二
あの日から二日前のことを話したい。
彼は奇人だった。彼とは小学校からの幼馴染だったが、高一までは車窓から見た十三本目の並木ほど興趣も湧かず、名前すらも憶えていなかった。しかし高二になって、彼がクラスで初めて詩の全国コンクールに提出したのだ。そこで彼が文芸部だと知り、この時から、ようやく薄ぼんやりと彼の名前が浮かんだ。
彼の名前は、アセビだった。
しかし、全く違うジャンルゆえに興趣はさほど湧かなかった。
あの日から二日前のこと。学園祭で全員が合唱することになったが、私はピアノを弾くように言われた。その当日、私は魔が差した。原曲に即興で私のアレンジを加えて演奏した。――どうせ気づかない。――全員が気付くほど律動は乱れず、音楽教師でさえも勘付かなかった。しかし、彼からはっきりと謗りを受けることになった。
「正しく弾けよ」
学園祭から翌日すれ違う時に、彼はそう呟いてきた。
その言葉だけで甚振らせるほど、私は立ち尽くした。ちゃんと弾け、というならばまだ分かるが、この発言は私のアレンジだと明らかに気づいていた。
振り返って声を掛けようとしたが、彼の背中の輪郭を脳裏になぞることはできなかった。
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