第7話 魔王俺、綺麗に着飾った下僕をゲットする

 

「ふお? ふえ?」

「え……なにこれ?」


 今まで着ていた薄汚れた布の服 (対魔術コーティング付き)を無惨にも剥がされ、新しい装備を着させられた二人が戸惑いの表情を浮かべている。


 とりあえず、そうだな……俺様渾身の作品を説明せねばなるまい!


「うわわ! ひらひらしてて綺麗……」


 そよ風にふわりと舞うネイビーカラーのスカートに、目を奪われているレナ。

 彼女のふわふわとした金髪が映えるよう、黒に近いネイビーカラーをメインにしたコーディネートだ。

 魔王学院の女子制服を参考に、しっかりと上半身を覆うぴったりとした長袖の制服。

 胸元の紅いリボンがワンポイントだ。

 膝丈のスカートに描かれた2本のラインと白いフリルが可愛らしさを演出する。

 足元はミスリル銀を編み込んだ黒いローファー。

 彼女の足にフィットするよう、ミリ単位での調整は完璧だ。


「んなっ? こ、これっ」


 そして小生意気な妹のノナの方だ。

 忌々しい女神の寵愛を受け、どこの世界でも魔王たちの天敵となる神官共の制服を、思いっきり可愛くアレンジしてやったぜ!

 大胆に胸元が開いた純白のローブ。

 少し膨らんだ肩の部分には両側に大きなリボンを付けてやった。

 ふわりと広がる白いスカートを赤いハートマークの刺繍が彩る。

 足元は同じくミスリル銀を編み込んだ白いローファー。


「くくっ……どぉだぁ?」


 ふわふわと可愛い系のレナにフォーマルな衣装を、気が強い生意気なノナにフリフリの可愛い衣装を着せてやったぜ!


 それぞれの特徴を打ち消す衣装を着せる暴挙!

 更にノナの奴にはこの後、魔界屈指の高難度メシ、カレーうどんを食わせてやる予定だ!

 白い衣装に汁を飛ばさず完食できるかなぁ!


 さあ、絶望に泣き叫ぶがいい!!


「うわぁ~! ノナちゃんとってもかわいいね♡」

「う、レナ姉だってすごくカッコいいわよ」

「えっへん!」


「な、なにいっ!?」


 予想外の反応に驚愕する。


 馬鹿な!


 ここは「こんな似合わない衣装を無理やり着せるなんて……く、悔しい!」と屈辱に震える場面ではないのか!?


 なにしろ幼馴染のミルラにフリッフリの可愛い衣装を着せてやった時は1週間くらい再起不能になっていたんだぞ!?

 オヤジに比肩する大魔王グレンデルの娘ですらひれ伏すこの虐待を……や、やはりコイツらユニークなのか?


 ジワリと冷や汗が俺の背中を濡らす。

 くっ……今後の事を考えて、早急にコイツらを下僕にした方がよさそうだ。

 俺は内心の焦りをおくびにも出さず、畳みかけるように宣言する。


「どうだ! 今までお前たちを守っていた対魔術コーティングはもはや無いぜェ!

 なにしろ、デザイン重視の装備だからなぁ!

 打撃防御力は僅か500! 対魔術防御もせいぜいグレートドラゴンのブレスを何とか弾けるくらいだぁ!」


「ふお? それって凄くない?」


「いやいや、じゅーぶんでしょ!?」


 何やら二人が強がっているが、そんな揺さぶりで動揺する俺様ではない。

 手早く『絶対服従』の魔術を組み上げると、十分な魔力を込めて発動させる。


「”ギアス”!! 喜べ、このガイ様の下僕第一号だぁ!!」


 バチイッ!!


 激しいスパークが二人の身体を包んだ。


 ***  ***


 なんとなんと、黒いおにーさんはとってもかわいい服をわたしたちにくれました。

 ごわごわと素肌に擦れていた安物の布の服とは違い、優しく包み込まれるような極上の肌触り。

 黒いローファーはぴったりとわたしの足裏にフィットし、金属製にもかかわらずまるで何も履いてないかのように軽いですっ!


 むふ~、しかもめっちゃかっこかわいいしっ!


 レナちゃんひそかに大人のおねーさんに憧れていたので、このデザインは大満足!!

 可愛いものに目がないノナちゃんも、着せてもらったフリフリ衣装に口元が緩んでます。


 しかもこの服の防御力が500だっておにーさん言ってたけど……。

 防具屋のジョンさんが扱っている一番高い鎧で防御力30だったような?


「うわぁ~! ノナちゃんとってもかわいいね♡」

「う、レナ姉だってすごくカッコいいわよ」

「えっへん!」


「な、なにいっ!?」


 わたしたちが喜んでいるのが意外だったのか、驚くおにーさん。

 ふふっ、ちょっと可愛いかも。


「”ギアス”!! 喜べよ、このガイ様の下僕第一号だぁ!!」


 バチイッ!!


 よく分からない魔法を掛けられたけど、もうわたしに恐怖はありません。

 レナちゃんセンサー (アホ毛)が告げているっ!



 この黒いおにーさんは、いい人だっ!!



「くっ、何であたしがあんたの下僕なんかにっ!」


 すっかりリラックスしちゃったわたしだけど、ノナちゃんはまだ涙目でおにーさんを睨んでいます。

 ふむぅ……昔からノナちゃんは用心深い性格だったもんね。


「ほいほい、ノナさんや」


 わたしはノナちゃんに近づくと、そっと耳打ちします。


「口ではいろいろ言ってるけど、この人は悪い人じゃないと思うよ?」


「で、でもっ! 今あたしたちを下僕にするって……」


「確かに変な魔法だったけど、わたしは何も感じないよ? ノナちゃんは?」


 何を隠そう、自慢の妹は毒とか魔法に超敏感なのです!

 むふ~。


「うっ……今は何も感じないけど、時間差で発動するタイプかも!」


 慎重派のノナちゃんは、まだ安心できないようです。

 わたしは優しくノナちゃんの肩を抱くと、さっきから考えていたとっておきのプランを披露します。


「それに……いう事を聞いといて、上手くこのおにーさんを誘導すれば」

「レンド村を救えるかもしれないよ?」


「うっ……それはそうかもしれないけどぉ」

「ときどきレナ姉が怖くなるわ」


「にひっ♪」


 こうしてわたしたちは、黒いおにーさんこと魔王(?)ガイ・バリアートさんの下僕になったのでした。

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