第8話 下僕を手に入れたので村に侵攻する……その前に
「さて、記念すべき俺様の下僕1号2号になったお前たちに、とっておきのプレゼントをくれてやろう」
見違えるほど綺麗になり、対魔術耐性が大幅に落ちたと思われる二人の姿に満足した俺は、例のアイテムを懐から取り出す。
「「??」」
俺は一度手に入れたものは手放したくないタチだからな、しっかり管理させてもらうぜ!
神々の忘れ物と言われる秘金属グランミスリルで作られたリング、そいつを二人の首に取り付ける。
ぱちん!
ふっ、お似合いじゃねぇか!
「く、首輪? ガイおにーさん、あぶのーまる……」
「え、あっ!?
と、取れないっ!?
やっぱコイツ悪いヤツだわ!」
魔界の名工がその持てる技術を注ぎ込んだと言われるバリアート家の
ふむ、『下僕』としての教育が必要なようだなぁ!!
ギンッ!
「「ひうっ!?」」
俺は双眸に闇の魔力を込めると、二人を睨め付ける。
「ソイツは魔界の名工が作った逸品でウチの家宝だ。
膨大な魔力がグランミスリルの結晶に織り込まれている。
お前たちがガイ様の所有物になった証であり……」
にやり
「つまり、もう勝手に死ぬことすらできなくなったという事だ。
お前たちに危害を加える者がいたら……このガイ様が守ってやる。
お前たちを『虐待』していいのは、俺様だけだという事だ。 レナ、ノナ」
「「…………」」
さあどうだ!
自分が他人の所有物となって大事に扱われる感覚はよぉ!
お前らはもう勝手にふらふらどっかに行くことはできねぇ!
魔王ガイ様の下僕として、何不自由ない怠惰な生活を送るんだからなぁ!!
「「…………ぷっ」」
何だとっ!?
「な、なぜこんな扱いをされて笑う!? お前らやはりユニークか!?」
「「ふふっ、あはははははははははっ!」」
涙を流して笑い転げるレナとノナ。
思い通りのリアクションを取らないコイツらを畏怖しつつも、心のどこかで楽しみ始めている俺なのだった。
*** ***
「あはははははっ、お腹苦しいっ~
やっぱコイツ、変なヤツだわ!
レナ姉の人を見る目、相変わらず凄いわね!」
「むふ~! でしょ!」
ドヤ顔で仁王立ちするレナ姉。
明日の朝を無事迎えられるだろうか?
ここしばらく胃を蝕んでいた緊張感から解放され、なんかとにかく笑えてくる。
「は~っ、笑った笑った!」
ひとしきり笑ったあたしは、故郷のレンド村を救うため頭を切り替える。
出来るだけ悪い笑みを浮かべ、すっかりお気に入りとなった白いスカートをひるがえしながら、あたしはガイに向き直る。
「ちょっとガイ! アンタ虐待が趣味なんでしょ?
か弱い人間どもが大勢住んでるレンドって村がこの近くにあるわよ! 案内したげるわ!!」
びしりと人差し指を突き付ける。
「ふおっ!? ノナちゃん切り替えはやっ!?」
「ほぅ……」
あたしのセリフが意外だったのか、少し驚いた表情を浮かべるガイ。
だけど、すぐに邪悪な笑みを浮かべる。
「いい心がけだ! ノナ!!
だがなぁ!!」
地面に刺さったままの剣(凄いヤバそうなもやもやがまとわりついてるんだけど、大丈夫なのかしら)を引き抜いたガイは、今にも沈もうとしている夕陽にその切っ先を向けた。
いつの間にか、夜のとばりが辺りを覆い始めている。
「もう日が落ちるぜぇ! 1日9時間の睡眠が明日の活力を生むんだよぉ!
つー事でもう寝るぞ! 村に行くのは明日だぁ!!」
「「……は?」」
邪悪極まりない風貌から放たれたやけに常識的な言葉に、またまたポカンと立ち尽くしてしまうあたしたちなのだった。
*** ***
「よしよし、俺様の魔王計画も順調じゃねぇか!」
愛用しているコテージ (魔界で最も人気があるヘルベル社製)を空間のはざまから取り出した俺は、日記をつけるとパジャマに着替え、ふかふかのベッドに飛び込んだ。
ちなみにこのコテージの間取りは3LDKなので、俺が下僕共と同じ部屋で寝るなんてことは無い。
姉妹仲良く己の境遇を嘆き合うがいいぜぇ!
「おやすみなさい、ガイおにーさん」
「お、おやすみっ」
「おう、おやすみ!」
下僕との挨拶も欠かさない。
大事な事だぜ!
面白い下僕を手に入れ、村への侵攻ルートも確立した。
大満足の侵攻初日を終えた俺に、心地よい睡魔が襲ってくる。
良い虐待には良い睡眠だ。
そのまま睡魔に身を委ねた俺は、連絡用の魔鏡に着信サインが点滅していることに気付かなかった。
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