第2章 新人魔王俺、手始めに村を侵略し恐怖政治を敷く

第5話 か弱い少女たちの防御力を下げる残虐行為

 

 ということで、人間共への初虐待を終えた俺は愉悦に打ち震えていた。


 あつあつのホットサンドを無理やりその小さな口に押し込まれたレナとノナは、涙を流しながら地面に座り込んでいる。


 先ほどまで栄養不足のせいか土気色をしていた頬には赤みが差し、カロリーが全身を巡っているのだろう、うっすらと汗をかいている。


 くくっ……メシの消化は思ったよりも体力を使うからな、コイツらはもう逃げられまい。

 さっそく俺様の下僕第1号にして、次はコイツらの村を……。


 俺が次なる虐待計画を練っていると、姉のレナが予想外の行動に出る。


「……えっと、おかわりちょーだい? 黒いおにーさん」


「んなあっ!?」


 ほっそりとした右手をこちらに伸ばし、追加のホットサンドを要求してきたのだ。


 ば、馬鹿なっ!?

 あれほどの虐待を受けてなお、おかわりをする気力があるだとっ!?


 魔王候補を志して初めて、俺は心の底から驚愕していた。

 虐待の特訓で利用した魔獣ヘルハンドですら、二撃目に耐えた個体はいなかった。


 Gランク世界と聞いていたが……コイツ、”ユニーク”か?


 いや焦るなガイ!


 オマエは最強の虐待魔王を目指すのだろう!

 少々防御力が高い相手が現れたくらいで取り乱すとは……オヤジが泣くぜ?


「ふ、ふっ……いい度胸じゃねぇかぁ!

 それなら、コイツを食らえっ!」


「きゃ~っ♡」


 次はツナサンドだ!!



 ***  ***


「はむはむ……美味しい~っ♪」


 のんきにツナサンドにかぶりつくレナ姉。

 くっ……とってもとってもおいしそうだけど、あたしはコイツの策略には乗らないんだからね!


 突然あたしたちの前に姿を現した謎の男。

 よく分からない魔法でシルバーウルフを一掃すると、あたしたちを虐待すると宣言してきた。


 凄くトゲトゲした真っ黒な鎧を着ているし、瞳は真っ赤で怖いし髪の毛もカラスみたいに黒いしっ!

 ……顔はちょっとカッコいいけど……ううんっ、絶対悪者に違いないわっ!!

 どこかで聞いた『マオウ』ってヤツだったり!


 あのホットサンドにはアブないクスリが入っていて、あたし達をドレイにするつもりなんだわ。

 レナ姉は何を食べてもお腹を壊さない鉄の胃袋持ちだから大丈夫だろうけど、なんとかコイツの隙を探さないと……。


 くうぅぅぅ……


 ホットサンドのおかわりを所望する軟弱な胃にグーパンを入れながら、あたしは慎重にヤツの様子を観察する。


 うっ……コイツまったく隙が無い……やっぱあたしたちはドレイとして首輪に繋がれ、薄暗い地下牢で飼われちゃうのね?


 あたしの思考がぐるぐるとあぶない妄想に沈みかけた瞬間、ヤツの紅い目が何かを思いついたように輝いた。



 ***  ***


 姉の方はすっかり魔食塊であるホットサンドの魔力に堕ちたようだが、妹の方はまだ抵抗をあきらめていないらしい。

 その大きな目に涙を溜めながら、健気に俺を睨んでくる。


 いいねぇ、その視線、ゾクゾクするぜ……ん?


 それならたまごサンドをお見舞いしてやろうか?

 そう考えていた俺は、とあることに気付く。


 よく見ると二人の手足は泥で汚れ、身に着けている薄汚れた布の服は所々穴が開いている。


(な、なるほどぉ!!)


 その瞬間、俺の脳裏に天啓走る!


 小さい頃、オヤジの書斎にあった古文書で読んだことがあるぞ。

 極東ファーイーストと呼ばれる世界では、真の強敵に出会った時、装甲 (装備品)をパージし、大地と一体化することで心を研ぎ澄まし、生と死の間にある紙一重の勝機をつかむシチューニ・カツ (なんか旨そうだな!)という秘奥義があるらしい。


 全身にまぶしている泥は、対魔術コーティングに違いない。


 ひ弱な獣人族と思っていたが……自身の弱さを逆手に取り、ここまでの奥義を身に着けているとはなぁ!!


「「??」」


 こくん、と首をかしげる可愛らしい仕草も俺を誘い込む罠に見えてくる。

 中途半端な攻撃は危険だ……まだ完成の域に達しているとは言えないが、虐待術二法、アレを使うしかねぇ!!


「はああああああああああああああああっ!!」


 裂帛の気合と共に、全てのチカラを解放する。


 ブワンッ


 直径100メートルはある巨大な魔法陣が周囲の森ごと俺たちを包む。


「きゃあっ!? な、なんて魔力なのっ!?」

「むぐっ!? もぐもく(は、早くツナサンドを食べきって逃げなきゃ~っ)」


 荒れ狂う魔力の暴風になすすべもなく翻弄される二人。


(おっと、せっかくの虐待対象に怪我をされちゃいけねえな)


 魔力の奔流に吹き飛ばされそうになるふたりをそっと右手で抑え込む。


「さぁて……お前らには新たな『虐待』をくれてやるぜぇ!」


「「ひいっ」」


 俺の腕の中で恐怖に縮こまるレナとノナ。


「そのボロボロの服に埋め込まれた秘奥義で、起死回生の一撃を放つつもりだろうか、そうはいかねぇ!」

「まずはその装甲を剥いで……綺麗な服を着せてやるぜぇ!!」

「ガイ・バリアートの名にかけてぇ!!」


「「い、いやああああああああっっ……って、は?」」


 絶望的な俺の虐待宣言に、なぜかまたポカンとした表情を浮かべるレナとノナなのであった。

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