第6話 レナノナ、身ぐるみ剥がされる
「ふく? 綺麗な? わっと? ほわい?」
ガイと名乗ったマオウ (推定)の虐待?宣言に、またもや目を白黒させて混乱するレナ姉。
コイツ……今度は何をするつもりなの?
綺麗な服(意味深)……。
武器屋のデンツさんが話しているのを聞いたことがある。
(この人はあたしのほーまんな胸をちらちらと見てくるので多分えっち)
王都には綺麗に着飾った女の人がお金持ちのオジサンをおもてなしするお店があるらしい。
そのお店の地下ではさらに凄いおもてなし (想像不能)に従事させられてる女の人がいるとか!
コイツ、あたし達をその店に売り飛ばすつもりじゃ!?
くっ、あたしのていそーは素敵な王子様に捧げるって決めてるんだから!
なんとか隙を突いて逃げないと……そうは思うものの、目の前の男には相変わらずまったく隙が無くて。
「コオオオオオオオッ……来たれ! 魔装塊!」
カッッ!!
「!? しまった!」
僅かな時間だけれど、妄想に浸っていたのがマズかった。
あたし達を囲んでいた魔法陣が蒼く輝き、あたしの視界は光に包まれた。
*** ***
二人の身体が飛ばされないように支えながら、精緻な術式を組み上げていく。
食料の錬成に比べ、装備品の錬成はけた違いに難易度が高い。
防御力や追加効果を生み出す付与術式の調整も必要だし、何より直接肌にあたるインナー部分の錬成には細心の注意を払う必要がある。
直接金属を身に着けたら、あせもが出来ちまうからなぁ!
靴も重要である。
靴擦れなんかが出来た日にゃあ、下僕共が俺について来れなくなるだろうが!
(そうだな、コイツらの髪色も考慮して……)
探査魔術でレナとノナの採寸を一瞬で終えた俺は、二人に似合う服のイメージを組み上げる。
魔王ガイの記念すべき最初の下僕だ。
せいぜい飾り付けてやらねぇとなあ!!
「コオオオオオオオッ……来たれ! 魔装塊!」
カッッ!
ようやく完成した術式に魔力を込めた瞬間、大量のお湯がレナとノナの全身を包む。
お湯は人肌に暖められ、対象に掛けられた魔術の効果を洗い流す特殊な洗剤を溶け込ませている。
おっと、もちろん肌荒れを予防するモイスチャー成分がたっぷりなのは言うまでもねぇ。
ざああああああああっ
「おぷっ!? ふああ、気持ちい~~っ」
「ごぼごぼっ!? ふひゃぁ……はっ!? 堕ちてはダメ、堕ちてはダメよノナっ!」
お湯の中で苦しそうにもがくふたり。
くくく……無駄だぜぇ!
魔界最高の温泉から転移させた源泉かけ流しだ。
コイツらごときに耐えられる道理はねぇ!
ざぶんっ!
魔界の温泉は、二人の肌を覆っていた対魔術コーティング (推測)をきれいさっぱり洗い流す。
泥にまみれ黒ずんでいた手足は、輝くようなみずみずしい白さになる。
ズズッ……
(ん? なんだ?)
二人の身体の奥から、黒い澱みのようなものがにじみ出すと、地面に落ちて消える。
僅かに魔術的な波動を感じたが……おっと、些細な事を気にしている場合じゃねえ!
ここからが肝心である。
「くくっ……頼みの魔術コーティングを剥がされ、さぞかし不安だろうなぁ!
だが、これで終わりじゃねぇぜ!」
「オオオオオオオオオオオオオオッ!」
裂帛の気合と共に、最後の術式にありったけの魔力を込める。
これで、最後だっ!
くるくる……ぴゅりんっ!
まばゆいばかりの光が二人の全身を包み、俺の虐待第二法は完成した。
*** ***
黒いおにーさんの叫びと共に、大量のお湯がわたしとノナちゃんを包みます。
とても暖かくて気持ち良くて。
全然覚えていないけど、おかーさんに抱かれているみたいで。
(えへへっ)
思わず口元が緩んじゃいます。
モンスターに襲われた私たちを助けてくれた黒いおにーさん。
お腹いっぱい美味しいホットサンドを食べさせてくれただけでなく、夢にまで見た暖かいお風呂に入れてくれるなんて。
ノナちゃんは邪悪な敵っ!? って警戒してるみたいだけど、
このおにーさん、意外に良い人かも?
実はレナちゃんセンサー (アホ毛)は、悪い人を見分けてくれるのですっ!
むふ~。
物心付いた時には森の中に捨てられていたわたしたち。
村から街を転々とする中で何度もピンチがあったけど、ノナちゃんをわたしはこの力で守ってきたのだっ!
だから、わたしたちを保護し暖かい家を与えてくれたノーラさんに恩返しがしたい……もしかしてこのおにーさんに頼めばなんとかしてくれるんじゃ?
(ところで……)
気持ちのいいお湯の中で思いっきり手足を伸ばしながら、わたしはさっきのおにーさんの言葉を思い出します。
(たいまじゅつコーティングって、なに?)
思わず首を傾げた瞬間、まばゆい光が私たちを包みました。
*** ***
「くくく……完成だ」
「我ながら自分の才能が怖いぜぇ!」
魔装塊を錬成する魔術の光が消えたあと、そこには真新しい装備に身を包んだ獣人少女二人が立っていた。
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