第2話 少女の口にお腹いっぱい食べモノを押し込む非道行為

 

「メシ? ごはん? わっと? ほわい?」


 俺様の『虐待』宣言に、頭の上に沢山のハテナを浮かべわたわたと混乱するレナ。


 くくっ、腹いっぱい飯を食わされる……それがどれだけ恐ろしい事か、まだよく分かっていないようだ。

 可愛いツラをしているが、少々おつむは足りないな。


「な、な……なにを言うかと思ったら!

 あたし達をからかっているのね!

 ち、近づいたら噛みついてやるんだから」


「ただでは殺されないわよ!」


 気丈にも立ち上がり、姉をかばって前に出るレナ。

 だがその右脚はぷるぷると震えている。


 気の強い女は嫌いじゃない。

 ノナの態度を気に入った俺は、にやりと壮絶な笑みを浮かべる。


「ひっ……」


 びくりと震え、息を飲むノナ。

 くくっ、良い反応だ。


「殺す、なんてつまんねぇことするわけねェだろ?」


 百聞は一見に如かず。

 俺はコイツに”アレ”を見せてやることにした。


「ふっ……はあああっ!!」


 ブワンッ!


 莫大な魔力が、精緻な術式に注ぎ込まれていく。


「なっ、なにを?」


 空中に出現した紫色の魔法陣が輝きを増す。


 ズズズズズッ……。


 大地に満ちるマナが具現化し、魔法陣に吸い込まれていく。

 俺は大好物であるアレの姿を脳内に思い浮かべると、最後の仕上げとばかりに両腕を振り上げる。


「来たれ! 禁断の魔食塊よっ!」


 カッッ!


「まぶしっ……こ、これはっ!?」


 成功だ。

 自分の力が恐ろしいぜ。


 たっぷりのひき肉にパン粉とスパイスを混ぜ、闇の炎でこんがりと焼き上げる。

 直径20センチほどのパティを上下から挟み込む彩りはシャキシャキのレタス。

 薄く伸ばしたチーズがアクセントをつけ、カリッと香ばしく焼いた2枚のパンが魅惑の地層を織りなす。


「こ、これって…………もしかしてホットサンド?」


 驚くというより困惑した表情で口をかしげるノナ。


 な!?

 意外な反応に右の眉を跳ね上げる。


 これほどの神業を前に落ち着いているだと!?

 この女、意外に出来るのか?


 思わず身構えた俺の耳に、盛大な腹の音が届く。


 ぐううううううっ


「いいにおい、美味しそう……」


 ふわりと漂った肉汁の魔臭に心奪われたのだろう、目を潤ませだらしなく口を開けるレナ。


 よしっ!

 まずはレナ、お前からだ!


 むんずっ!


 好機が訪れた事を悟った俺は、宙に浮かぶホットサンドを引っ掴むと半開きのレナの口に容赦なく押し込む。


 むぎゅっ!!


「むにゅうううううううううっ!?」


 妙な叫び声をあげ、目を白黒させるレナ。


「ははははははっ!!

 無理をせずゆっくり咀嚼しな!

 息が詰まっちまうぞ?」


「はふっ……もぐもぐもぐ」


 こくこくと頷くと、ゆっくりと口を動かしホットサンドを飲み込むレナ。

 その瞬間、レナの目が大きく見開かれた。


「あふっ……美味しい、美味しいよおおおおおおおおおおおっ!?」


 頬を紅潮させ、口の端からヨダレすら垂らしながら地面に倒れ込むレナ。


 空腹は最高の調味料というからな!

 すきっ腹に、魔界に並ぶものなしと言われる最高の美味をぶち込んでやったのだ!

 まさに外道!


 涙を流しながら、ぴくぴくと痙攣するレナ。

 この反応……最高だぜぇ!


 昏い喜びに全身を震わせる俺。

 これで姉の方は煉獄に”堕ちた”だろう。


「さぁて! 次はお前の番だ、ノナ!」


「……ひいっ!?」


 ぽかんと口を開け、呆けていたノナが俺の言葉で我に返り、尻尾を逆立たせる。


 カッッ!


 俺は両手におかわりホットサンド (ダブルパティ)を出現させ、立ち尽くすノナに近づいて行った。



 ***  ***


(何が起きたの? レナ姉が一瞬でっ……!)

(ていうかレナ姉ったら幸せそうな顔でもぐもぐしちゃって、まずはヨダレを拭きなさいよ)

(アイツが持ってるのって、まさかただの美味しいホットサンドなのかな……いや! 駄目よノナ!)

(あんなの美味しいごはん(隠語)に決まってるわ!! きっとあれやこれやと口には出せないヤバいクスリが入っているに違いない……)

(アレを口にしたが最後、ヘブン(意味深)に上り詰めたあたしはアイツの言いなりになり首輪を付けられて最後はッ)


 ***  ***


 何を考えているのか、頬を染めてブツブツとつぶやきだすノナ。

 ふっ、可愛い口が半開きだぜぇ!


 むぎゅっ!!


 すかさず2つのホットサンド (ダブルパティ)を口に押し込む。


「むがっ!?」

「ぐぐぐぐっ……」


 最初は涙目で抵抗していたものの、そのままでは窒息すると悟ったのか、小さな喉がゆっくりと動く。


「もぐもぐっ……あああああああっ、溢れ出る肉汁が美味しすぎるっ!!」


 ぱたり。


 気丈に振舞っていた妹の方も、あっさりと即堕ちする。


「ははははははっ! 素晴らしい!!」


 そう、俺が求めていたのはこれなのだっ!


 腹をすかせたガキどもを旨いメシで強制的に満腹にする。

 食糧を探しに行く気力が無くなったコイツらは、一生俺の元で飯に困らない堕落的な生活を送ることになるのだ!!


 なんと非道な虐待だろうかっ!!


 ……ふぅ、少し興奮しすぎたかもしれない。

 なぜ俺がここまで極悪非道な魔王となったのか、説明が必要だろう。

 話は俺の幼少期までさかのぼる。

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