわつきだす村人たち。
ノーラを信頼する村人たちと、疑う村人たちの間で小競り合いが始まる。
(ああ、このままでは村が分裂してしまう……!)
「むう~っ、むぐうううううっ!?」
何とか弁明しようと体をよじるが、デガの力は強くとても振りほどけそうにない。
「このアマ、暴れるんじゃねぇ!」
バギッ!
デガの拳が右頬にめり込み、吹き飛ばされるノーラ。
(ああ、女神様……助けて)
気を失う寸前、神に祈るノーラ。
次の瞬間……空から黒い救世主が舞い降りた。
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